ルーナに会いにきた客
カイル様の知らせはないまま日にちはすぎていった。
いつもの日常を済ませアフタヌーンティーの時間まで庭師のマシューさんのお手伝いをしようと庭にいった。
手伝いといっても薔薇の水やり程度しか出来ない。
「カイル様はもうすぐでお帰りになりますよ。」
マシューさんとはよく花をもらいにくるからか、少しずつ話すようになった。
「マシューさんはお花のお世話が上手ですね。もう長いんですか?まだお若いですよね。」
「花屋の下働きをしている時にたまたまカイル様が庭師を探していて声をかけてくれたんです。オーレンさんが推薦してくれたみたいですよ。」
カイル様は人を見る目があると思った。
マシューさんのお世話する薔薇や植物は本当に見事だったから。
マシューさんに薔薇をわけてもらい、玄関に向かうと馬車が入ってきた。
お客様がくるとは聞いてない。
私のお客様ではないと思った。
降りて来たのは、金髪の男の方だった。
カイル様のお客様かもしれないと思いお辞儀をした。
知らない方だと思ったら、声をかけてきた。
「ルーナさん、お会いできて良かった。」
私の名前を知っている。
どなただろうと思った。
「先日はハンカチを汚してしまい申し訳ありません。お詫びに伺いました。」
「先日…?レストランでお会いした…?」
「ええ、思い出して頂けましたか?」
「すみません、私ったら。」
本当に忘れていたわ。
というか顔を覚えていなかった。
でもどうして私がこの邸にいると知っているのかしら。
「あの、どうしてここにいるとわかったんですか?」
「メアリーに聞きました。カイルの邸に住んでいると。」
「メアリー様に?あの私にお会いになっていいのですか?メアリー様と来られないのですか?」
「メアリーはただの知り合いです。問題ありませんよ。」
レストランの時の方とはわかったけど一体この方はどなたでしょうか?
「お嬢様、どうされますか?」
いつの間にかオーレンさんが後ろに立っていたわ。
気付かなかった。
カイル様もいないし、知らない方を入れてはいけないわよね。
そう思っていると、急にこの方がオーレンさんに話しかけた。
「君はカイルの執事だね。幼い時に来たことがあるんだが、最近はなかったから私の顔を覚えてないか?私はアルベルトだ。」
オーレンさんが一瞬言葉に詰まったがすぐに思い出したようで、頭を下げた。
「失礼しました!すぐに邸にご案内致します。」
「気にするな。急に忍びできた私も悪い。」
アルベルト様と言う方は笑顔でオーレンさんに言った。
「お嬢様、この方はアルベルト殿下です!」
「殿下!?」
びっくりした。
殿下の顔も知らなかったし、まさかあの時の方が…。と慌ててしまった。
「失礼しました。」
「そう畏まらないで下さい。どうか普通にして頂きたい。」
そうは言っても知らなかったとはいえ殿下にハンカチを出したなんて、大丈夫なのかしら。
「その薔薇はどうされました?」
「これはお部屋に飾ろうと思いまして、庭の薔薇を頂きました。」
「そうですか。私も薔薇を持ってきたのですが、必要なかったですかね。」
アルベルト殿下は馬車から両手一杯の薔薇の花束を出した。
正直、薔薇はカイル様から頂きたい。
カイル様の庭の薔薇が大好きなのにと思った。
でも断れなかった。
自分の持っている薔薇をオーレンさんに渡し、アルベルト殿下の花束を受け取った。
「ありがとうございます。」
「部屋に飾って下さいますか。」
「…はい。」
「では、邸に入れて下さいますか?」
「はい、ご案内します。」
アルベルト殿下を広い書斎に案内し、ソファーに座って頂いた。
後ろには、従者の方が何か持って立っておられどうしたらいいのかわからなくなりそうだった。
アルベルト殿下は従者の方に指示し、私の前に持っていた箱を出した。
「こないだのお詫びです。受け取って下さいますか。」
さっきの薔薇がお詫びじゃないのかしら。
出された箱を拒否出来ず、リボンを外し開けると中には綺麗な髪止めがあった。
「今つけているリボンも似合いますけど、こういうのも似合いますよ。」
「ありがとうございます。」
「髪のリボンは誰かからの贈り物ですか?」
「これは、カイル様が王都からのお土産に買って下さいました。」
「カイルが土産を?」
「はい、カイル様は凄くお優しい方ですので。」
アルベルト殿下は、ふふ、と笑っていた。
オーレンさんがお茶やお菓子を持ってきたあと、従者の方々も下がり、広い書斎にはアルベルト殿下と二人っきりになった。
何を話していいのかわからない為オーレンさんにはいてほしかった。




