執事は見た 3
ルーナ様が無事に帰って来て、本当に良かった。
しかし、翌日にはすぐにカイル様が王都へ行かねばならない。
ルーナ様は大丈夫だろうかと思っていると、今朝からカイル様は激しくルーナ様に抱きついた。
騎士団の方々も驚いている。
ルーナ様が一時とはいえ拐われて、少々カイル様も動揺からか、おかしく見えます。
それともルーナ様が好き過ぎて、おかしいのでしょうか。
カイル様が、やっとルーナ様を離し、玄関から出て行くと、ルーナ様がその場にいた騎士団の方々に、頭を下げた。
「すみません、驚かれましたよね。」
まあ、先ほどルーナ様がカイル様の耳元で何か言ったのでしょう。
恐らくそれでカイル様のスイッチが入ったと思います。
騎士団の方々も、カイル様の溺愛ぶりに驚いてますね。
「ご迷惑おかけしないようにします。護衛のほうよろしくお願いいたします。」
ルーナ様は、騎士団の方々に挨拶をして、部屋へ戻った。
今日は邸でゆっくり過ごすようだ。
部屋にお茶を持って行くと、一生懸命刺繍をしていた。
「ルーナ様、良ければ、ハンナさんを呼びましょうか?」
「大丈夫です。刺繍の本もありますし、ハンナさんもお疲れです。どうかお休みして下さい。」
お茶をおき、チラリと刺繍を見るとカイル様のイニシャルが見えました。
ハンカチに銀糸で刺繍しているのは、カイル様の為なのでしょう。
昼になると、交代の騎士がやって来ました。
その者が、カイル様に頼まれたと言われて大きなぬいぐるみを持って来ました。
見て驚きました。
真っ黒な犬に真っ赤な目。
これは、ヘルハウンドでは?
「…これをカイル様から?」
「…はい、団長が書いた紙を店の者に渡したらこれが出て来ました。団長からルーナ様当てのメッセージも預かってます。」
メッセージカードは持ってなかったのでしょうか。
普通の便箋に書いてますね。
「オーレンさん、どうされました?」
「ルーナ様、カイル様からぬいぐるみがきたのですが…」
ルーナ様は、真っ黒なヘルハウンドのようなぬいぐるみを見て嬉しそうにしました。
「まあ、黒い狼のぬいぐるみですね。これをカイル様から?」
「黒い狼ですか?ヘルハウンドではないのですか?」
「ち、違うと思います。リボンもついてますし、もしかして前に下さった灰色の狼とお揃いになるようにして下さったのでしょうか?」
「メッセージもあります。どうぞこちらです。」
ルーナ様は、メッセージを読むと、大事にします、と言いぬいぐるみと一緒に抱き締めていた。
嬉しいことが書いてあったのでしょう。
微笑んでいます。
でも、部屋にあるぬいぐるみより、大きくて迫力があるのですが、大丈夫でしょうか。
とてもお揃いには見えませんが。
怖くないのでしょうか。
ルーナ様は午後からは、薔薇園の水やりに行かれました。
怪我をしたマシューの代わりを少しでもしょうと思っているのでしょう。
真面目でお優しい方です。
夕食は簡単なものをということで、部屋でとられた。
ハンナさんがいうには、ベッドの上には灰色の可愛い狼のぬいぐるみの横にあのヘルハウンドのような黒い狼のぬいぐるみが並べてあったらしい。
「ハンナさん、今日は夜の支度が早いのですね。」
「ルーナ様はもうお休みになられるそうです。今夜は支度も一人ですると言われて、私にお休みするように言われましたわ。」
「ハンナさんも大丈夫ですか?」
「私も恐ろしかったですわ。ですがルーナ様が気丈に振る舞おうとしてますので、私もまだまだ頑張りますわ。」
確かに、ルーナ様は頑張っていますね。
カイル様の前では違うのかもしれませんが、我々の前では泣き言ひとつ言いませんでした。
早くカイル様がお帰りになるのを、お祈りします。




