そして人魚は軍人になった
――本日は、インタビューに応じていただき、ありがとうございます。
「いえいえ」
――椅子、大丈夫ですか?
「大丈夫。水槽の方がうれしいけど、もうこちらも長いし(笑)」
――今すぐ水槽を用意させます。
「で、何のインタビューなの」
――では早速。子供時代のお話から伺おうと思います。
「そうね……。うちは結構裕福な家庭だったわ。高校までは海の中にいたんだけど、ずっと私立。毎年海外に連れてってもらってた」
――海外っていうのは。
「あ、陸上のこと」
――なるほど。将来の夢とか、ありましたか。
「私、結構勝ち気な子供だったのよ。男の子と喧嘩して、言い負かしたりもしょっちゅうで。私、軍人さんになりたかった」
――軍人さん。
「そう。小さい頃だけどね」
――どういうところに憧れたのですか。
「そのころ、海と陸の戦争はまだ始まっていなかったけど、ちょっとした緊張状態にはなっていたの。それで、軍事パレードをやってたから、友達と見に行ったら、かっこよくて。若い男が、一心に前を向いて、綺麗に泳いでて……」
――今の旦那さんも、軍に勤めていらっしゃいますね。
「戦争が始まってすぐ、大学で出会ったの。彼は陸側の兵士で、私は海側のお嬢様。禁断の恋ってやつ?」
――ははあ。あっ。水槽が届きましたが。
「彼とはいろんな話をしたわ。お互いのこと、仕事のこと……」
――仕事のこと。
「ええ。それが何?」
「引っ捕らえろ!」インタビュアーが号令をかけた。
四方八方から男たちが飛びかかり、彼女を水槽へ押し込む。水槽に入っているのは、皮膚を溶かす酸で……。
海側のスパイは葬り去られた。かくして、人魚は軍人になった。