頑張りました
パトリシア様の邸の馬車で、騎士団に向かうが、来た時と違い雨が降り注いでいた。
ここは第7騎士団の管轄で建物も騎士団によって微妙に違いがある。
騎士団の入り口が見えたと思ったら、馬車が、右に向きを変えた。
「入り口はあちらではないのですか?」
雨が降っているため、大きな声で言った。
「馬車の入り口はあちらから回らないと行けません!」
御者も濡れながら大きな声で言った。
「なら私だけ入り口で降ろして下さい!回ってからだと遅くなります!」
少しでも早く行かなくてはと焦り、入り口で私だけ降りた。
門番が、入り口の窓ガラスのない小さな小部屋のようなところから見ている。
「どうされました?」
門番が、馬車から焦って降りた私に聞いてきた。
「私、第3騎士団長のカイル・ファリアス様の妻のルーナです。至急カイル様をお呼び下さい。」
私は雨具用のマントを頭から被っていたが、馬車から降りて門番のところまでの少しの距離でもうびしょ濡れだった。
そのせいか、それとも私がカイル様の妻と思われていないのか、門番は困惑していた。
門番二人が、困惑したまま話していた。
「確かにファリアス公爵様は結婚なさったが、」
「だが、あれは、ギリンガム伯爵の馬車だ。」
と短いが会話していた。
「大至急なのです!」
思わず祈るように両手で握りしめお願いした。
「わかりました。騎士団にご案内いたします!」
門番の一人が案内の為出て来て、私は少しでも早くと思い走ってしまった。
門番の方も私に合わせて走り出した。
確かにこれでは、使用人ではすぐにグレイ様にお繋ぎしてもらえないと感じてしまった。
門番の方の案内で、カイル様達がいる部屋に案内される途中、広い廊下にヒューバート様達騎士の方々がいた。
「ヒューバート様!お会いできて良かったです!」
「ルーナさん!?どうしたんです!?びしょ濡れですよ!」
ヒューバート様は門番にすぐにタオルを、と指示していた。
「カイル様にお伝え下さい!ミラ様が体調が悪いのです。すぐにグレイ様を呼んで欲しいのです!」
私の必死の姿にヒューバート様はすぐに呼んで来ます!と言い行ってしまった。
残された濡れ鼠のような私は、その場にいた騎士達と待った。
「タオルをお持ちしました!」
ヒューバート様と入れ替わり、門番が走ってタオルを持ってきた。
それを一人の騎士がとり、私に差し出した。
「第7騎士団のヴィンスです。どうぞ、ファリアス公爵夫人。」
「ありがとうございます。すみません、ご迷惑をかけてしまい。」
ヴィンス様はカイル様みたいに落ち着いた雰囲気のある方だった。
「問題ありませんよ。恐らく会議はもう終わってます、きっと中で談笑でもしていると思いますよ。」
優しい話し方に焦っていた私は少し落ち着いてしまった。
「そのマントはびしょ濡れです。良ければ俺のマントをどうぞ。」
ヴィンス様はマントを脱ぎ私にかけようとしてきた。
「すみません、びしょ濡れのままで、すぐに脱ぎます。」
「どうぞ、俺のを使って下さい。」
「それでは、ヴィンス様のマントが汚れてしまいます。」
「かまいません。」
濡れたマントを脱ぐとヴィンス様は私にマントをかけた。
ヒューバート様も優しいし、騎士達は皆優しいのかしら、と思った。
その時、カイル様が私を呼ぶ声がした。
「ルーナ!」
「カイル様!」
私は脇目もふらずカイル様に駆け寄った。
「びしょ濡れじゃないか!?どうしたんだ!?」
「お会いしたかったです!ミラ様が体調が悪くて、グレイ様を呼んでいるのです!」
カイル様はびしょ濡れの私を躊躇なくマントで包み抱き締めた。
「ルーナ様、ミラがどうしたんですか!?」
グレイ様もカイル様と一緒に走って来ていた。
「体調が悪くて、パティさんのお邸で寝ています。すぐに行って差し上げて下さい。」
心配そうに焦っているグレイ様に私が伝えると、グレイ様は、悪いが、先に行く。と言い走り去った。
「ルーナ、雨の中呼びに来てくれたのか。よく頑張ったな。」
「はい、頑張りました。カイル様、私も心配ですからミラ様のところに戻ります。」
「ああ、俺も一緒に行こう。」
「会議はどうされるのですか。」
「もう終わっている。」
カイル様はマントの中にいる私を見ると眉間にシワが寄ってきた。
「そのマントは騎士のだろう。どうした?」
「あちらのヴィンス様がかけて下さり…きゃあ!」
急にカイル様は私を抱き上げた。
「カイル様、どうしたんですか!?」
「寒いのだろう。震えているぞ。」
「寒いのは少しだけです!」
私を抱えたまま、カイル様はヴィンス様の前に行った。
「ヴィンス、新しいマントは後日用意させる。妻が世話になった。」
「差し出がましい真似をして失礼しました。」
「いや、かまわない。では失礼する。」
カイル様はヒューバート様に後は頼むと言い私を抱えたまま歩き、馬車へと乗り込んだ。