いい知らせもあります
マシューさんが、カイル様を連れて来た時にはもうシャリーさんはいなかった。
「シャリーと何の話をしていたんだ。」
「…何でしょう。」
「言えないことか?」
「後で話します。」
後でゆっくり話そうと思った。
「カイル様、もう出発できますか?」
「そうだな。もう行くか?」
馬の準備ができた後、カイル様が私を持ち上げ、馬に乗せてくれた。
「私、馬に乗るの初めてです。」
「落ちないようにしっかり掴まっておくんだぞ。」
馬に乗るのも初めてなのもあるけど、カイル様と二人なのが、本当に嬉しかった。
さっきまでの憂鬱な気持ちが少しだけなくなりそうだった。
領地を廻り、そのまま湖に連れて行ってくれた。
敷物を敷きながらカイル様は、シャリーさんと何の話をしていたか聞いてきた。
「…実はですね、シャリーさんは第2夫人になりたいそうで、私からカイル様にお願いして欲しいと言われました。」
「それだけか?」
言いにくいけど、隠しておくのも何か違うし、やはり言わないといけない気がすると思った。
「カイル様がですね。私では満足してないと、言われました。」
「何を馬鹿なことを話しているんだ。」
カイル様は少し呆れたように見えた。
「もし、私でご不満なら第2夫人も我慢しないといけない気がしてます。」
「そう言う心配はしなくていい。」
「でも、シャリーさんにどう言いましょうか?」
「帰りに、もう一度ハッキリ言うから心配するな。それに、そろそろ管理人も止めて貰おうと思っている。」
「次の管理人はいるのですか?」
「臨時で雇いはするが、最近は農地のもの達の報告書で充分だから、テオドール男爵は必要ないと思っている。」
思わず、ほっとした自分に気付いてしまった。
「ルーナ、もし次に同じことを言われたらハッキリ断りなさい。ルーナには言う権利がある。」
「私、もしかして我慢してました?」
「そう見えるが。」
きっとカイル様は、気付いていたんだろうと思う。
そして、私を邸に連れて帰った後、書類を持ってカイル様は一人テオドール男爵邸に行った。
「オーレンさん、カイル様は大丈夫でしょうか?」
「カイル様は大丈夫ですよ。私情だけで解雇する方ではありません。きっと、解雇する理由があったのです。最近特に書斎に籠ってましたからね。」
確かに、カイル様はそんな感じだ。
それに、カイル様は迫力があるから、男爵は敵わない気がする。
「それから、お嬢様に手紙が来ています。」
手紙?
こっちの邸に届くなんて、誰だろうと思うと、ミラ様だった。
手紙を読むと、陛下から許可がおりたとかなんとか書いてあった。
「オーレンさん、これはどう言うことでしょうか?」
オーレンさんは何か心当たりがありそうだけど何も言わなかった。
ただ、カイル様宛に、陛下からの手紙が届いていることだけ教えてくれた。
カイル様は夕食前に、疲れた顔で帰ってきた。
「お帰りなさいませ、カイル様。」
「ただいま。」
帰ってきたカイル様にお茶を出すと、カイル様は一気に飲み干し、カンとグラスを置いた。
そして書斎の椅子に、ドカッと持たれるように座った。
「テオドール男爵は管理人を解雇した。テオドール夫人は、家の親戚だが、男爵は元々フォード公爵の領地の出身の方だから、近々今の邸を去ることになった。第2夫人の話もハッキリ断りを入れた。」
テオドール男爵の邸も、ファリアス家が貸している邸らしく、近々退去することになったらしい。
細かいことは言わなかったが、どうやらテオドール男爵の収支報告書と農地の方々の収穫量が一致しない所があったらしく、今回領地に一週間も滞在する予定だったのは、農地を実際に見て確認したかったらしい。
「一週間吟味するつもりだったが、まどろっこしいのは性に合わん。ルーナも、もっと堂々としなさい。」
「が、頑張ります。」
カイル様みたいに堂々とできるように頑張りたい。
そんな気持ちはある。
「そう言えば、カイル様にも王都から手紙が来てましたよ。」
「ルーナにもきてるのか?」
「はい、ミラ様から許可がおりたとか書いてありましたけど。後は雑談ですね。」
カイル様は手紙を読むと、不機嫌だった表情が変わった。
「ルーナ、陛下からアルベルト殿下の件で褒美が貰える。」
「褒美ですか?」
「報奨金はヒューバートにと伝えていたんだが、俺が入籍だけでも早くと希望していたから、邸に婚姻登記官を寄越してくれるらしい。」
「お邸で婚姻証明書が出せるんですか?」
「登記官が来るから、大丈夫だ。」
「じゃあ本当の夫婦になるんですね。」
「嬉しいか?」
「はい、とっても嬉しいです。」
あまりにも嬉し過ぎて、書斎の椅子に座っているカイル様に飛び込むように抱きついてしまった。
「領地の仕事も終わったから、明日、街の邸に帰るか?」
「ゆっくりできましたか?」
「いつもの邸でもゆっくりはできる。」
抱きついてしまった私をカイル様は、膝の上に乗せて優しくずっと抱き締めてくれていた。




