嫌なものは嫌です
テオドール男爵のこともあり、不愉快な気持ちだったが、ルーナといると癒される。
ルーナが側にいてくれて本当に良かった。
いつもは仕事が終われば、一人休むだけだったが、今は違う。
ルーナとの時間が貴重なものに思える。
それほど、ルーナが大事なのに他のものを迎えるわけない。
早く結婚し、ルーナを安心させてやりたい。
そろそろ、ルーナの準備ができる頃か。
迎えに行くか。
そう思っていると、寝室のドアをノックする音がした。
この時間に来るのは、ルーナぐらいだが、何故廊下のドアからだ、と思ってしまった。
「ルーナ、何故こちらから来るんだ?」
そう言いながら、ドアを開けるとそこにいたのはルーナではなくシャリーだった。
まだ、邸の施錠をしてなかったのだろう。
やって来るなり、シャリーはテオドール男爵のことを話し出した。
「カイル様、どうかお願いです。父達のことを考え直して下さい。」
「もう、決めたことだ。大体、身の丈に合う生活をすれば何も困らんだろう。」
夜にきて、何を言い出すのかと思えば下らん。
「カイル様、お願いです!」
シャリーはそう言いながら、抱きついてきたが、すぐに引き離した。
正直、嫌悪感がする。
「話は変わらん。さっさと帰るんだ。」
寝室についているレバーを引き、使用人の休憩室のベルを鳴らした。
とりあえず、オーレンにきてもらわねば困る。
こんな所をルーナに見られたくない。
不法侵入で騎士団に突き出したいくらいだ。
いや、本当に突き出すか。
「とにかくルーナに見られたくない。さっさと出ていってくれ。」
「…もう見てます。」
驚いた。
続き部屋のドアが半分くらい開いており、薄暗い中、ルーナが立っていた。
いつからいたのか全くわからなかった。
気配はどうしたんだ。
「ルーナ、誤解のないように言っておくが、」
そう言っている途中でルーナが突進するかのように抱きついてきた。
「シャリーさん!ここはカイル様の寝室です!勝手に入らないで下さい!」
驚いた。
さっきも、いつの間にか立っていたのも驚いたが、ルーナが声を荒らげて怒ったのだ。
「ルーナ様!私はカイル様とお話しているんです!」
何故かシャリーは不機嫌になるし、心底うんざりする。
「わ、私はカイル様の婚約者です!カイル様に近付かないで下さい!」
ルーナはしがみつくように、抱きついたまま大きな声で言い返した。
「ルーナ、シャリーはすぐに追い出すから待ってなさい。」
ちょうどその時、オーレンがやってきた。
「カイル様!どうされました?」
「オーレン、シャリーを家に連れて行け!一緒に行くから玄関で待っていろ!」
流石にもう夜だからオーレンだけに行かせるのはよくないし、シャリーと二人になるのも、正直嫌だ。
「カイル様も行くなら私も一緒に行きます!」
「待ってていいんだぞ。」
「一緒がいいんです!」
結局ルーナも連れて行くことにし、着替えている間、シャリーはオーレンに見張らせていた。
この時オーレンとシャリーの話を後から聞いたが、シャリーから見て俺が女に優しくなった時にたまたまルーナと知り合っただけと思ったらしい。
だから、ルーナはたまたま運が良かっただけと、オーレンに言ったらしい。
だが、オーレンは、ルーナだから今の俺が優しく見えるのだと言ったらしい。
着替えを終え、オーレンとシャリーに前を歩かせテオドール男爵の元へ行った。
時々、シャリーはルーナと寄り添って歩く俺を見て、もう観念したのか何も言わなかった。
テオドール男爵に、シャリーを引き渡し退去期限を一週間にしていたが、2日に変更した。
もうこれで会うこともないだろう。
邸に帰り、やっとルーナと休めると思ったが、違っていた。
「今日は一緒に寝ません。」
部屋に帰るなり、どうやらルーナは怒っているようだ。
「怒っているのか?」
「怒っていません。どうしてシャリーさんを寝室にいれたんですか?」
「入れたんじゃない。勝手に入ってきたんだ。見てたのではないのか?」
「見てました。シャリーさんと抱き合ってましたね。」
「抱き合ってなどいない。」
あの瞬間から見たのか。
ルーナを見ると、今にも泣きそうな顔で横を向いた。
「泣いているのか?」
「泣いてません。」
「こっちを向け。」
「か、壁に押しやらないで下さい。」
ルーナに逃げられないように、気がつけばルーナの背が壁にあった。
「ルーナ、俺は浮気などしないぞ。」
「わかってます。…でも、嫌だったんです。どうしても嫌で…。シャリーさんが入った寝室で今日は寝たくありません。」
「ルーナ、泣くな。」
「…もう、誰も寝室に入れないで下さいね。私、凄く焼きもちを妬きました。」
「約束する、嫌な思いをさせて悪かった。」
ルーナに嫌な思いをさせて、少なからず罪悪感を感じたが、それ以上にルーナの本心を聞けて良かったとも思った。
もしかしたら、俺が思っているより、ずっとルーナに愛されているのかと、期待してしまった。
ルーナを抱き締めていると、涙は止まっていた。
そのまま、朝までルーナを腕の中に包み込んだまま二人で眠った。




