公爵騎士様は悩んでいた
騎士団でシャロンは泣き崩れていた。
こんなに大事になるとは思わなかったらしい。
公爵夫人には似つかわない幸せそうなルーナを妬み、ちょっとした嫌がらせのつもりで、ルーナを置いて帰ったと話した。
それがまさか薬まで盛るとは思わなかったらしい。
それでも、泣きながら謝る姿はあった。
ルーナと気が合えば、ルーナの護衛にと考えていたが、無理だとハッキリ悟ってしまった。
フィーネル伯爵は善人で、父親とも仲が良く、シャロンは昔から口数は少ない物静かな人間と思っていたが、全く違っていた。
「ヒューバート、ルーナにおかしな噂は困る。上手くやれそうか?」
「大丈夫ですね。ルーナさんは体調が悪く出ていったと思われています。レストランの注文の記録にもヘイデンが飲んだと思われる酒の記録が残っていました。争ったのも、人気のない貴族専用の客室の廊下だった為、目撃者はいません。客室担当のスタッフが駆けつけた時にはもうルーナさんはいなかったようで、ジュード様以外は見てないそうです。…シャロンはどうしますか?」
「騎士を辞めるように話す。夜には父親のフィーネル伯爵がつくから、そのまま引き取ってもらう。」
そして、夕方にはフィーネル伯爵が到着した。
事情を話すと、真っ青な顔になり頭を下げ、謝罪した。
シャロンは隣で泣いている。
そして、シャロンも再度謝っていた。
そのシャロンに向かい、いつも穏やかだったフィーネル伯爵が声を荒げて怒りをあらわにした。
「だから、あの男はあれほどダメだと言ったではないか!」
「しかし、支度金がなければ邸の維持ができません!私が、犠牲になればと!」
「一時の金で凌いでもその場かぎりではダメなのだ。」
「その間に盛り返せば!」
「盛り返すメドがない。」
「しかし!」
「…邸は買い手が見つかった。後は我々は慎ましく生活をするのだ。それなのに、こんな事態を引き起こすとは…!」
「そんな!生まれ育った邸が失くなるなんて…」
シャロンは、自分のした事を忘れたように呆然としていた。
帰る邸を失いながらも迎えに来てくれる優しい父親がいるシャロンと、邸はあっても帰ることのできる優しい父親もいないルーナとどちらが幸せなのか。
俺の邸にいなければ、ルーナはずっと一人だったのだ。
「フィーネル伯爵、シャロンを手助けすることはできませんが、伯爵がどうしてもお困りなら、相談して下さい。」
フィーネル伯爵は本当に善い方なのに、残念だ。
もっと早く、相談してくれればまた違っていたかもしれない。
だが、伯爵はきっと頼ってくることはないだろう。
フィーネル伯爵はシャロンを連行するように連れて帰って行った。
「ヒューバート、シャロンがよからぬことをすることに気付いていたか?」
「ここまでとは思いませんでしたけど、元々シャロンは貴族意識が高いから、俺のことも見下していたでしょ。ルーナさんのことも見下していたと思いますよ。まあ、俺は呼び捨てにしてやりましたけどね。」
「ルーナは公爵夫人になったのだぞ。」
「だから余計に自分と比べたのでは?」
「…ヴィンスが悪役令嬢の考察をしていたと言っていたが、まさか煽ったのではないな?」
「そんなことはしませんよ。ルーナさんに仕える気がないな、と思っただけです。どうせ、シャロンはルーナさんが怒らないとでも思ったのでしょうね。」
では、やはりルーナの護衛はヴィンスだけ置いて行くことになりそうだ。
「…余計なお世話かもしれませんが、ルーナさんは薄々気付いているのでは?」
「最近、妙に頑張ったり、考え事をしているようだから気にはなっていたが。」
「ゼリーのこともそうでしょう。思い出が欲しいのでは?王命がくる前に話した方がいいですよ。」
不安にさせないようにと思っていたが…。
やはり、今夜にでも話すべきかと悩んでしまっていた。




