初めての唇
部屋に戻ると、何から考えていいかわからなかった。
あのカイル様が不安になっていたとは全く知らなかった。
いつも凛々しく、毅然とした姿で不安など感じない方だが、私が不安にさせているのかと思うとどうしていいのかわからなくなった。
…何故、このプレゼントを私が他の方から貰ったものだと思ったのだろうか?
私がカイル様の過去にモヤモヤしているのと同じなのかしら?
悩んでしまう。
ナイトドレスに着替えていると、微かにワゴンの音がした。
時計を見ると、もう結構な夜になっており、私は何時間うたた寝をしたのかと呆れた。
着替えを済ませ、恐る恐るカイル様のお部屋に行くと、まだベッドに座っていた。
しかも、頭を抱えるように下を向いている。
ど、どうしましょう。
あんなカイル様見たことない。
バルコニーのカイル様の部屋の前で、うろうろしていると、カイル様が私に気付きやってきた。
「ルーナ、来たなら入りなさい。」
「は、はい。」
カイル様が、グイッと引き寄せ部屋に入れてくれ、私は急いでプレゼントをカイル様に出した。
「持参金で買いました。カイル様のプレゼントに一番に使いたくて…。あの、誤解は解けましたか?」
「ありがとう。…誤解も解けている。悪かった。」
「お疲れなのは、私のせいですか?」
「…何故だ?」
「眠れてないと聞きました。」
「眠れてないのは、ルーナのことを考えていたからだ。」
「私と同じですね。私もカイル様のことを考えていて眠れなくて、ついカイル様のベッドでうたた寝しちゃいました。」
「同じか。」
「同じですね。」
プレゼントを持ったままカイル様はボスンとベッドに腰をかけた。
カイル様は前髪をかきあげ、私を見た。
カイル様に見つめられると、ドキドキしてしまう。
「…俺の為にその寝間着を?」
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
やっぱり似合わないのかしら。
「綺麗だ。だが他の男には見せないでくれ。」
「み、見せません!カイル様だけです!」
そのまま、カイル様がこちらにと言うので隣に座ると、プレゼントを開けてもいいか、と聞き開け始めた。
「懐中時計か。」
「お気に召すかわかりませんが。」
「いや、気に入った。ありがとう。」
カイル様は懐中時計を目の前にぶら下げ、じっと見ていた。
無表情だったが嬉しそうに見えたのは私だけかなと思った。
「オーレンがさっき、夕食の代わりに夜食を持ってきた。一緒に食べよう。」
さっきのワゴンの音はこれだったのね。
考えてみたらお腹が空いていた。
カイル様もきっとお腹が空いているはず。
二人で並んで座り簡単な夜食を食べているが何故かカイル様はずっとこちらを見ていた。
食べ終わり、今日はもう部屋に帰ろうとするとカイル様に引き止められた。
「ルーナ、もう眠いか?」
「先ほど寝たので眠くはないです。」
「なら、もう少しここにいないか?」
「いていいのですか?」
「一緒にいたい気分だな。」
そう言われてカイル様に誘われたのはベッドだった。
「何もしないから、隣にきなさい。」
そう言われると断れない。
少しでもカイル様に近付きたい気持ちもある。
でも、心の準備もできてない気持ちもある。
ドキドキする気持ちを抑えている自分がいた。
「…朝まで一緒にいてもいいですか?」
「構わない。」
カイル様にしがみつくように抱きつくと、そのまま、押し倒されるように二人でベッドに入った。
ベッドに入ると、カイル様がまた昨日みたいに頬や首筋に口付けをしてきた。
「カイル様、私カイル様が大好きです…」
「…あんまり可愛いことをいうと止められなくなる。」
「早く16歳になりたいです。」
「16歳になったら、ルーナをくれるか?」
「はい…」
そのまま、初めて唇にしてくれた。
それ以上はなかったが、朝までカイル様の腕の中で眠りについた。




