怒れる母
前にブッ〇オフのラノベの百円コーナーで二十冊ほど書籍を購入したのですが、いざ家に帰って本棚に置くと、なんだか本棚が埋まったことに満足してしまいまして。それ以降読む気が起きず、二十冊の本達が本棚の肥やしになっている今日この頃です。
「なっ、鈴原...」
夕夏を視界にとらえた瞬間ガラの悪い先輩は、だじろぎ、ばっ、と夕夏の手を振りほどくように手を引いた。
「こう君に何をしようとしていたんですか?」
そんな先輩の態度など意に介さず全く同じトーンで質問を繰り返す。
「俺は、別に...」
「何もしてないと?私にはあなたがこう君に暴力を振るおうとしていたように見えましたけど」
「いや、ちゃんと寸止めするつもりだったんだぜ?ちょっと脅かしてやろうと思っただけで」
先輩が白々しい嘘をつく。だが、その嘘で逃げ道は出来なかった。
「へえ、私が手首を掴んで止めた時、あなたの拳は力を弱めてませんでしたけど?」
「それは...」
先輩は口籠ってしまう。当然だ。自らは嘘をついており、それを全て正論で跳ね返される。
「何はともあれ、あなたはこう君に暴力を振るおうとしましたよね?何故ですか?こう君が何か悪いことをしましたか?まあ、それでも暴力を振るっていい理由にはなりませんが」
「...そいつが俺の指示に従わなかったのが悪いんだ!」
どうやら開き直ったようだ。突然威圧するように声を上げる。
だが、夕夏には全く通用せず、変わらず冷静に、いや冷徹と言った方が正しいであろうトーンで言葉を紡ぐ。
「指示に従わなかった?それは昨日のお昼休みのあのことを言っているんでしょうか?だとしたら、自己中心的にも程がありますね。こう君があなたの指示に従わなければならない理由がありますか?こう君があなたの指示に従わなかったところでそれは悪い事ではありませんよね?それとも何か悪い理由でもあるんですか?」
「・・・・・・」
夕夏の少し苛立ちを含んだ声に気圧され、先輩は黙ってしまう。だが、夕夏はそれに構わず言葉を続ける。
「つまり、あなたは自己中心的な考えで勝手にこう君が悪いと決めつけ、こう君に暴力を振るおうとしたということですよね?恥ずかしくないんですか?高校生にもなっていい事と悪い事の区別もつかないんですか?」
嘲る様な言葉の羅列だが、夕夏の表情にその色は無く、至って真面目な顔で言葉を紡いでいる。おそらく夕夏は子供に説教をしているような感覚なのだろう。子供が間違った道を歩まないように、正しい道に導くために。実際先輩は母に叱られる子供の様にだんまりしていた。
が、夕夏の説教には突然終わりが来た。
「席つけーホームルーム始めるぞー...何かあったのか?」
教室の険悪な雰囲気を感じ取りその元凶に岩村先生が目を向け、そう言い放った。
「いえ、何でもありません。先輩そろそろ教室に帰ったらどうですか?」
教室に入ってきた先生に一瞬視線を移した夕夏だが、先生の質問に対して返答すると、すぐに先輩に向き直りそう告げた。
「あ、ああ」
特に言い返すことも無く、正確には言い返す気力もなく、先輩は大人しく教室から出ていった。
「...席につけー。ホームルーム始めるぞー」
空気を入れ替えるようにわざと気怠げな声で岩村せんせいは言って、皆その言葉に従い自分の席についた。
「いやー、朝の夕夏は怖かったなー」
昼休みに屋上でご飯を食べながら蓮が言う。
「ああ、あれは怖かったな」
「そうね、ゆうのあんな姿を見たのは小学校の頃に康貴君にちょっかいを掛けてきた奴らを撃退した時以来だわ」
康貴と凛も同調する。
「確かに、あの時もゆうは怖かったな。相手は涙目になってたし」
「ははは!あれは傑作だったよな!同い年の女の子に説教されて涙目になってたんだからな」
「俺もゆうにあんな声とトーンで説教されたらちびるな」
「えー、そんなに怖かった?私はただ注意しただけなのに」
夕夏が可愛らしくむくれて非難の声を上げる。
「あれ注意してただけなのか...」
「夕夏は起こらせちゃ駄目だな」
「ゆうはいいお母さんになるわよ」
夕夏の予想外の言葉にそれぞれ違う反応を示した。
「皆それ褒めてるの?貶してるの?」
「ホメテル、ホメテル」
「ホメテルゼー」
「ホメテルワヨ」
「心が籠ってなーい!」
「まあ、何はともあれ、庇ってくれてありがとな。ゆう」
康貴のその言葉を聞くと、夕夏は突然康貴に抱き着き、
「こう君に素直にありがとうって言われたの久しぶりな気がするー」
「そうか?」
「そうだよー」
康貴の頬に自分の頬を擦り付けながら夕夏が嬉しそうに言う。
「どうやら、しばらくこの状態が続きそうね」
「そうだな」
凛と蓮が微笑ましそうに二人を見る。
この時、凛と蓮は自然な会話が成り立っていることに気付かなかった。
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普段優しいお母さんが怒るとメチャクチャ怖いですよね((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル