朝食は一緒に
「ルーナ、大丈夫か?起きるんだ。」
「…んん」
声が聞こえる。
「ルーナ。」
呼び掛ける声に目を覚ますとカイル様がベッドに起きていた。
しまった。あのまま寝ちゃったんだ!
「すみません、私…」
「大丈夫だ。ゆっくり話しなさい。」
カイル様は優しかった。
「夕べ、オーレンさんとカイル様が話している時、くしゃみをされていたのでお風邪を引いたと思って、ハンナさんとジンジャーティーを持ってきたのですが、」
「来たら俺はもう寝ていたんだね?」
「はい、遅くてすみません。」
「一晩中タオルを?」
「少し顔が赤かったのでお熱だといけないと思いまして…」
「ルーナは大丈夫なのか?」
「はい、ありがとうございます。」
「タオルをありがとう。だが何故あんな夜に飛び出して行ったんだ?言い方がキツかったか?」
「…カイル様に帰るように言われて、でも家には帰れなくて…」
「邸から帰れと言ったんじゃない。部屋に帰るようにと言ったつもりだったんだ。」
邸から追い出されてないの?
そう思うとまた泣いてしまった。
「昨日は俺が悪かった。一人で怖い思いをさせた。」
「すみません。どうしていいかわからないんです…」
カイル様が困っているのはわかるけど、涙が止まらなかった。
「…一緒に朝食を食べよう。ハンナを呼ぶから着替えておいで。部屋まで送ろう。」
カイル様は昨日のことを責めず、私に困っているのに優しい声で話してくれて、部屋まで連れて行ってくれた。
大きなネグリジェは裾を踏みそうで裾を持ち歩いていると、少しカイル様が笑ったように見えた。
途中、オーレンさんに会い、ハンナさんを私の部屋に呼ぶように言っていた。
「お嬢様、心配しました。お部屋にいないから探そうと思っていたのですよ。」
「すみません。」
「ハンナ、心配するな。俺の部屋にいた。」
「カイル様の?」
「着替えをさせてくれ。一緒に朝食を食べる。」
ハンナさんは何故か驚いた表情だった。
「お嬢様すぐに着替えましょうね。カイル様が婚約者候補の方と食べるなんて初めてです!」
「今までは別々だったのですか?」
「…難しい方々ばかりでしたから。」
ハンナさんは急いで着替えを出すと、手が止まった。
古びたケースの中の服に驚いたのだろう。
「二年前に買ってもらった服が最後なんです。昨日のはもう使えませんし…」
ハンナさんはしんみりとした表情になった。
「…服がキツくありませんか?」
「…少しキツいです…」
「少しだけ手直しをしますね。ウエストのリボンも緩めてきましょう。」
ハンナさんは足早に裁縫道具をとってきて、少しずつ服を直した。
おかげで少しだけいつもより楽に着ている気がした。
「ハンナさんありがとうございます。」
「いいえ。さぁ、カイル様がお待ちですよ。」
ハンナさんに案内されてカイル様のところに行くとテラスに朝食が準備され、カイル様は新聞を読んでいた。
「遅かったな、どうしたんだ?」
何と言おうか戸惑うと、ハンナさんが上手く言った。
「女性の支度は時間がかかるものです。それよりカイル様ちょっとよろしいですか?」
カイル様は何だ何だと二人で廊下に行った。
オーレンさんがお茶を入れようとしてくれたが、どうしてもカイル様を待ちたくて断ってしまった。
少しするとカイル様が戻り席についた。
「食べないのか?」
カイル様が聞くと、オーレンさんが説明してくれた。
「お嬢様はカイル様をお待ちしていたのですよ。」
「待っててくれたのか。ルーナ、遠慮せずに食べなさい。」
カイル様は、ゆっくり優しく言ってくれた。
「いただきます。」
ケジャリーにスクランブルエッグ、サラダにベーコンに沢山あった。
お皿に少しずつのせてくれ、自分では結構食べたつもりが、カイル様は私の倍も食べていた。
しかも上品だった。
紅茶は甘いミルクティーで美味しかった。
「ミルクティーは好きか?」
「は、はい。」
「今日は仕事を休むから、一晩中看病してくれた礼に何か服でも買わないか?」
「え…」
「気にすることはないぞ。夕べの礼にだ。」
少しぶっきらぼうな言い方だが、もしかして服がないことを知っているのかと思った。
「オーレン、馬車を準備しといてくれ。」
「かしこまりました。」
私の返事を聞かず、買い物は決定していた。