襲われた馬車
私達の馬車が襲われたのだ。
御者が急に叫び声を上げた。
マシューさんが、馬車の中から御者を見ると、御者の足にナイフが刺さっているという。
私とハンナさんは叫び声に驚いて二人で抱き合うようにしがみついていた。
「ルーナ!早く逃げるんだ!」
義兄上が、馬車の外から叫ぶように言った。
「馬車の中にいるのは、ファリアス公爵夫人だ!早く第3騎士団に応援を!近くにいるはずだ!」
義兄上が剣を抜き、別の騎士は慌てて狼煙を上げた。
簡易狼煙を持っていたのだろう。
この場所は街から遠くないが、邸に帰る為の道のようで人気はない。
御者が、急いで馬車を走らせた。
後ろからは、馬に乗った男たちが追って来る。
いつの間にきたのかわからない。
もしかして、待ち伏せされていたのだろうか。
マシューさんは、窓から御者の隣に移動し、手綱を変わった。
乱暴に走っている馬車の中で、ハンナさんと二人いつの間にか座席からおり座り込んでいた。
御者の顔を見ると、明らかに顔色がおかしい。
「マシューさん!御者の方が!?」
「馬車の中に入れて下さい!」
御者のほうの窓から、必死で転がるように馬車の中に入ってくるのを手伝った。
御者の方が、座席を箱の蓋を開けるように開くと中には、包帯や簡易狼煙にと色々入っていた。
武器まであった。
いつも乗っている馬車にこんなものが隠してあるなんて全く知らなかった。
「ハンナさん!狼煙を上げて下さい!」
ハンナさんに、筒状の狼煙を渡し、私は御者の刺された足を手当てした。
その間、馬車は馬に乗った男たちに囲まれ乱暴に馬車は止められた。
馬車の扉が壊れるような勢いで開き、私達は恐怖した。
「ルーナ様に近付くな!」
マシューさんは扉を開けた男に斬りかかろうとしたが、敵うわけもない。
「止めて下さい!」
私は皆が殺されると思った。
私は馬車を降りマシューさんの前に立った。
その時、一人の男が来た。
「この娘だ。こいつがファリアス公爵夫人だ。」
見覚えがあった。
この迫力のある男は、以前アルベルト様の従者をしていたオルセンだ。
「連れて行け。」
冷たい声で言うオルセンに、私達は恐怖だった。
どうして、私が狙われるのかも全くわからない。
でも、私を連れて行きたいのだろう。
マシューさんは、腕から血を流しながら私の前に立っている。
でも、マシューさんがやはり敵うわけもない。
私は、意を決した。
「マシューさん、このままだと皆殺されます、私が行きます。」
「いけません!」
「ルーナ様、私達と一緒にいて下さい!」
マシューさんもハンナさんも止めるけど、二人ではこのオルセンには敵わない。
私は二人に傷ついてほしくない。
「マシューさん、ハンナさん、御者さんをお願いします。そして、カイル様に必ず助けに来て下さいとお伝え下さい。」
私はそう言うと、オルセンに向かって言った。
「他の男達を下げて下さい!ファリアス家の使用人に手を出してはなりません!」
オルセンは、他の男達を下げた。
ファリアス邸とは別の方角に向かって行ったが、あちらに何があるのか、何処に行くのかもわからない。
それでも、私は行くしかない。
意を決し、一歩前に出ると騎士団が数人駆け付けて来た。
狼煙に気づいたのか、義兄上が呼んだのか、やって来た。
「ファリアス公爵夫人を救出しろ!」
騎士団の方を振り向くと、走ってくる騎士達の後ろから、一気に馬に乗った騎士が一人とび出てきた。
ピィー!!と指笛も聴こえる。
「ヒューバート様!」
間違いない、あれはヒューバート様だ!
「ヒューバート様!こちらです!」
私は必死に叫んだ。
その瞬間、急に浮いたかと思うとオルセンに抱えられ、オルセンと馬に乗せられるとすぐさま馬が駆け出した。
オルセンはヒューバート様から逃げだしたいのだろう。
「離して下さい!離して!」
私の非力な力では、全くびくともしない。
「キャア!」
私がオルセンの腕の中で暴れるのが鬱陶しいのか、オルセンが私をひっぱたいた。
痛くて、怖い。
恐怖で一杯になりそうだった。




