【配信記念SS】結婚式の後の王女様は
電子書籍配信記念のSS
ミランダ王女とグレイの結婚式が終わった後の話です。
「あの男……! なぜ、毎回すぐに王都を去るんですの!?」
王城の一室。結婚式が終わり、グレイとやっとゆっくりと休めていた。くつろいだ姿でソファーに足を組んで座っているグレイが、勢いのままに机を両手で叩きつける私__ミランダを呆れた顔で見ている。
誕生日が近いと言って、カイルが早々にルーナを連れて王都を去ってしまった。
いくら王女の結婚式で私が忙しかったとしても、少しぐらいなら時間を取るつもりだった。
でも、カイルが領地に帰ると行って、ルーナを連れて帰ってしまった。
「忙しいのだろう……カイルは、昔と違って今はルーナ様もいるし、ヒューバートの話では毎日邸に帰ろうとしていると言っていたぞ」
「帰りたいなら、一人で帰ればいいのですわ! ルーナは置いてくれて行っても大丈夫ですわ!」
「だから、そのルーナ様がいるから、早く連れて帰りたいのだろう……誕生日も過ぎたことだし……」
「そう言えば、誕生日が過ぎているから、結婚できますわね」
「俺たちの結婚と被らないようにと陛下に言われたから、まだ結婚できなせいでら怒っているのかもな。カイルは、ルーナ様が誰かに取られそうで、心配なのだろう……アルベルト様が誘うから……」
「……ルーナがすぐに王都を去るのは、兄上のせいかしら?」
「……あまり、そういうことで二人を追い詰めない方がいいと思うぞ。また、カイルの眉間にシワが寄る。どのみち、また会えるだろう。ルーナ様も、ミラに会いたいとカイルに言っていたらしいし……」
「まぁ……そういうことでしたら、許して差し上げますわ」
そう言われれば、ルーナの可愛い顔が浮かび、ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。
グレイは呆れたままで一呼吸つく。
「ずいぶんルーナ様を気に入ったな」
「……グレイは気づきませんでしたの?」
「何をだ?」
「ルーナは、王女に媚びを売らないんですのよ。確かに、気は遣っていましたわ。でも、取り入ろうとする雰囲気などまったくありませんでしたわ」
「ああ、それは……そうかもな……アルベルト様にも、気に入られようなどと思ってないみたいだし……むしろ、カイルが許さないというか……」
「カイルなど、どうでもいいですわ。でも、そのカイルが私とルーナを引き裂くのですよ!」
「いや、引き裂いているわけでは……むしろ、アルベルト様と引き裂こうとしているという気が……」
「……っ、兄上が余計なことをするから……」
「そう言うな。手紙でも書くか? 送り先なら、ファリアス公爵領の邸にすればいいだろう……」
「そうですわね……お父様にも、もう一度お願いしてきますわ」
「そうした方がいい。今は、王室に問題を抱えるのは得策ではない」
そう言って、グレイが私を引き寄せた。逞しいグレイの胸板に寄りかかると、グレイに片思いしていたことを思い出した。
たまたま騎士団訓練所の見学に連れていかれた時に、お父様と二階の見学席から見下ろした先にグレイがいた。赤髪は珍しくもなんともないのに、始めてグレイを見た時から目が離せずにいたのだ。
一目ぼれだった。
それから何度も、グレイを目当てに騎士団訓練所をこっそりと覗きに行っていた。
「あなたと結婚できて良かったですわ……」
「それはこちらのセリフだ……アルベルト殿下のことがあったとはいえ、すぐに結婚を認められたのは、千載一遇のチャンスだった」
「何もなくても、グレイ以外とは結婚しませんけどね」
「そういう性格だから、陛下が駆け落ちを恐れて結婚を認めてくれたのかもな」
「まぁ、グレイとなら、いつでも駆け落ちしてもいいですわね。でも、あなたは、お父様たちが折れるまで、逃げずに懇願するのでしょうね……」
ちらりとグレイの腕の中から見上げると、「そうだろうな」と言いたげに微笑んでくれていた。