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感情が一つ欠落した朝

 何だかんだ言って家族が作る料理の中で一番おいしいのはお父さんが作る化学調味料に頼り切ったチャーハンかな、とふと思った今日この頃です。


 では、本編どうぞ。

 夕夏は胸に顔をうずめている康貴の頭に手を添えながら、時計を確認する。まだ、朝ご飯を作るような時間ではないが、ゆったりしていられるほどの時間でもない。


 「こう君、もう起きようか」


 優しく囁くように康貴に言う。


 「まだいいだろ、まだ離れたくない」


 その康貴の言葉に夕夏は胸がキュンキュンした。前のように照れて慌てる姿も可愛いが、こうして素直に甘えられるのはもっと可愛い。夕夏でなくとも童顔の美少年に甘えられてはひとたまりもないだろう。


 だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。このままでは時間になっても駄々をこねそうである。そこで、夕夏はあることを思い出した。


 「こう君昨日出された課題やってないでしょ?朝ご飯の前に片付けちゃおうよ」


 夕夏は昨日家に帰って来てから夕飯を作り出すまでに時間があったのでその間に済ませてしまったが、康貴はあの様子だと学校で課題なんてしていないだろうし、家に帰って来てからもいつもはご飯を食べ終わってからするのだが、昨日はすぐ寝てしまった。


 「...そのくらい十分もあれば終わる」


 確かに康貴なら十分もあれば一日の課題くらい終わる。だが、ここで反論の余地を与える訳にはいかない。


 「駄目だよ。後回しにしないで今ちゃんとやろ?」


 正論だ例え十分で終わるとしても課題は早めに終わらせておく方がいい。それが分かっているので、康貴は渋々、


 「...分かった」


 「うん!」


 渋々ではあるがちゃんと了承した康貴の頭を夕夏は撫でてあげた。


 「じゃあ、私は一回自分の部屋で着替えて朝ご飯作りに来るから」


 そう言って康貴の部屋のベランダから自室に移動した。




 いつもより少し早い時間ではあるが、朝食を作り終えて、課題を済ませた康貴と一緒に昼食を取る。その際いつもは康貴の前の席に座る夕夏が隣に座ったので康貴は不思議そうな顔をした。その顔を見て、


 「こう君はこっちの方が嬉しいのかなと思って」


 康貴はどうやら昨日の事ははっきり覚えていないようだ。


 「そう、だな。そっちの方が嬉しいな」


 康貴がはにかむ。照れ隠しなどではなく純粋な笑顔だ。その顔に夕夏の頬はどうしようもなく緩んでしまい、無意識に康貴の頭に手が伸びる。


 「ん...」


 康貴は嫌がるどころかくすぐったそうに目を細め、うれしそうな顔だ。


 その顔を見て夕夏は彼を守ろうと思った。普通であれば逆だ。男が女を守る、それが普通の構図だ。だが、今夕夏の頭は母性に支配されていた。母は子を守るものだ。故に母性に支配された夕夏はこの時康貴を守ると誓った。その気持ちが変わるのか変わらないのかは今はまだ分からない。




 いつもの通学路。昨日まではくっ付く、くっ付かないでぎゃあぎゃあと騒いでいた通学路だが、今日は静かだ。でも、別にくっ付いていない訳じゃない。むしろ今日は手を繋いでおり、昨日の穏やかな喧嘩よりも親密さを表していた。


 通学路の人通りが多くなってきても二人の様子は変わらない。朝っぱらから手を繋いで投稿している二人に周囲の好奇の視線が突き刺さる。昨日まではそれを気にしていた康貴だが、今日は全く意に介した様子もない。


 勿論通学路には同校の生徒もいるのだが昨日までは一番気にしていたその視線も男女両方全く気にすることは無かった。


 「おーい、二人ともおは、よ、う?」


 背後から蓮の声が聞こえてきたが、不自然な挨拶をされたので、綾人は夕夏と手を繋いだまま蓮の方に振り替える。


 「おはよう蓮。どうしたんだ?」


 康貴は心底不思議そうな顔をして言う。だが、そう言われた蓮の方がどうしたんだと聞きたかった。


 「夕夏、お前らどうしたんだ?」


 蓮は様子のおかしい康貴の方は一旦無視して夕夏に疑問をぶつけた。


 「どうしたって言われても...」


 夕夏は返答に困った。甘えてくれるのが嬉しくて何故康貴がこんな状態になっているのかという一番大事なことを後回しにして甘やかしていた結果だ。


 一応夕夏は昨日の事を教え得る限りは蓮に話した。




 「そうか、そんなことが...康貴、お前昨日何があったんだ?」


 「さあ?」


 「さあって...」


 康貴のあまりにも淡泊な返事に蓮は望むような答えが返ってこないことを悟る。


 「何も覚えていないのか?」


 「何も覚えていないということはない。むしろ全て覚えているともいえる」


 「どういうことだ?」


 「記憶が霞んでるんだよ」


 「霞んでる?」


 「文字通り、記憶に霞が掛かったようなんだ。覚えてはいるが曖昧にしか思い出せない。言葉は途切れ途切れ、人の顔はぼやけてほとんど見えない」


 「それ大丈夫か?病院行った方がいいんじゃないか?」


 「そうだよ!大丈夫なの?」


 蓮の言葉に同調して夕夏が声を上げる。


 「必要ない。記憶が無いということはその記憶は不要なものだということだ。それに感情が一つなくなるほどだ。いい記憶なわけが無い」


 「気付いてたの?」


 「当たり前だろ。昨日の記憶が無いだけで、今までの記憶はちゃんと残ってるんだから」


 「そうか、...ん?じゃあ、何で最初俺にどうしたんだ、なんて聞いてきたんだ。突然お前が夕夏を受け入れ始めたら不思議に思うに決まってるだろ」


 「羞恥心が消えていることを一々意識している訳無いだろう。今の俺は夕夏とこうしていることが当たり前だ。当たり前のことに疑問を持たれたら不思議に思うだろ」


 「そう、か?...まあいいや、今の康貴に常識は通じないんだろ?何しろ感情が一つないんだからな」


 「癪に障る納得のされ方だが反論する要素はないな」


 「よし、じゃあ、話が纏まったところで早く学校に行こうか!遅刻しちゃうよ」


 「そういえば今日は凛は先に学校着いてるのかな」


 「あれの事なんて別にいいだろ」


 「はいはい、そうですね」


 合流しなかった凛の話をしながら康貴達は学校に向かった。

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