祝勝の酒
ヒューバートの合図の狼煙が上がり、グレイの指揮の元突入を開始した。
大掛かりな戦ではないから、百人にも満たない人数だが、問題はない。
領主の保護もヒューバートがいれば、もう人質に捕ることは出来ない。
予想通り、反対派の鎮圧は騎士団が一斉に突入したことによりすぐに終わった。
補給部隊も名ばかりで本当の目的は領民の食糧の為だ。
国が制圧したことにより、正式に国からだと領地の保護にあたれる。
補給部隊を連れてきたのもその為だ。
制圧してから出発したのでは遅いからな。
「カイル、今、国に早馬を出した。しばらくは反対派の残党が出るかもしれないからいることになるが、とりあえず無事に終わった。ヒューバートにも礼を言いたい。どこだ?」
「ヒューバートなら、怪我の手当てをしている。こっちだ。」
どうやら領主夫妻を守るのに少し斬られたようだ。
ヒューバートは座ったまま、腕に包帯を巻かれていたが、いつもの顔だった。
「グレイさん、お疲れ様です。」
「ヒューバート、すまん。怪我をしたのか。」
グレイはヒューバートに近付きながら謝った。
「かすり傷ですから、怪我の内に入りませんよ。」
ヒューバートがケロッとした顔で言うと、包帯を巻いている者が、呆れたように言った。
「切り傷は大したことはありませんが、毒が塗ってあったようです。」
「ヒューバート、毒を受けたのか。」
グレイは、少しだけ驚いたように聞いた。
「これくらいの毒は効きませんよ。解毒薬も塗りましたし。」
「グレイ、ヒューバートは大丈夫だ。ヒューバート、今から酒を飲むから手当てが済んだら来い。」
祝勝で騎士達も皆酒を飲み始めていた。
俺とグレイもそれぞれ騎士達の元を周り、落ち着いた後、領主の城の一室で酒を飲むことにした。
ヒューバートも合流し、三人でテーブルを囲んでいた。
もうすっかり夜だった。
「カイルとヒューバートのおかげだ。」
「これでグレイも公爵になるな。王女殿下と結婚できそうか?」
「陛下から、公爵位を授かれるから結婚を認めてもらえる。」
「そうか、落ち着いたら祝いを贈ろう。」
「団長もルーナさんとすぐに婚約出来ますしね。」
ヒューバートの発言にグレイが驚いた。
「カイル、婚約するのか?初耳だぞ。」
「…実は結婚したい娘がいるんだ。」
「なら、何故すぐに婚約しないんだ。」
ルーナが15歳だからと言おうとするとヒューバートが先にばらした。
「ルーナさんはまだ15歳なんですよ。団長は理性と戦ってますよ。」
「15歳!?いつからだ!」
理性と戦って…。こいつは俺の寝室に忍び込んでいるんじゃないだろうな。
「まだ出会ったばかりだ。後一ヶ月もしないうちに16歳になるから問題ない。」
「もう誕生日か?悪かったな。置いてきて大丈夫か?泣いてるんじゃないか?」
「ちゃんと見送りしてくれたし、ルーナはわかっている。」
何故だかわからないがルーナは俺のことを理解してくれていると思っていた。
「グレイさん、団長出発の時ルーナさんの頬っぺにキスしたんですよ。しかも皆の前で!あんな団長初めて見ましたよ。あれじゃ誰も手が出せませんよ。俺の物だ、って公言しているようなもんですから。」
くっ、何故言う!
「ヒューバート!余計なことを言うな!」
からかわれるのは初めてでどうしていいか全くわからん。
「驚いたな、本気で好きになったのか?」
「悪いか!」
「いや、カイルは女に興味がないのかと。ヒューバートと結婚すると思っていたぞ。」
「なんでヒューバートなんだ!」
「俺も可愛い女の子が好きなんですけど。」
「まあ、冗談だ。」
グレイは笑いながら話した。
「ルーナという娘は可愛いのか?」
「可愛いくて悪いか!」
「今度会わせろ。今回の礼に邸に行くぞ!」
「来なくていい。」
「ヒューバート、どんな娘だ?」
「かなり可愛いですよ。団長のベタ惚れですね。」
グレイは絶対興味本位でルーナを見にくると思った。
酒を飲みながら窓の外を見ると月が出ていた。
月を見るとルーナを思い浮かぶ。
早く会いたいという気持ちになる。
誰にもこんな風に思ったことがなく、ルーナだけがそういう気持ちにさせてくれた。




