雨の中
「オーレン、あれは本当に婚約者候補なのか?」
「ドワイス家から16歳とは伺っていましたが、まだなっていないようですね。」
「歳はこの際気にしないが…。」
「実は伯爵令嬢に見えないので少し心配しているのですが。」
「心配?」
「あの部屋にも不満も言わないどころか、ドレスもなく、家に帰れないと泣きそうでした。」
「…今も泣きそうだったぞ。」
「カイル様が冷たく言ったからでは?あのお嬢様には少しきつく感じられたのではないですか。」
「…」
(いつもの令嬢と違い傷ついたのか?困ったな。)
「しょうがない。部屋に行くか?」
「それがよろしいかと。」
オーレンと婚約者候補がいつも使う部屋に行くと何故か彼女はいなかった。
「…いないぞ。」
「どちらに行かれたのでしょうか?」
「あの古びたケースは彼女のか?」
「はい、あのケース一つで一人でいらっしゃいました。」
「一人!?親は来なかったのか?」
「はい、おかしいとは思っていたのですが。」
「…家に帰れないと言ったな。」
(まさか、もう夜なのに邸を出ていったのか?もう雨が降っているんだぞ。)
「誰か彼女を見てないか探してくれ。」
オーレンに邸の者に聞きに行かせ、玄関に向かうと、庭師に会った。
「カイル様、先ほど若いお嬢様が飛び出して行きましたがいいのでしょうか?雨が降りだしていますし、傘も何も持ってないようでしたが。」
「どこに行ったんだ!?」
「街の方だと思いますが…カイル様!?」
(こんな雨の中傘も持たず、何故飛び出して行くんだ?しかも部屋に帰りなさいと言ったのに何故邸を出ていったんだ?夜に若い娘が一人出るなんて何を考えているんだ!?)
当てはなかったが、彼女を探して雨の中を走っていた。
何だか今までの令嬢と違う。
どうせいつものようにすぐに出ていくだろうから、掃除がしやすいようにあの部屋にしていたが、不満がなかった?
今までの令嬢はすぐに不満をいい、使用人に当たり散らすものもいた。
彼女は違うのか?
そんなことを考えながら走っていると、悲鳴が聞こえた。
悲鳴の方に向かうと、彼女が男たちに囲まれていた。
「嫌!やめてください!!嫌ぁ!」
彼女を守らなければと思い、気がつけば男達を殴り飛ばしていた。
見ると彼女の服は肩から破かれており、あと少しで胸が露になりそうだった。
「大丈夫か?どうしてこんなところに…?」
彼女の側によると、震えているのがわかった。
その隙に男達が逃げようとしたので捕まえようとしたが、震える彼女をほおって置けなかった。
「怖かっただろう、一緒に来なさい。」
マントをかけてあげるが、彼女は雨のせいか冷たく、服は汚れていた。
「すみませんっ…。カイル様のマントが汚れてしまいます…」
「気にしなくていい。俺と一緒に帰ろう。」
「…怖かったです…」
「もう俺がきたから、大丈夫だ。」
彼女をマントで包んだまま、抱き締めると、腕の中で震えながら泣いていた。
こんなに小さな体で壊れそうだと思った。
邸に帰ると、オーレン達が玄関でウロウロしながら待っていた。
「オーレン!彼女を見つけた!すぐに風呂に入れてやってくれ!」
オーレンの横にいた家政婦長のハンナが近付き彼女を渡そうとすると不安そうに、俺を見た。
「心配せずに風呂に入りなさい。」
彼女は無言で、ハンナと風呂に行った。
「彼女の名前は何と言ったか?」
「ルーナ様です。」
「ルーナに優しくしてやってくれ。」
婚約者候補にこんなことを言ったのは初めてで、オーレンのビックリした顔がわかった。