夕食を一緒に
「お名前を、ルーナと呼んでいいですか?私も殿下は要りません。」
「はい、構いません。」
「では、ルーナ。夕食を一緒にいかがですか。」
カイル様の知らせを待ちたいから、正直行きたくない。
どう断ろうか悩んだ。
「都合が悪いですか?」
「…、すみません、あの…」
「正直に言って下さって構いませんよ。」
「…カイル様の知らせを待ちたいのです。」
思わず正直に言ってしまった。
怒ってしまったかと思うと顔があげられなかった。
「では、邸での夕食に私を招待してくれますか?」
「一緒にですか?」
「いけませんか?」
「いえ、すぐにオーレンさんに伝えて参ります。」
ソファーから立ち一礼をしてオーレンさんの元に急いだ。
何故か廊下には従者の方しかおらず、使用人の休憩室に行くとオーレンさん達がいた。
「オーレンさん、こちらにいらしたんですか。」
「お嬢様、アルベルト殿下はどうされました?」
「書斎にいます。夕食を一緒にと言われました。こちらで夕食を一緒に出来ますか?」
「それは大丈夫ですが…実は従者の方に下がるように言われまして、お嬢様を心配していたのです。アルベルト殿下の言葉には我々は断れません。」
それで廊下にいなかったのかとわかった。
「お詫びを頂きました。いいのでしょうか?よくわからないのです。」
「とりあえず夕食はご一緒しましょう。カイル様がいないとはいえ失礼をしてはいけません。」
「はい。」
夕食の手配は伝え、アルベルト様の所に戻ると笑顔で迎えてくれた。
失礼をしてはいけないから私はドレスに着替えに戻り、アルベルト様には少し待って貰うことになった。
夕食はオーレンさんが給仕をする為、食堂にアルベルト様と二人っきりではないためなんとなく安心した。
知っている方がいるとやはり安心すると感じていたのがわかった。
「ルーナは幼い時はどんな娘だったのですか?」
「私ですか?どうでしょう。友人もいませんから。」
「友人がいない?どなたかと遊ばなかったのですか?」
不思議そうな顔をされている。
でも、継母達の確執を食事の席でするつもりもないし、もうわだかまりもない。
あんまり昔のことも覚えてないのも事実だし。
「…実はですね。子供の時熱を出し、あまり昔のことを覚えてないのです。ですから母の思い出もありません。」
「覚えてない?熱を出した時、医師はすぐに来なかったのですか?」
「流行り病でたまたま主治医が他の貴族の邸に行ってましてすぐにこられませんでした。私は流行り病ではなかったのですが子供の私にはひどい熱だったそうで何日か寝込んでいたそうです。」
「そうですか。あの時の流行り病で亡くなった方も多いですからね。ルーナが無事で良かったです。」
アルベルト様はその後も色々話された。
私が16歳になればデビュタントする話もされて、アルベルト様も陛下と出席するらしい。
王都でもカイル様とお酒を飲んだりしていたらしい。
「カイルが心配ですか?」
「はい、でも誕生日までに帰ると言いましたから。」
「カイルなら心配いりませんよ。」
「そう信じています。」
やっと夕食のデザートになり、これで終わりアルベルト様が帰ることになった。
玄関までお見送りし、やっと緊張がとけるのを感じた。
「オーレンさん、私失礼がなかったでしょうか?」
「お嬢様は立派でした。アルベルト殿下はずっとにこやかでしたから。」
「凄く緊張しました。」
「ご苦労様でした。」
部屋に戻ると、アルベルト様からのお詫びの品が目に入った。
カイル様に報告しないといけないわ。
それまでは箱に入れたままにしましょう。
カイル様がくれた狼さんのぬいぐるみを抱き締め、明日こそはカイル様の知らせがくるのを願い眠りについた。




