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通学路(1)

朝ご飯を食べ終えた後、身支度をし、康貴と夕夏は家を出た。


 「そろそろ期末テストだねー」


 二か月間通い続けている道で、頬を撫でる風にその美しい黒髪を靡かせながら夕夏が呟く。


 「そうだな」


 その呟きに康貴は興味がなさそうな、落ち着いた声音で簡潔に応える。


 「さすが、学年主席は余裕だねー。私も康貴みたいな頭が欲しかったよ」


 康貴達の通う学校、星野宇都美高等学校は県内で有数の進学校なため、偏差値も結構高い。その学校に康貴はぶっちぎりの一位で合格していた。しかし、康貴は・・・


 「別に世の中頭が良ければ生きていけるわけじゃない。学生の時に頭がよかっただけじゃ社会で優遇されることは無い。それに、俺はあんな教えられたことを書くだけの物とその結果に大した意味があるとは思えない。高校の成績なんて多少就職活動で有利になれるくらいだろ」


 「そりゃあ、未来の事を考えたらそうなのかもしれないけど、それでも華々しい学生生活、青春の中では大きなアドバンテージじゃない?」


 「そんなものは『華々しい学生生活』というのが前提条件だ。友達が多い訳でもなく陽キャってわけでも無い奴が成績良くてもただのガリ勉にしか見えないんだよ」


 「そうかなー?でも、こう君ならきっとたくさん友達できるよ!」


 夕夏が鼻息荒く言う。しかし、そんな夕夏に康貴は白い眼を向ける。


 「え、え?な、なに?その目」


 夕夏は白い眼を向けてくる幼馴染に動揺してしまって、言葉が詰まっている。


 「・・・ゆうお前、俺が何で友達少ないのか本当に分かってないのか?」


 「え、逆に何でか分かるようなはっきりした理由があったの?」


 はあ、と康貴は一つ深くため息を付く。


 「俺だってなあ、最初はちゃんと友達作ろうとしてたよ。でもな、入学してから四日目、何があったか覚えてるか?」


 「四日目?何かあったっけ?一か月以上前だから覚えてないなぁ」


 冗談ではなく本気で言っているようだ。可愛く首を傾げて必死に思い出そうとしている。


 「あの日、お前約束破って俺に抱き着いただろう」


 「ああ、そういえば!でもそれが何か関係あるの?」


 夕夏にとっては康貴へのハグのなど日常茶飯事の事なので、事も無げに言うが、この行動は問題大有りだ。


 夕夏は十人に聞けば周りを巻き込んで百人がそうだと答えるほどの美少女だ。おそらく入学初日に夕夏に一目惚れしてしまった男子生徒は数多くいるだろう。実際に入学初日に夕夏に告白したものもいたという。


 そこまでは結構なことだ。どうぞご自由にやってくれて構わない。苦い青春の一ページ、いいじゃないか。しかしだ、そんな数多くの生徒を虜にしたであろう夕夏が一人の男に抱き着いたとする。すると、どうなるかなんて分かるよな?当たり前だ。嫉妬の目に晒されるに決まっている。それは必然であり確定事項だ。だからくっ付くのを禁止したというのに、それなのに・・・


 「当たり前だろう!お前が一回抱き着くだけでもアウトなんだよ!もうその時点で試合終了なんだよ!それなのに、それなのにお前はその後さらに何て言った!?」


 『こうくーん。よしよし』


 「っじゃねえよ!頭撫でながら猫撫で声で言うんじゃねえよ!抱き着くだけだったらまだ良しとしよう!ギリギリな!男子の視線だけで済む。だけどな!その言葉のせいで俺は女子にも変な目で見られてんの!ゆうが言うような華々しい学生生活なんてどうやって送ればいいんだよ!つーかぶち壊した本人が言うんじゃねよ!・・・はあはあ」


 流石に疲れた。全部ぶちまけた康貴は呼吸を整えながら夕夏を見た。その視線の先の夕夏は『しゅん』と音が聞こえてきそうなほど、俯いて哀愁漂う顔をしていた。


 その顔をみて康貴は途端に慌てだす。


 「あ、え、いや、その、す、すまん。ちょっと言い過ぎた」


 「こう君が謝らなくていいよ。悪いのは全部私だからね。ごめんね、こう君に気を遣わずに自分勝手にしちゃって。迷惑だったよね。もう私のこと気にしないでいいからね」


 そんな顔で言われても。素直に分かったなんて言えるわけが無いだろう。


 「いや、違う。別に迷惑だとは言ってない。その、もう少し自分の周りからの評価を考えて行動してほしいってだけで、迷惑ではないんだ。ゆうと一緒にいるのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。だから、その、そんなに卑屈にならないでくれ」


 康貴がそう言うと夕夏は俯いていた顔を上げた。


 「ほんとに?ほんとに迷惑じゃない?こう君と一緒にいてもいい?」


 夕夏が怯えるように聞いてくる。


 「勿論だ。それに友達がゼロってわけでも無いからな。まあ高校で出来た友達はいないけど」


 そう言うと夕夏はにこっと微笑み・・・


 「よかったー。こう君に嫌われちゃったのかと思った」


 そう言った途端夕夏は康貴の腕に抱き着いた。腕に柔らかいものが押し付けられる。康貴の鼓動音がどんどん速くなっていき、頬が紅潮してくる。


 「ちょ、そういうのをやめろって言ってるんだよ!話聞いてなかったのか!今は人がいないからいいものを人がいたら大惨事なんだよ!」


 「人がいないんだからいいじゃん!」


 夕夏がにへら~と効果音が付きそうな顔で言う。


 康貴はその顔が可愛すぎて黙り込んでしまった。

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