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学園ハプニング

 朝からわたしは大変である。なんといっても道満様に学校なるものに通うように仰せつかってしまったのだから、朝早く起きてごはんを作り、李介さんの支度、そして自分の身支度である。

 問題はこれである。


「はう、これはどのように着ればよろしいのでしょうか、李介さんっ」

「え、どうし……っ」

 部屋のなかで困り果てるわたしに李介さんが顔をのぞかせ、かたまた。うう。助けてください。李介さん!

 道満様が寄越した学校の制服はわたしには奇妙奇天烈である。このすかーとはひらひらしているし、どのように着ればいいのだ? 腰に巻くにしてもどこから? さらにブラウスなるものもわたしにはいまいちわからない。おかげで裸のまま途方に暮れてしまい、情けなくも朝から李介さんに助けを求めてしまった。

「ブラウスは、袖を通して」

「こうですか? なんとも着づらいですね、これ」

「……前から言おうと思いましたが、もうすこし、その、慎みをもってください」

 慎みなどと言われてしまいわたしは硬直する。

 た、確かに、李介さんの前では慎みが多少、いや、けっこうないことが多かった、気がする。けど、だからって、そんな。

 思い当たる節がありすぎるわたしは唸るしかない。

「すいません」

「……俺の前でだったらいいですが、他の男の前では、絶対にダメですからね」

「李介さんの前ではいいんですか?」

「……っ。ほら、そろそろ出る時間ですよ」

「はい」

 御話を逸らされた気がするが、遅刻するわけにもいかない。

 二人で学校への道を歩いて向かう。この時間帯は学生さんや通勤の方がいっぱいいて忙しい。それを李介さんがわたしの横に立ってさりげなく人込みから守ってくださる。なんとも男らしく素敵な人だろうとまたひとつ、惚れ直してしまった。ふふ。

 そうこうしていると、校舎である。

 以前は遠くて大変だったが、今日は李介さんがいるので迷わずこれた。問題は帰りだ。

「陰陽科は西になります。ざっと説明しておくと、基本的に科に分かれて建物は存在しますが、共通の科目もいくつかあるんです」

「共通科目?」

「数学などの一般知識として知っておくことですね、基本的にここに通うのは十五から二十歳の若者なので、真ん中にある入ってすぐのところが共通科目を教える教室で、そこから右手が陰陽科、左手が私の勤務する憑神科となります」

「あれ、学科って三つにわかれているって?」

「科学科ですね、それは、一番端のあそこです」

「……小さい。それに木造? 他はコンクリート作りなのに」

 わたしはつい声をあげてしまい、はしたないと思って手でおさえる。しかし、科学科、別の建物のうえ、なんか建物として小さいのだ。

「なかなか学生がおらず、どうにも少ないので旧校舎を使用しているため……あといろいろとよくない噂が立っているそうですよ」

 なんと。

「意味なく近づかないように」

 わたしは李介さんの念を押した言葉にこくんこくんと頷いた。

 とりあえず入ってすぐの総合受付なるもののところにいき、李介さんはお仕事があるので別れた。わたしは受付の娘様に名前を出すと、待つように言われてしまったが、むむむ。

 黒い服に白い服を着た生徒たちがあっちへ、こっちへと行き来していてなにがなんだかわらかない。

 李介さんもいなくて心細い。

 もうこのまま帰ろうか、いや、帰ったら李介さんが道満様に怒られるかもしれない。いけない。ああ、けど。お家に帰ってお掃除と洗濯と、あとついでにお食事の用意とかを

 わたしが悶々としていると、どんっと肩にぶつかる痛みにぎょっとすると黒い服の学生――ひらひらしたマントみたいなのを身に着けた三人の男子がわたしを見下ろし、胸をまじまじと見られた。な、なんだ、小さいとか言いたいのか。

「ぼけっとしてるな、ちび」

 ……あ?

 いま、貴様、わたしのことをちびといいやがりましたか? 誰がちびだ、わたしはちょっと小柄なだけである! 李介さんが抱えやすいように程よい大きさなのだ! それをちびだと。おい、そこに並べ。改心するようにおしおきをしてやるっ。

 わたしが怒りに視線を向けてる頃には三人はすたすたと行ってしまう。むきー。なんなのだ。あの小童が!


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ! たんま、やめてよね。ぶつかったとか、そっちじゃなーーい!」

 元気な声がするのでそちらを見ると、紺色の制服姿の娘さまが絡まれている。それは先ほどわたしにぶつかってちびなどと不届きなことをもうした三人ではないか!

 娘様一人に男が三人で寄っていくとはなんとも許しがたい小悪党ぶり!

 わたしははぁと息を吐くと、つかつかと歩み寄る。一番身なりの大きい者の膝を狙う。すっと腰を低くして弁慶の泣き所を蹴った。見たか! これでも喧嘩は得意だ!

「いてっぇ、なんだこのちび」

 また!

「誰がちびですか、わたしは小柄なのです。見ていればよってたかってか弱い娘さまに三人の男が絡むなどと恥を知りなさい、日本男子はここまで腑抜けとなったのですか!」

 わたしが腰に手をあてて噛みつく。獰猛な犬よろしく、いまのわたしは大変怒っているだ。かかってこい!

