側にいたい気持ち
カイル様が、赤い薔薇を持ってきて下さった。
今日のことで、私に気を使ってのことだろうと思ったが嬉しかった。
しかも、薔薇の数に意味があったなんて知らなかった。
カイル様は私と同じと言ってくれた。
…カイル様とずっといたい…
ご迷惑になるからカイル様から離れるべきと思ったが、やめよう。
ハンナさんもオーレンさんもカイル様の側に、と言ってくれた。
カイル様の言葉を信じたい。
私でいいのなら、ずっとカイル様の側にいようと思った。
赤い薔薇を見ていたら、薔薇についていたリボンが目に入った。
カイル様がくれたから、リボンも捨てたくない。
狼さんのぬいぐるみの足にリボンをキュッと巻いた。
「うん、これなら可愛いわ。」
カイル様がくれたぬいぐるみが大事で、ギュッと抱き締めた。
今夜もカイル様はバルコニーで会って下さるかしら。
沢山泣いてしまったから呆れたかしら。
泣かないように頑張ろう。
カイル様に嫌われたくない。
そんなことを考えていると、ハンナさんが夕食のドレスの支度にきた。
「お嬢様、お支度をしましょうね。」
「はい、お願いします。」
ハンナさんが私の顔を見るとほっとしたような顔をした。
「カイル様がお帰りになって落ち着きましたか?」
「…カイル様の顔をみたら安心しました。」
「ふふ、よかったですわ。」
「ハンナさん、今日は申し訳ありませんでした。」
ハンナさんに頭を下げると、ハンナさんは私のせいじゃないと言ってくれた。
「また一緒にお買い物に行きましょうね。私もお嬢様と一緒で楽しかったのですよ。」
「はい、お願いします。」
ハンナさんが優しく支度をしてくださり、夕食に行こうと部屋を出ると、廊下にはカイル様がいた。
「準備は出来たか?」
「はい、…あの待ってて下さったのですか?」
「今日は早く帰ったからな。」
カイル様はいつもの騎士の服と違いタキシードを着ていた。
カイル様は背が高くタキシードが決まっていた。
格好いいと見とれてしまった。
「さぁ、来なさい。」
「はい…」
ハンナさんを見ると、口に手を当てニコニコしていた。
カイル様の横を歩いていると、少しだけ、手を繋ぎたい気持ちがあったが言えなかった。
少しだけでいいから、いつか手を繋いで歩けたらいいのにな。と思った。
食堂につくと、カイル様が椅子を引いて下さった。
夕食が始まりカイル様はシュワシュワのシャンパンを飲んでいた。
「ルーナ、明日も昼食を届けてくれるか?」
「行ってもいいのですか?」
「実は、明日君の義兄上のディルスの上司がルーナに謝罪したいと言われ俺の執務室にくる。」
「謝罪されるのですか?」
驚いた。
義兄上ではないにしろ、謝罪されたことなどなかったから。
「嫌か?」
「カイル様も一緒にいますか?」
「当たり前だ。一人にはさせないから心配はいらない。」
「カイル様と一緒なら頑張ります。」
カイル様が少しだけ微笑んでくれた。
今まで、どうして婚約者候補の方がいなくなったのかわからない。
カイル様はとてもお優しい方なのに。
夕食がすむと、カイル様は部屋まで送って下さった。
隣の部屋だから送って下さったのかもしれないけど。
カイル様を見ると、いつもの凛とした顔だった。
まだ本当は一緒にいたいと思った。
「あの…カイル様。」
「どうした?」
「…また寝る前にバルコニーで会えますか?」
「構わないぞ。」
「本当ですか?嬉しいです。」
「バルコニーで待っているからゆっくり来なさい。」
「はい。」
嬉しくって、急いで準備しようと部屋に入るとハンナさんがお風呂の準備をしてくれていた。
「お嬢様、いつでもお風呂に入れますよ。…あら、どうされました?いいことでもありました?」
嬉し過ぎて、顔に出ていたみたいだった。
「…私今日あんなことがあったのに、カイル様といられて嬉しいんです。呑気な人間ですね。」
「カイル様の側にいれば間違いありませんよ。」
「今日も寝る前にバルコニーで会って下さるんです。私、嬉しくって。」
「今日も…?」
「はい。」
顔が温かくなっているのに気付いて、両手で押さえながらハンナさんに話した。
「なら、うんと綺麗に洗いましょうね。新しい流行りの艶が出るシャンプーも買いましたから、すぐに使いましょう。」
「嬉しいです。」
少しでも綺麗になったらカイル様は喜んで下さるかしら。
シャンプーのいい匂いに包まれてそんなことばかり考えていた。