ルーナの涙
ルーナと俺は二人で個室に入り、ヒューバートはハンナと気をきかしたのか隣の個室にいた。
「ルーナ、もう大丈夫だ。辛かったのだろう。」
「…ごめんなさい、ごめんなさい」
「ルーナは何も悪く無い筈だ。」
「でも、義兄上がカイル様まで。私のせいです。」
「あれは騎士の恥さらしだ。ルーナは悪くない。」
「でも、私何もないんです!カイル様の為に何もお役に立てないっ…」
「家が辛かったのだろう。俺に話しなさい。」
ルーナを抱き締めると、泣きながらも話してくれた。
一年前に死んだ父親であるドワイス伯爵は嫡男が欲しかったが産まれたのは女のルーナで、全く関心を示さなかったこと。
母親は出産が難しかったがドワイス伯爵は嫡男が欲しかった為二人目を強要し、二人目の流産と共に亡くなったこと。
ルーナが8才の時に、再婚し継母と連れ子のディルスが邸にきたこと。
父親はルーナに関心が無いまま、継母はルーナを可愛いがることもなくディルスも継母と同じだったこと。
聞いていて、胸が痛くなった。
ヒューバートの言うとおり、腕の一本も折ってやればよかったとさえ思った。
実家から放り出すように出され、俺の邸に来たと思うと何故あの日早く帰らなかったのか、自分を責めた。
「ルーナ、二度と実家には帰らなくていい。俺の側にいるんだ。」
「…私、図々しいんです。何も持ってないし、後ろ楯もないんです。なのにカイル様といたいんです。」
「俺はルーナさえいればいいんだ。後ろ楯も必要ない。」
腕の中にすっぽりと入っているルーナを二度と実家に帰さないと決めた。
「ルーナ、俺の話を聞いたことないか?今まで婚約者候補は何人も来たが誰一人一週間ともたなかった。朝食さえ一緒にとりたいとも思わなかった。俺は冷たくて愛想がないそうだ。実際、今までの候補の者達に笑った記憶もない。まともに話さえしなかった。ルーナだけだ。」
「…私だけですか?」
涙をふきながらルーナは俺の顔を見上げるように見た。
「俺が側におきたいのだからずっといなさい。」
「…側にいていいのですか?」
「ルーナ以外は要らん。」
ルーナはしがみつくように抱きついてきた。
「ずっといます。いさせて下さい。カイル様。」
「そうしてくれ。」
こんな小さな体で辛かっただろう。
だが問題が解決しなければルーナはずっと辛いままだ。
俺が必ず問題を片付けてやる。
俺はルーナの為にドワイス家と話をつける決意をした。