婚約をしよう
「ヒューバート、ワインを飲むか?ウィスキーもあるぞ。」
「団長のところはタダで高い酒が飲めるからいいですねー。」
ヒューバートは、機嫌よくワインを飲んでいた。
こいつはいつもよく飲む奴だ。
「それにしても、ルーナさんは可愛いですね。磨けば光るタイプですよ。」
「ルーナを変な目で見るんじゃない。」
「普通の意見ですよ。」
ウィスキーを片手に氷をカランとさせ、ヒューバートに聞いてみた。
「…ルーナと婚約し、結婚をしようと思うがどう思う。」
「どうとは?団長がルーナさんに惚れていることですか?それとも結婚も婚約も16歳からじゃないと出来ないのにしようとしてるとか?犯罪ですよ。」
「違う!ルーナの家のことだ!」
「何かあるんですか?」
「よくわからん。」
「は?まさか拐って来たんですか?」
「…お前口がよく回るな…」
「暴力反対ですよ!」
ヒューバートに向かい、立ち上がったがヒューバートはソファーの後ろに逃げた。
明日はしごいてやる。
そう思った。
「まぁまぁ!今はルーナさんの気持ちが一番ですよ!団長がハッキリするべきです!家のことは後からでいいじゃないですか!」
ルーナの気持ち?
「よくわからず来たみたいだし、俺のようなオッサンを選ぶか?」
「団長はまだ若いでしょ!」
「今夜話してみるか…」
「夜這いはやめて下さいよー。」
「…明日は鍛練にするぞ…」
ウィスキーを一気に飲み干し部屋に帰ることにした。
ヒューバートを邸に泊め、俺も部屋に帰った。
服を寝る時のTシャツに着替えながら思った。
ルーナに話をするのに酒に酔って言ってもいいのか!?
いやあれしきの酒では全く酔わんが!
…こんな事を考えること自体がおかしい。
今までなかった。
だが寝る前にルーナの顔は見たい。
バルコニーに出るとルーナはいない。
もう寝たのか?
ルーナの部屋の窓から覗くとルーナはぬいぐるみを抱いてベッドに足をたらし転がっていた。
気に入ってくれたのか?
だが俺は気付いた。
これでは覗きじゃないか!?
俺ともあろうものが!?
その時、ルーナは急にガバッと起き上がった。
俺は驚いた。
敵陣で剣をふるっていた時より驚いたかもしれない。
何故急に起きたんだ!?
俺か!?
俺が殺気でも放っていたか!?
いや、ルーナに対して殺気などない!?
見てただけだ!?
いや、それも変だ!?
そのまま、その場に座り頭を抱えているとルーナが走ってやってきた。
「カイル様、来てくださったのですか?」
ぬいぐるみを抱いてルーナは俺の前にしゃがみ込んだ。
「カイル様?」
「…様子を見に来た。」
「私のですか?…カイル様に会いたくて本当はさっきまで起きてたんです…」
目の前にルーナの顔がある。
いつもは立っているから目の前に顔がくることはない。
思わず、ルーナの手を握ってしまった。
「俺に会いたかったか?」
「…はい…ぬいぐるみのお礼をもう一度言いたくて。」
「俺はルーナに話がある。」
「はい…」
ルーナの手を引き、立たせると軽く羽のように立ち上がった。
「ルーナ、俺と婚約しよう。」
「…」
ルーナは無言で泣き出した。
「…嫌か?」
「…違います、嬉しくて…来たばかりなのにこんなによくしてくださって…」
「出会ったばかりだが、俺はルーナと自分の心を信じる。君と一緒にいたいのだが。」
「カイル様の気持ち?」
「これからもルーナを好きになると思う。必ず。」
「…私も、私もカイル様が好きです。」
ぬいぐるみに顔をうずめて一生懸命言っているルーナが愛しいと思った。
ルーナをそっと抱き締めると抵抗することなく腕の中にいてくれた。
間にぬいぐるみがあり少し邪魔だな、とは思ったが、今はルーナが腕の中にいてくれるだけで良かった。