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7話目 前半 ダンジョン

「これがダンジョンか……」


 結局、他の全員の意思に負けた俺は彼女たちの要望通りにダンジョンに来ていた。と言っても、イクナはそんなつもりはなかったんだろうけど。

 一応、余裕が出るくらいには収入があったから一度くらい行ってみてもいいだろうとは思ったからいいんだけどね。

 目の前には地面を剥がそうとして途中で止めたかのような状態で盛り上がっている小さな山ができており、ちょうどそこに洞窟のような穴ができていた。

 俺たちはその穴の中へ冒険者が次々と入っていく様子を遠目に見ている。


「にゃはは、ダンジョンってそれ自体珍しいから一度やってみたかったんにゃよね!」

「ダジョン!ダジョン!」

「……うん」


 レチアが嬉しそうに言い、ララははしゃぐイクナの頭に手を乗せて優しく微笑んで頷く。これこれレチアさん、語尾がまた素に戻ってますよっと。


「はしゃぐのもいいけど、ダンジョンは危険な場所だってこと忘れるなよ?」


 なんせここにいるメンバーは全員ダンジョン初心者なのだから慎重に進みたい。


「わかってるわかってるにゃ!いいから早く入ろう!」

「ヤタッ!早く!早く!」


 何も分かっていなさそうな少女が二名、ダンジョンの入口に向かって駆け出す。

 ララも彼女たちほどではなくとも早足で後を追う。実は結構楽しみなんだな。

 おい、どうすんだよ。

 俺以外みんな浮かれてて、俺が保護者にならないといけない状態じゃねえか、これ。大丈夫かな……

 しかしダンジョンの中でも魔物が出るというのに、まるで年頃の子供がアトラクションに乗る時みたいなテンションだ。

 その心情的には金銀財宝を掘り当てたい冒険者のものなのか?俺にはよくわからんな。

 中にララたちに続いてダンジョンの入口に入ると、その瞬間から一気に空気が変わる。

 真っ暗かと思われた入口から先の景色が一転、人工的に作られた道がずっと続いていた。

 青黒いレンガで地面、天井、壁が覆われており、その壁には道を照らす松明に青い炎が灯されている。

 道幅はかなり広く、見えるところではすでに十人単位の冒険者たちが魔物を倒そうと躍起(やっき)になっていた。


「全員必死だな」

「それもそう二。ここの魔物から取れる素材も珍しいのが多いから、外では高値で取引される二」


 少し落ち着いたレチアは語尾を「二」に戻していた。

 俺はなるほどと納得し、戦ってる他の冒険者の邪魔にならないように隅っこを壁沿いに奥へと進んだ。

 するといくつかの分かれ道に差し掛かった。


「ここからはもう迷路二。他の冒険者ともあまり会わなくなるだろうし、帰り道を覚えとかないと一生ここで過ごす羽目になるから気を付ける二」

「それは嫌だなぁ……って、だとしたら帰る道は誰が覚えるんだよ!?俺はそんなに記憶力ないぞ!」


 どの道にしようか選んでたところで言われたことで肝を冷やす。

 しかしレチアは「にゃっはっはっはっは♪︎」と余裕な様子で笑っていた。


「ヤタには言ってにゃかったけど、僕は加護のおかげで記憶力には自信があるんにゃよ!」

「記憶の加護?」

「そ、『セーブメモリー』って言うんにゃけどにゃ、僕が覚えたいって思った記憶は自分の意思で消そうと思わない限り記憶から消えないんにゃよ」


 ここに来て初めて知った彼女の設定。

 というかそれ、ズルくない?学生のテストとか勉強しなくても百点取れそうなレベルのチートじゃないっすか。


「……もしかして今まで説明してくれた魔物の特徴とかも?」

「にゃ、ご名答!記憶に刻み込んでるにゃ」


 そう言って自信ありげに胸を張るレチア。

 たしかに凄い。凄いんだけども……


「そんな加護があったら冒険者じゃなくて、もっと別の職業に就けたんじゃないか?安全な仕事……連合の職員とか?」

「僕たちが住む亜種のいる地域だったらそれもありかもしれにゃかったけど、こっちじゃ亜種は下手な職に就けないにゃ……それに体を動かす冒険者ってのも嫌いじゃにゃいからにゃ!」


