誤解
目が覚めると、カーテンが開いているせいか真っ暗な暗闇ではなかった。
月明かりの為か、うっすら前が見えた。
目の前にはがっしりとした胸板がある。
私はカイル様の腕の中にいた。
いつからいたのかわからない。
確か安眠香を持って来て、夕べ眠れなくて、ベッドに何気なく座って…。
どうしてカイル様と寝ているんでしょう???
起こしていいのかしら?
「あの…カイル様、」
肩を揺さぶり、声をかけるとうっすらとカイル様は目を開けた。
「ルーナ?起きたのか?」
少し怒っているようにも見える。
「すみません、私、カイル様のお部屋でうたた寝しちゃったんですね。」
「…ずっとこの部屋にいたのか?」
「買い物から帰って、ヒューバート様からお預かりした安眠香を持って来て、カイル様のベッドに座ったのですが…。すみません、ご迷惑でしたね。」
図々しくカイル様のベッドでうたた寝をしてしまったから、お怒りなのだろうと思って、慌ててベッドから降りようとすると、カイル様が後ろから抱き寄せてきた。
「どこかに行くのか?誰かと会うのか?」
何を言っているのかわからない。
「ご迷惑おかけしましたので、お部屋に帰ります。カイル様お疲れですよね?」
「…あのプレゼントは誰からだ!?」
「誰からもプレゼントはないです。」
「ルーナのベッドにあったやつだ!」
ベッドの上?
ベッドの上には、カイル様へのプレゼントしかない。
「あの…よくわかりません。」
「ルーナのベッドに紺色のリボンの箱があった。」
「…紺色のリボンの箱は、私からカイル様に買ったものです。」
そういうと、力強いカイル様の手が緩んだ。
「…俺に?」
「はい、今日ハンナさんとカイル様のプレゼントが買いたくてお出かけしました。」
「誰とも会ってないのか?他には何もないのか?」
「ヒューバート様にお会いしたくらいです。あと…ナイトドレスも買いました。」
「ナイトドレス?」
「少し、大人っぽいのを買いました。…カイル様にお見せしたくて…。」
カイル様は、ベッドにうつ伏せになり、無言だった。
「すみません、私が勝手にカイル様のベッドで寝ちゃったから怒ってますよね。」
「それで怒っているわけではない。」
では何故、怒っているのかわからない。
不安で一杯になった。
「…ルーナは悪くない。俺が勝手に誤解しただけだ。」
「何の誤解でしょうか?」
きっと、私が知らず気に触ることをしたのね。
カイル様を見られなくなり、後ろを向いてしまった。
「私、部屋に帰ります。ご迷惑おかけしました…」
立ち上がろうとすると、カイル様は今度は腕を掴んだ。
「帰らなくていい。ここにいなさい。」
「…ご迷惑では…」
カイル様をみると、真っ直ぐな目に動けなくなりそうだった。
カイル様はまた起き上がり、ギュッと抱き締めてきた。
「いなくなったかと思った。誰か他の男からのプレゼントだと。俺の誤解だった。すまない。」
「どこにもいきません。ずっといると決めましたから。…怒っていませんか?」
「怒ってなどいない。…不安だっただけだ。」
「…カイル様にプレゼントを用意しました。持ってきます。」
「…ナイトドレスも買ったのか?」
「ハンナさんに言われて、カイル様のお金で買いました。ありがとうございます。」
「着て見せてくれるか?」
「…はい、着替えてきます。」
そう言うと、急いでバルコニーから自分の部屋に帰った。




