お疲れでもちゃんと帰ってきます
カイル様が新しいぬいぐるみを下さった。
真っ黒の狼だけど、オーレンさんにはヘルハウンドに見えるらしい。
私には、大きくて凛々しい顔に見えるからカイル様に似てると思った。
メッセージと言われて渡された四つ折りの便箋には嬉しくなった。
便箋には、
ー 愛しいルーナへ ー
不在にしてすまない。
代わりにぬいぐるみを贈る。
カイル
と書いてあった。
忙しい中でも私のことを思ってくれるのが嬉しかった。
カイル様が出発してもう3日になる。
御者の方は住み込みではないので自宅療養中だ。
マシューさんは住み込みだから邸で休んでいる。
今日は料理長さんと一緒にクッキーを焼いた。
クッキーを護衛にきて下さった騎士団の方々に差し入れした。
料理長さんと作ったから、美味しくはできた。
これならカイル様にも出せると思う。
今日帰るとは思わないけど一応ラッピングしておいた。
午後から、ハンナさんやメイドさん達とポプリを作る。
その時に、手作りクッキーも出した。
事件のあった日に買い物に行こうとしたのはポプリの為の香りのオイルを買いに行く為だった。
結局買えず、今日になってしまった。
マシューさんが以前から乾燥させていた薔薇に皆がそれぞれ好きな匂いに香り付けしていった。
メイドさん達とポプリを作りながら話をしていると、カイル様のお邸は働きやすいそうだ。
お客様が来た時は少し忙しいそうだが、普段はそうでもないようだった。
「ルーナ様が奥方様で私達は幸運です。」
「それに、料理長さんもカイル様が毎日帰ってくるようになり、作りがいがあると喜んでいますよ。全てルーナ様のおかげですね。」
メイドさんやハンナさんが、凄く私を持ち上げてくれる。
カイル様の邸に来るまでこんなことなかったので、そう言われると照れ臭く感じてしまう。
「私はまだまだ至らないところがありますけど、これからもよろしくお願いします。」
そうにこやかに、メイドさん達とポプリ作りを楽しんでいると、カイル様が帰ってらしたと、邸の警備についている騎士団の方々が教えてくれた。
カイル様は私達が庭でポプリ作りをしているのを聞いたのか、玄関に行かず、私達の方にやって来た。
カイル様の姿が見えると、ハンナさんやメイドさん達はガタタッと席を立つ。
私も立ち上がり、カイル様の側に近づいた。
「お帰りなさいませ、カイル様。」
「今帰ったぞルーナ、問題ないか?」
カイル様はすかさず抱擁してきた。
「はい、皆様がお守りして下さいました。」
「そうか、ここで何をしているのだ?」
「ポプリを作ってます。カイル様はどの香りがお好きですか?部屋に置きますよ。」
「香りを気にしたことはない。ルーナの気に入った好きな香りにしてくれ。」
カイル様は、テーブルの上のポプリやクッキーを見ていた。
「菓子もあるのか?」
「私が料理長さんと作りました。騎士団の方々やハンナさん達と食べたのです。」
「ルーナが作ったのか?」
「はい。あの、実はですね、カイル様の分もあるのです。」
「俺の分も作ってくれたのか?」
「お帰りがわからなかったので、ラッピングして、しまってあります。すぐにお召し上がりになりますか?」
無表情だったカイル様の顔が、少し笑顔になった。
「土産に焼き菓子も買ってきたが、ルーナの菓子があるならこれはお前達が食べなさい。」
そう言いながら、カイル様は脇に抱えている紙袋から、一箱出し、テーブルの上においた。
ハンナさんやメイドさん達はカイル様にお礼を言った。
「まだここにいるのか?着替えを手伝ってくれないか。」
「はい。ハンナさん、皆様、すみません。片付けをお願いします。」
「ええ、大丈夫ですよ。カイル様、オーレンさんにお茶をお頼みしておきますね。」
ハンナさんがそう言うと、カイル様は、頼んだぞ、と言い私を連れて部屋に戻った。
部屋につくと、騎士の隊服を脱ぎいつものラフな服に着替えた。
「鎧は脱いできたのですか?」
「実は、午前には街の騎士団に戻ったが、すぐに帰れなかったのだ。」
「そうだったんですか。」
カイル様の服をまとめていると、後ろから抱き締めてきた。
いつもカイル様は後ろから抱き締めてくるから、この体勢が好きなのだろうかと思ってしまう。
「帰ってきたのに、キスはしないのか?」
「す、すぐにオーレンさんが来ますよ。」
そう言うと、すぐに唇を奪われる。
「明日は休みがとれたから、二人でゆっくりするか。」
「はい、ガゼボでお昼寝しましょうね。」
「俺が居なくて寂しくなかったか?」
「寂しかったですよ。早く会いたかったです。」
そう言うと、カイル様は満足そうな顔になった。
「作ったお菓子を取ってきますからお待ち下さいね。」
そう言い、笑顔になったカイル様を残し部屋を出た。
厨房へ行く途中、オーレンさんに会い、お茶と私のラッピングしたお菓子も持ってきてくれていた。
「ルーナ様、お夕食はどうしましょうか。」
「カイル様がお帰りですので、二人で晩餐にします。ドレスにも着替えますね。」
「畏まりました。」
そのまま、お茶を受け取り部屋に戻るとカイル様はすでにソファーに転がっていた。
「カイル様、夜は晩餐にしますね。ドレスにも着替えようと思うのですが。」
「そうだな。俺も正装しよう。」
ソファーに転がっているカイル様に手作りクッキーを出すと、旨い、と言って嬉しそうに食べてくれた。
「カイル様、黒い狼のぬいぐるみをありがとうございます。とっても可愛いです。」
「そうか、あとで見せてくれ。時間がなかったから見てないのだ。」
どうやら、忙しく自分で買いに行けなかった為、部下の方に買い物のメモを渡し店にメモを持って行かせたらしい。
見てないということは、もしかして、オーレンさんみたいにヘルハウンドというかしらと思ってしまった。
「他に土産もある。」
カイル様の隣に座り、渡された紙袋を見ると、お土産の箱が何個もあった。
開けると、リボンに香水瓶にと買ってきてくれていた。
「リボンもこんなに買って下さったのですか?」
「似合いそうと思って買ってきた。」
赤にピンクにオレンジにと何種類もあった。
カイル様は、お茶を飲んだら、ゴロンと私の膝の上に転がってきた。
「しばらくこのままでいる。時間になったら起こしてくれ。」
「はい。」
カイル様はお疲れなのか、支度の時間まで私の膝の上で眠っていた。