 わたしの背中に娘さんがいそいそと隠れる。

「そうよ、そうよ! 自分たちがぶつかってきたくせに! もう成金陰陽師風情がうっさいのよーー! あ、やばい、庇ってくれたあなたも陰陽科か、あ、じゃあ、こいつらだけね。こいつらだけっ!」

 虎の威を借りる狐のような娘さまである。わたしの背中からそんなにも叫ばなくても。

「うるせ、神の力を借りなきゃなにもできないくせに。誇り高い陰陽科が、どうしてそんな出来損ないを助けるんだよ、お前も落ちぶれるぞ」

「なによーー! おちぶれるって!」

 これは。

 向き合う二つの勢力にはさまれたわたしは今さらだが察した。これ、陰陽科と憑神科のにらみ合いに発展している。

「生意気なんだよ。少しは痛い目を見ろ」

 男の一人が懐から白い紙を取り出すと何か口にしはじめた。わたしの背中で

「やばいやばいよー、呪を唱えてる。ほら、陰陽科でしょ? だったら、こう呪で対抗しないと」

 え?

「ほらきた、きたきた!」

 なにが?

 と思ってみたら白い紙の鳥が飛んでくる。ほぉ、すごい。飛んでると感心していると、ぐんぐんと迫ってくる!

「え、え、えっと、神さまを使って」

「アタシの件はそういうの無理。探索仕事しかできないもん!」

 わたしですか?

「残念ですが、わたし、一切そういうのつかえませーーん」

 どーんと言い切る。

 そうである。陰陽やら憑神やら科学やら一切わからないのである。だのにどうにかしろって無理な話である。

 思いっきり飛んできた鳥に額をしたたかうちつけて、床に転がった。

 うむむ。無念。

 紙の鳥はとりあえず消えてしまったが、わたしはなかなか強い力で吹っ飛ばされて起き上がれない。ああ、天井が真っ白くて、遠い。

「きゃあー! ちょと、ちょっと平気、平気なの? もう弱いのに、なにしてるの!」

「こういうのは勢いとはったりが大事かと」

「うそでしよー? こういうとき実は強くて、なんかすごい奥義とかさらっと出して、あれ、これ普通の違うのとか」

「なんですか、それ。そんなこと出来るはずないでしょう」

「うそうそうそ。助けにくる人ってそういうのだって、最近売ってる本であったもん!」

 生憎、わたしは本の住人ではないので、無理である。


「騒がしいな、元気なことはよいことだが……何してるんだ」

 のんきな声がふってきた。

 そこに見えるはいつもにやにや笑いの道満様ではないか! わたしはむくりと起き上がって手をひらひらと振る。

「道満さまー」

「おー、きたなー、で、なんで地べたに倒れてるんだ」

「不良に絡まれてたたきのめされちゃいました」

「なんじゃそれは。それに、そちらは憑神科の」

「あ、アタシ、宇佐見紺です」

 背筋を伸ばして紺様が言う。

「いや、ほんと、ほんと、ほんとです! アタシ、陰陽科の子にぶつかられて絡まれたの、この子が助けてくれて、あいつら! 使用禁止の式神使ってきたんですよっ」

 ぷりぷりと怒ってよくしゃべる方である。そうこうしていると、やべぇやら逃げろやらと三下のようなことを申してせこせこと逃げていく三人。むむ。見逃してたまるものか! わたしは弱いからこそ、虎の威を存分に借りる狐である。ここで一番偉い人である道満様がいるならその威厳やらを思いっきり借りて仕返しするべきなのだ。

「道満様! 奴ら、逃げていきますっ」

「すぐに門の鬼に捕まるから平気、平気」

 はて、鬼?

 ぎゃあと声がしてわたしはそちらを見ると、門が動いている。鉄で作られたと思わしきその門が三人組を挟み捕えて地面にのしている。

「あの門はわしの作った式神でな、阿呆な生徒をたたきのめしたりするんだよ。術を使えばいやでも気が乱れる。さらに動転して逃げだすは阿呆の極み。戦場じゃあ、真っ先に首を叩ききられて死ぬぞ。馬鹿め。あとであいつらにはたっぷりと仕置きだな。ほら、行くぞ」

 わたしは言われてむぅとした顔をする。

「あ、あの、あのさ、本当に平気? 額にぶつけて、赤くなってるの」

「はい、平気です。たぶん、打ちどころは悪くなかったはずです」

「そっか。そっか! あ、あのね、よかったら、お友達になろ? あなた、陰陽科なのに、ほら庇ってくれたし。よかったら昼に学食でね! 入口で待ってるから!」

 などと一人でしゃべって去っていく。

 わたしは一言も行くとは申してないのだが、困った。ここ最近、そういうことが多くないか? もしかして、ここでは言ったもの勝ちなのか? まったく、そそっかしいうえ、姦しいお嬢さんだ。けれどあの元気のある様子、わたしは嫌いではない。

「ほーら、行くぞ」

 道満様に呼ばれてしまったのでわたしはそのあとにいそいそとついていく。

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