狙う女はたくましい 2
カイル様の邸に行き、案内された部屋は思っていたのとは違った。
「この部屋を使ってくれ。家はメイドも少なく皆通いのものばかりだから夕方にはもういない。使ってない部屋ばかりだからこの部屋にしてくれ。」
きっと、大きな部屋は人が足りず準備できなかったと思った。
「では明日には準備して下さいね。主寝室の続き部屋を準備して下さらないと。」
「あれは父上達が使っていた部屋だ。今は誰も使っていない。」
「ですから、私達の部屋になりますわよね。」
「とにかく、この部屋にしてくれ。オーレンとハンナは住み込みだから用があれば彼らに言ってくれ。」
明日は準備して下さるかと思っていたが、この先も部屋を変えることはなかった。
夕食には、いつものように着飾り美しく整え食堂に行くと、カイル様はすでに座って待ってらした。
普通はエスコートして下さるでしょ!と思った。
「カイル様、食事の後は二人でダンスをしませんか?デビュダントが懐かしいですわ。」
「悪いが、明日も仕事があるので遠慮させてもらいたい。」
「まあ、騎士様のお仕事は大変ですわね。他の者には出来ませんの?」
「皆優秀だが、騎士を辞めるつもりはない。」
カイル様は寡黙な方で、夕食はあまり楽しいものではなかった。
夜も来て下さるかと思ったが一度も来なかった。
結婚前だから気にしているのかしら。
婚約したら、気にする方はあまりいないのに、と思っていた。
朝食も部屋に運ばれず、使用人を呼び出した。
ハンナという使用人に言うとカイル様と朝食を準備しているらしい。
朝食を食べているカイル様に言いに行くと、新聞を読んでいた。
「カイル様、朝食は部屋に運ばせるものでしょう!」
「…君はまだ未婚だ。部屋で食べる必要はないだろ。」
「結婚するのですから、未婚の女性と同じは困ります!」
「婚約もしてないのだから、未婚だ。」
「とにかく、こんな所で食べません。」
「好きにしろ。俺は仕事に行く。」
カイル様はそのまま仕事に行き、私はその日から朝食は部屋に運ばせた。
カイル様は何も言わなかったのでわかって下さったと思った。
でも、カイル様はその日帰って来なかった。
あまりに暇だったので、友人達とお茶をしに行った。
友人の一人が婚約者からドレスや宝石を貰ったと嬉しそうに話、私は何をプレゼントされたか聞かれた。
私はドレスを貰ったと嘘をつき、急いでお父様にドレスを買って貰い、カイル様からのプレゼントにした。
あまり邸にも帰らないカイル様にお休みの日にやっと二人で庭に出た。
「カイル様、贈り物をまだ頂いてませんわ。友人達は皆婚約者から頂いてまして私恥ずかしい思いをしましたのよ。」
「贈り物が必要か?」
「必要ですわ。」
「…メアリー、本当に俺と結婚したいのか?」
「勿論ですわ。」
「なら、傲慢な態度を直してくれ。メイド達も少ない人数だが、通いで来てくれている。残業をさせるほど使う必要はないはずだ。」
「部屋の掃除をさせてるだけですわ。」
「使わない部屋の掃除を毎日する必要はない。」
「今は、カイル様に贈り物をして欲しいんですの!」
「婚約もしてないのだから必要ない。」
その時、私はすきま風が吹くのを感じました。
ちょっと懲らしめてやろうと、勢いで実家に帰りカイル様が迎えにくるのを待ちましたが、一度も迎えにきませんでした。
お父様がカイル様に苦情を申し上げに行く前にカイル様が実家に来てやっと迎えに来たかと思うと、お付き合いの終了の話でした。
しかも、カイル様の邸に持っていった荷物まで持って来てました。
「婚約の話はどうなりますの!」
「元々婚約などしていない。メアリーの父上に頼まれ付き合いはしたが、これで終わりにする。」
「ひどいですわ!」
カイル様に抱きついたが、全く抱き締めてくれることなく、淡々とカイル様は言った。
「メアリー、君とは結婚できない。」
そう言うとカイル様は振り向きもせず帰りました。
その後、カイル様は何人も婚約を勧められ、邸に滞在したそうですが、誰とも婚約には至らなかったそうです。




