助けてくれる腕
「オルセン!ルーナさんを離せ!」
ヒューバート様の馬は速く、何とかオルセンの馬に追い付いた。
でもオルセンは止まらない。
ヒューバート様も、きっと私が乗っているから無理やり止められないのだろうと思った。
でも、ヒューバート様が追い付いてから少しずつだが、オルセンの馬が遅くなっている気がする。
「ヒューバート様!私飛び降ります!止めて下さい!」
オルセンに片腕を掴まれていたが、馬を止めてくれたら飛び降りようと思った。
でも、ヒューバート様は無理だとわかっていたのだろう。
私は懐に入れていたカイル様に渡された短剣に手をかけた。
その時、私を呼ぶ声がした。
すぐにわかってしまった。
カイル様だ。
「カイル様ーっ!」
思わず叫んでしまっていた。
ヒューバート様が馬のスピードを落としてくれたおかげで、きっとカイル様が追い付いたのだろうと思った。
「ヒューバート!ルーナの馬を止めろ!」
「ルーナさんが馬から落ちますよ!」
やっぱり私が捕まっているせいで、馬を止められないんだ。
私はカイル様に渡された短剣を出して、オルセンに突きつけた。
「馬を止めて下さい!」
オルセンは、余計に腹が立ったのか、私の髪を掴んだ。
「キャア!」
私は掴まれた髪を持っている短剣で斬った。
その一瞬、オルセンの顔がグッと眉間にシワを寄せた。
私は本当に飛び降りようとすると、長い腕が私に伸びた。
カイル様が私をオルセンの馬から奪い返してくれたのだ。
「ルーナ!」
「カイル様っ…。」
カイル様が、力強く抱き締めてくれ、私もカイル様に抱きついていた。
この腕の中が大好きなのだ。
カイル様が馬を止めて、降ろしてくれた。
「ここから動くなよ。オルセンを捕縛する。」
「はい。」
本当は怖くて、行ってほしくなかった。
でも、カイル様にはやるべきことがある。
オルセンとヒューバート様を見ると、オルセンは背中から血を流している。
あの時自分の髪を切った時、眉間にシワを寄せたのはもしかしたら、ヒューバート様がオルセンを刺したのかと思った。
それで、あの時カイル様が私を奪い返せたのかと思った。
少し後から来た騎士団の方々もすぐに合流してきた。
「団長!リーマスの居場所は聞いてます!すぐに行けます!」
騎士の一人が近づき、カイル様に言った。
「ルーナ、すぐに行かなくてはならない。部下と一緒に騎士団で待ってなさい。」
「帰って来ますよね?」
「当たり前だ。だが、リーマスに逃げられる前にすぐに行かねばならん。」
「…気をつけて下さい…」
カイル様は、ヒューバート様と騎士団の方々とオルセンが連れていた男達が去って行った方角に馬に乗り向かって行った。
向こうに何があるのか知っているのだろうか。
でも、本当は行ってほしくなかった。
側にいて欲しい。
でも、我が儘は言えなかった。
「ルーナ様、我々と騎士団に行きましょう。必ずお守りします。」
「はい、お願いします。あの、マシューさんやハンナさん達は大丈夫ですか?義兄上は?」
「全員保護してます。騎士団でお会いできますよ。」
胸を撫で下ろしホッとした。
騎士の方々が送って下さり、カイル様の第3騎士団についた。
救護室に行くと、マシューさん達もおり、ベッドには義兄上がいた。
「ルーナ様!ご無事で良かったですわ!」
ハンナさんが涙を流しかけよって来た。
「ハンナさん、ご無事ですか。私のせいですみません。皆様になんとお詫びをしたらいいのか。」
皆が痛々しい姿になっているのに、誰も私を責めなかった。
そもそも、何故私が誘拐されたのかもわからない。
「ルーナ様、ご自分を責めないで下さい。ルーナ様は何も悪くありません。」
「本当にすみません。」
マシューさんはそう言うけど、腕を斬られ、御者は足に傷を追い、今は薬で眠っている。
ベッドの上の義兄上から、うっ、と声が聞こえ目が覚めたかと思い、義兄上に近付くと義兄上が私の顔を見た。
「義兄上、大丈夫ですか?」
「…ルーナ、無事か?」
「はい、お助け下さったのですか?」
「ルーナに何かあれば、ファリアス公爵に殺されるからな。」
義兄上は、天井を見ながら淡々と言った。
その時、バーナード様がやって来た。
「皆、無事か!?」
バーナード様は、私達や義兄上達の無事を確認した後、状況を聞いて来た。
私はあったことを話した。
バーナード様は、リーマスという方の名前を聞くと顔をしかめていた。
そして、カイル様が帰って来るまで私は執務室で待つことにした。
ハンナさんも私と一緒にカイル様が帰って来るのを待ってくれた。




