夜会の準備は仁王立ちで見ますか
今夜はハンナさんがいない為、ドレスの支度は臨時で人に来てもらっていた。
ドレスを着た後、アクセサリーや髪をセットして頂いている間、カイル様は後ろで腕を組み仁王立ちでみていた。
臨時に来て頂いた方はハンナさんと違いカイル様に慣れてなく、鏡に移るカイル様の表情に恐れをなしていたようだった。
櫛を落とし、すみません、と恐縮して謝られるとこちらが申し訳なくなる。
「あの、カイル様。」
「どうした?」
「少しだけですね、離れてもらえますか?せめて鏡に映らないように移動してもらえると…」
カイル様は、しょうがないな、と鏡に映らないように一人用のソファーに移動してくれた。
カイル様が鏡から消えやっと支度が整った。
「新しいドレスありがとうございます。似合いますか?」
「綺麗だな。いい匂いもするな。」
「少しだけ、香水もつけました。」
「香水も好きか?」
「あまり匂いのきついのは好きではないですが、ほんのり匂うくらいならいいですね。」
カイル様はそうか、と頷いていた。
まさか、また贈り物をする気ではと思ってしまった。
何だか、無意識におねだりをした気分になってしまった。
雨はまだ降っていたが夜会の馬車乗り場は屋根があり、濡れることなく、会場に入れた。
会場に入ると、やっぱり皆が見ている気がする。
入るとすぐにパティさんが声をかけた。
パティさんの隣には、ギリンガム伯爵もいた。
ギリンガム伯爵はカイル様と違い柔らい雰囲気の方だった。
「ルーナ、遅かったわね。」
「すみません、支度に時間がかかってしまいまして。」
だってカイル様がずっと仁王立ちで見ていたのです。
「控え室にあなたへのプレゼントを置いておきましたから帰りに受け取って下さいね。」
「プレゼントですか?」
「お茶会で言ったでしょ?」
何でしたっけ?
ミラ様のことでもう忘れました。
よくわからないまま、お礼だけ言いました。
パティさんとお話したかったけど、カイル様が他の騎士団長に挨拶に行くというので一緒に行くことになった。
挨拶に行く前に、第7騎士団長のケネス様は女好きだから近づくな、とカイル様に言われた。
どうやら、特に貴族の娘が好きらしい。
もう一人紹介されたのは、第8騎士団長のライナス様だ。
こちらはルーベンス様に少し似ているような落ち着いた感じの方だった。
挨拶をお互いすると、皆様が、綺麗だと褒めて下さった。
皆様社交辞令がお上手です。
「こんなに綺麗な娘がいる伯爵家がいるのは初耳ですね。」
ケネス様が私をジロリと見ていた。
あの視線は何だか嫌だった。
「身分は関係ありません。ぜひにと望んだ娘です。」
カイル様は睨みながら言った。
騎士団長様達と話している間もカイル様はずっと肩を抱き寄せていた。
ケネス様はカイル様やルーベンス様とは合わないのか、適当に話してご婦人方の元へ行ってしまった。
ケネス様がいなくなると、ライナス様がカイル様に一服しないか、と誘ってきた。
「妻を一人にはできません。」
カイル様はあっさり断った。
するとルーベンス様がカイル様の耳打ちするようにこっそり話した。
「今日の会議の決定事項を話すだけだ。すぐに終わる。明日には通告するから、カイルも聞いていた方がいい。」
仕事の話なのだろうとわかったので、カイル様に一人で大丈夫だと伝えた。
「すぐに戻りますよね。一人で大丈夫ですよ。」
「ヒューバートかヴィンスが来たら一緒にいなさい。」
「はい、カイル様も早く戻って下さいね。」
「ルーナ様、30分もかかりませんからすぐにカイルをお返ししますよ。」
ルーベンス様がクククッと笑いながら言った。
カイル様が行ってしまったので今のうちにお花を摘みに行くことにした。
用がすみ、会場までの真っ直ぐの短い距離の廊下を歩いていると死角になっている曲がり角でいちゃついている方がいた。
思わず見てしまうと、白い小さな包み紙を渡しながら、キスをしている。
ケネス様だ。
カイル様が女好きだから近づくなと言っていた。
ケネス様が私の方に振り向くと同時に走って逃げ出してしまった。
他人のラブシーンを見て、自分の方が恥ずかしくなってしまった。
顔が赤くなり、恥ずかしくなって、一人少し冷やそうと、屋根のあるバルコニーに出た。
外は雨で、赤くなった顔を冷やすのにちょうど良かった。