ルーナの1日
用を足し、鏡を見ながら自分の腕を見るとやはり痩せていると思った。
カイル様のように沢山食べたらたくましくなるのかしら、と思った。
カイル様はご無事かしら。
誕生日には帰ると言ったけど、戦で負傷しないのかしら。
早く無事を知りたい気持ちで一杯だった。
廊下に出ると、壁にもたれ咳き込んでいる方が居らした。
もたれた壁からズリズリっとしゃがみ込むようになり、思わず声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
しゃがみ込んでいる方は、口に手を当て顔色悪く、汗をかいていた。
ハンカチを出すと、無言で受け取り、口に当てた。
その時、廊下から女の方がこの人を呼んだ。
「大丈夫ですか!?アルベルト様!」
大きな声を出したのはメアリー様だった。
「すぐに従者を呼びますわ!」
メアリー様は近付くことなく、走り去った。
そして入れ違いにハンナさんとオーレンさんがやってきた。
「お嬢様!どうされました!」
「あの、この方がお体が悪いようで。」
オーレンさん達に言うと、壁に手をつきながらアルベルト様と呼ばれた方は立った。
「失礼しました。少し咳き込んでしまっただけです。」
「お顔の色が悪いようですけど大丈夫ですか?」
「もう大丈夫です。ハンカチを汚してしまって失礼しました。」
そう言うと、メアリー様が従者の方を連れて戻ってきた。
従者の方が、アルベルト様と呼ばれた方を支えようとすると、アルベルト様と呼ばれた方は、大丈夫だ、と手を払っていた。
「あら、ルーナさんだったんですか。」
「はい、お久しぶりです。あの方は大丈夫でしょうか?」
「アルベルト様?来たばかりでお疲れになったのでしょう。急いで私の邸に帰りますので失礼しますね。」
「はい、失礼します。」
メアリー様はアルベルト様に寄り添うように去って行った。
「メアリー様のお相手でしょうね。」
ハンナさんがそう言った。
「なんにせよ、カイル様は諦めたのは良いことです。」
オーレンさんがそう言った。
「お嬢様、私達も帰りますか。明日はカイル様のことを聞きに騎士団に伺いますか?」
「情報があるんですか!?」
「騎士団にはきてるかもしれません。」
「今すぐ行きたいです!」
カイル様のことを少しでも早く知りたい!
オーレンさんに無理を言うようだがそのまま騎士団に連れて行って貰った。
カイル様の騎士団には、代わりに第5騎士団の方が臨時で、来ているらしい。
カイル様の名前を出すと、お弁当を持って行っていたあの執務室に案内してくれた。
中には、30歳ほどの騎士様がいた。
そして、私を見て驚いていた。
「君は確か、カイルの執事の方だったか?」
「覚えていて下さり、光栄です。こちらのお嬢様はカイル様の許嫁のルーナ様です。」
「初めまして、ルーナ・ドワイスです。」
「カイルに許嫁?初めて聞いたな。」
信じてないような顔でした。
きっと、私がまだ子供のようだからでしょう。
「ルーナ様はまだ16歳になっていませんので許嫁としているだけで、実質は婚約者です。」
「カイルの婚約者?まだ16歳でないから発表してないだけか?」
「その通りです。」
驚いた顔を戻し、騎士の方は椅子から立ち上がり私に近づいて来た。
騎士の方は胸に手を当て一礼をした。
「失礼しました。第5騎士団長ルーベンスです。」
「よろしくお願いいたします。驚かれましたよね、私のような子供が来てしまって。すみません。」
「いえ、お年というより、カイルに婚約者がいることに少し驚きました。」
うぅ、カイル様は一体どれだけ婚約を断ったのかしら。
「それでカイルの状況ですよね。」
「はい。よろしければお願いします。」
「カイルからは執事の方が来たら教えるように頼まれてますので大丈夫ですが、報告できるほどの情報はまだありません。まあ、まだ行ったばかりですからね。」
「そ、そうですよね。お仕事のお邪魔をしてすみません。」
よく考えれば、悪い知らせがあればきっと邸に連絡がくるはず。
こないのは大丈夫だということだろうと思った。
「今回のは、領主の救出が出来れば事はすぐに反対派の鎮圧は済みます。長引くことはありませんから。」
「すみません、わからないことばかりでご迷惑おかけしました。」
オーレンさん達は落ち着いていたから多分ある程度予想出来ていたのだろう。
私は自分が無知だからよけいに心配になっていた。
これではダメなのだろう。
自分が情けなくなる。
ルーベンス様は私達の馬車まで送って下さり、カイル様達の状況が分かればすぐに連絡をくれると話された。
「ルーベンス様、押し掛けてしまってすみません。」
「カイルの婚約者に会えたのは貴重でした。お気になさらず。すぐに連絡をしますよ。」
ルーベンス様に挨拶をし、邸に帰った。
「オーレンさん、ハンナさん。私、邸で静かにカイル様を待ちます。オーレンさん、明日からまた一緒にお勉強をして下さい。」
二人に頭を下げ、私は邸でできることを頑張ろうと思った。




