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異世界の派遣屋さん

「だからさあ、なんでこんな仕事しかないわけ?もっとあるでしょ?いい仕事がさあ・・・」


ここは、泣く子も黙る魔王城の一角にあるオフィス。

俺は、愚痴り続けるスライムの若者に、もう小一時間近くも付き合わされていた。


・・・いい加減、解放されたい。

心の中で、そっとため息をつく。


俺は魔王軍の中で四人しかいない側近の一人。

魔王様の意を汲んで、大陸全土に魔物を送り込む。

それが代々俺の役職に就いた者の任務であり、今もそれに変わりはないのだが・・・

なんというか、ちょっとニュアンスが違う気がする。


時は遡ること、およそ五百年前。

ここ、ベートガルド大陸に、魔王とその手下達が大挙して押し寄せ、人間達を襲い始めた。

初めは為す術もなく魔物たちに殺されていった人間たちだったが、やがて反撃に転じるようになる。

「勇者」と呼ばれる勇敢な冒険者たちが立ち上がり、魔王軍と壮絶な戦いを繰り広げることになった―――らしい。


少なくとも、俺たち、竜族に伝わる伝承ではそう言われている。


それから五百年。

実は今も、人間と魔物たちの争いは続いている―――表向きは。


基本、太陽の光に弱い俺たち魔物は、「ダンジョン」と呼ばれる各地の洞窟に閉じこもっていて、ダンジョンに眠る「魔王殺し」と呼ばれる貴重な武器・防具などの財宝を守っている。


一方、冒険者たちは、ダンジョンに巣食う魔物を討伐し、財宝を手に入れるために、ダンジョンの奥深くまで入り込み、現れたモンスターと死闘を繰り広げるのだ。


ここまでは、俺が聞いている五百年前の時代とそう大差は無い。


ただ、五百年前と今とで大きく違うことが一つだけある。

それは、冒険者たち、つまり人間たちがほとんど死ななくなった、ってことだ。


もちろん昔はそうじゃなかった。

陽の光にさえ当たらなければ、俺たち魔物は、基本的に人間よりも力が強い。


だから、この大陸に魔王軍が侵攻した最初の頃は、魔物たちはダンジョンの中に入ってくる人間たちは残らず殺してしまい、その肉を喰らっていたらしい。

ダンジョンの中では、昔魔物に喰い殺されたと思われる人間の頭蓋骨が見つかったりする。


じゃあ、なんで今は人間は死ななくなったのか?

五百年の間に、いったい何があったのか?

人間が強くなり、魔物に負けなくなったからか?

いや、それとも、俺たち魔物が弱くなり、人間を殺せなくなったからなのか?


どちらも違う。


正解は、俺たち魔物が、あえて人間たちを殺さないようになったんだ。


さっき言った通り、昔はダンジョンの中に入ってくる人間たちは俺たち魔物が残らず喰いい殺していた。


でも、そのうち、俺たち魔物の祖先の誰かが気づいたんだな。

―――あれ?これ、人間、殺さないほうが良くないか?って。


何故かって?

それは、人間たちを殺すよりも、やつらの持ち物を奪ってダンジョンの外まで追い返したほうが、俺たち魔物にとってもメリットがあったからなんだ。


人間たちがダンジョンに持ち込む「食べ物」なんかが良い例。


俺たち魔物は、自分たちが食べるものを「調理する」という概念が無い。

それが木の実であろうが、小動物であろうが、ただそのままかぶりつくだけだ。

人間の肉だって、別に食べても大して美味いもんじゃない。


でも、人間の肉よりも、はるかに美味いものがあった。

それが、人間たちがダンジョンに携帯食として持ちこんで来ていた食べ物。

あれはめちゃくちゃに美味いんだ。


そりゃまあそうだ。

俺たち魔物が普段食っている者は、火が通って無いし、味付けもしていないからな・・。


人間たちの食べ物の美味しさが知れ渡ると、

やがて俺たちは、人間たちを殺さずに、やつらが持っている食べ物だけを奪うようになった。


食べ物が無くなると、人間たちは一旦ダンジョンを引き返し、装備を整えて、またダンジョンの中まで入ってくる。

美味い食べ物を持って、わざわざダンジョンの中までやってきてくれるのだ。

殺さない限りは、人間たちは何度も繰り返しダンジョンの中までやって来る。


―――それを、なんで殺す必要がある?


いつしか俺たち魔物たちは、ダンジョンに入ってくる人間を殺さないようになった。

ダンジョンに人が寄り付かなくなってしまったら一巻の終わりだからだ。

むしろ、いかに人間たちをダンジョンに引きつけるかに気を配るようになっていった。


人間たちが持っている「食べ物」は、魔物の間では高値で取引きされている。

俺たち魔物の間にも、人間たちが使っているゴールド、つまりお金が出回っていて、お金を介して食べ物のやり取りもしている。


古いRPGなんかでは、モンスターを倒すとゴールドが得られるゲームが多いけど、あれは別に間違っちゃいないんだ。

人間が使う便利なものは、魔物だって使う。


各ダンジョンには、それぞれ「主」と呼ばれている、いわゆる大ボス的存在がいて、ダンジョンの魔物たちを取り仕切っている。


言うなれば、それぞれのダンジョンが、一つの会社みたいなもんだ。

ダンジョンの主は社長で、ダンジョンの魔物は従業員、ってところ。


ダンジョンの維持管理をするのは結構大変だ。

たとえば、大抵の洞窟の中にある石畳の階段。

ここにゴミとか石ころが落ちてたりすると、人間たちは夜目が効かないんで、つまづいて転げ落ちて、頭打って死んでしまうかもしれない。

だから、大体のダンジョンの階段は、専属の魔物がいつも綺麗に掃除している。


ダンジョンの中で人死にが出てしまうと、「あそこのダンジョンは危ない」って噂が立って、人間の入りが悪くなってしまう。


そもそもダンジョンってのは危険で当たり前なはずなんで、なんかおかしい気もするんだが・・・


まあ、俺たち魔物たちも必死なんだ。

魔物だって、食べるものが無ければ死んでしまう。


そのほかにも、剥がれ落ちてしまったダンジョンの壁面を修復したりとか、普通のモンスターではできない、ちょっと高度で特殊なスキルが必要になることがある。


そういう特殊スキルを持ったモンスターを、一時的に派遣して欲しい、って要望が、あちこちのダンジョンの主から魔王様の所へ出てくるようになった。


そこで、魔王様の側近の俺の出番になる。

ダンジョンの主から依頼を受けて、依頼人の要望に沿うスキルを持った魔物を紹介して派遣する。

それが、俺の今の仕事なのだ。


決して楽な仕事じゃない。

派遣したモンスターの中には、派遣先でトラブルを起こす奴が、どうしたって出てくる。

そういう場合のクレームは、全部俺のところに飛んでくる。

尻拭いのために出掛けて行かなきゃいけないこともある。


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