初対面
部屋で、窓の外をボーッと見ていると、執事のオーレンさんがやってきた。
「カイル様がご帰宅されます。お出迎えされますか?」
「はい、ぜひ行きます。」
そのまま行こうとすると、オーレンさんは私をじろじろ見て、聞いてきた。
「お嬢様、失礼ですがお召しかえになられては?その服はいらしたときの服です。食事にもなりますので、ドレスにお召しかえされた方がよろしいのでは?」
オーレンさんの指摘に自分が恥ずかしくなった。
「…すみません、ドレスはないのです。」
「…ドレスがない?ご自宅から忘れたのですか?使いの者にとりに行かせましょうか?」
「すみません、自宅にもないですし、自宅には帰れません。」
オーレンさんはきっと困って、私を見下した目で見ていると思うと、顔が上げれず、スカートをギュッと握りしめ、下を向くしかなかった。
自分はなんて惨めなんだろう。
こんな邸の方と釣り合う訳もないし、きっとすぐに追い出されるわ。
そう思うと泣くのを我慢するだけで精一杯だった。
「…失礼しました。では、私と一緒にカイル様をお迎えしましょう。」
「すみません…」
オーレンさんについて玄関の大階段の下で待っていると、玄関のドアが開き一人の男性が入ってきた。
背は高く、綺麗な夜のような黒髪にビックリした。
公爵様で、騎士団長様と言うからもっと年上の方と思っていたが、思っていた方と違った。
「お帰りなさいませ、カイル様。」
オーレンさんが頭を下げたのを見て、私も慌てて下げた。
「今帰った。そちらの娘は?候補の方は部屋にいるのか?」
カイル様は私が候補だと気付かなかった。
「カイル様、こちらのお嬢様が婚約者候補の方です。」
「…君が?」
「は、初めまして、ルーナ・ドワイスです。」
カイル様は私を見て、驚いた顔をしていた。
「とりあえず、食事にしよう。疲れているから、服はこのまま食べる。」
「それがよろしいかと。」
カイル様の後ろをついて、食堂に行くと綺麗な銀食器に料理が並べられていた。
向かい合わせに座り食事が始まると、私達二人は無言のまま食べ始めた。
あまりの無言に、カイル様が話し掛けてきたが私には上手く話せなかった。
「…随分つまらなそうだな。君はいくつなんだ?」
「…もうすぐで、16歳になります。」
「俺は26歳だ。嫁ぐのに抵抗はないのか?伯爵家はなんと言っているんだ?」
「…わかりません…」
カイル様が困った顔をして、私はまた下を向いてしまった。
食事もこんなに食べられず、進まなかった。
「…わかった。もう帰りなさい。」
1日も経たず、この邸から追い出される。
帰る家もない。
でも、カイル様が出ていけと言うなら、いられない。
私は席を立ち、頭を下げた。
「…ご迷惑おかけしてすみませんでした。お料理美味しかったです。失礼いたします。」
そのまま、カイル様の顔を見ずに私は邸を後にした。