序章
小説は全てフィクションとなっております。
気分を害する表現も含んでおりますのでご注意下さい。
※荒らし、誹謗中傷等はご遠慮下さい。
桜の花びらが吹き荒ぶ。
風の強い日だった。
ここなら誰も来ないだろう、そう思い桜の大樹に腰掛ける。暖かい日差しに、その風はまだ冷たさを残していた。遠くから聞こえる隊員の声に聞こえないふりをし、まだ新しい隊服を汚さないよう黒の外套を敷き目を閉じた。
目に浮かぶのは自分と唯一血の繋がった一人の弟の姿。彼は今何をしているだろうか。
ふと足音が近づいてくるのが聞こえる。
「──こんなところで一体何をしているのか、お聞かせ願いましょうか月影 紘隊員」
そうしてしばらくしていると目の前に影が差し、凛とした声が聞こえてくる。ああやはり気づいたのは彼女だけだったと思いながら、起きていることが気取られぬようにじっと堪える。周囲に利き耳を立てても先程までの他の隊員たちの声は聞こえない。
「起きなさいと言っているのが聞こえないの──」
彼女の声が近くなったと同時に伸ばされた腕を掴み引き寄せる。え、と短くあげた声にようやく瞳を開けると眼前に驚いた彼女の顔が映った。ああ、ようやく……、
「ようやく捕まえた」
この時を待ち侘びた。彼女の黒い真珠のような綺麗な瞳を捉えると、俺はそのまま彼女に口付けた。
彼女の心の声はまだ聴こえない。これからどう転ぶか。
直後、頬に衝撃が走る、それが彼女──神楽木 桜絆との最初の記憶だった。