 前半はそれもそうかと思いつつ、後半の言葉にはやっぱり猫なんだなぁとちょっと納得する。

 それからしばらくして魔物が現れた。

 冒険者っぽい防具を身にまとった骸骨が二体。大きな斧と長剣をそれぞれ持っている。


「何あれ強そう」

「面倒な相手が出たにゃ……」


 レチアが言葉通りに面倒そうな表情をする。


「やっぱ面倒な相手なのか?」

「もう死んでる奴をどうやって殺せって聞かれたら答えられるかにゃ?」


 あら不思議、まるで俺のことを言われてるみたい。


「倒すにはあの頭蓋骨を吹っ飛ばしてしばらく動けなくするか粉々に砕くかのどちらかにゃ。んで、その頭がめっさ硬いから一苦労なんだにゃ……」

「ああ、そりゃ面倒臭そうだ」

「にゃ?そこでヤタの出番――」


 レチアが何かを言いかけたところでララが前に飛び出し、二体の骸骨に対して横に一閃した。

 大斧を持った一匹は防いだが、もう一匹は反応が遅れて胴体がバラバラになる。

 大斧の奴は勢いで後ろに吹き飛んでいき、バラバラになった奴は頭をララに踏み潰されて粉々に砕かれていた。南無三……

 というか、ララはいつの間にあんなに強くなったんだ?

 最初に会った時、ゴブリンと対峙していた頃に弱く見えた少女の面影はもうない。

 シャドウなどと戦った経験が生かされてるのか?

 女の子に格好付けさせるのはどうかと思うけど、戦力になるのならこんなにも頼もしいことはないだろう。


「……で、俺の出番がなんだって?」

「あ〜……にゃはははは!そうにゃね、折角のパーティにゃんだから協力して倒さないとだにゃ?」


 それはそれとしてと俺がジト目でレチアを睨むと、彼女は苦笑いを浮かべて気まずそうに言った。

 こいつ、俺が死なないのをいいことに前に出そうとしやがったな?


「……まぁいいけどよ。そういう扱いされるのには慣れてるし」

「にゃ〜そう拗ねるにゃって。ヤタが強いからこそ言っただけにゃん?」


 くそぅ……普段「にゃん」とか使わねえクセにこういう時だけあざとくなりやがって……普通に可愛いから扱いに困るんだよ!


「あーはいはい、そう言ってくれると嬉しくて涙が出てきそうだ」

「むぅ、棒読みが過ぎるにゃ!?……僕は本当にヤタが強いと思ってるにゃよ?死なない体を抜きにしてもにゃ。だから僕は奴隷堕ちだけで済んでるし、ここにいる全員無事なんだにゃ!」

「そうですぜ旦那!あっしだって旦那が来なければ今頃、首から上が無くなってたですし、あの変な魔物に食われていたかもしれないんですから!」


 機嫌を直そうとしてきているのか、ここぞとばかりに褒めちぎってくるレチアとガカン。

 彼女たちの言ってることは合ってるところもあるとは思うが、過大評価でもある。

 彼女たちがこうやって無事だったのは俺が「強いから」でなく「無謀だったから」であり、そもそも俺が関わらなければ危険に晒すことも少なかった場面が多い。

 こうやって褒められても素直に喜べないのだ……

 そんなことを考えていると、骸骨と戦っていたはずのララがこっちにやってきて、俺の足を蹴ってきた。しかもスネの部分を何度も。


「あのぉ……ララさん?」

「……遊んでないで、一緒に戦ってよ」


 小さいながらも苛立ちを含んだ声でその言葉を発し、最後にレチアのスネにも一撃を入れるララ。

 レチアは「に゛ゃあ〜!?」と聞いたことがない声で泣き転がり、イクナはそれを見て無邪気に笑っていた。

 「一緒に戦ってよ」か……

 面倒事を押し付けられたり逆に仲間外れにされるようなことはよく言われたが、この世界に来てから一緒に何かをと誘われるようになったな。

 そんな些細なことでさえ嬉しく思えてしまうのが少し悲しいところだな……


「……ああ、わかってる。残ったそいつは任せてくれ」


 俺はそう言って骸骨に向かって走り、片腕を捕食形態にして武器ごと喰らった。

 バリバリとせんべいでも食べてるかのような音を立てて飲み込んで行く。

 ……うん、骨や無機物でも美味く感じる。

 向こうにいた時に骨せんべいを食べてた時期があったが、アレに似てる味だ。


「ゲプ……ご馳走様」


 なるべく聞かれないよう小さくゲップをして呟く。


「いつ見ても凄い光景だにゃあ〜……ヤタだけは絶対に敵に回したくないにゃね」


 呆れるような言い方をするレチア。

 いやでもホント、捕食してちゃんと満腹感があるおかげで普段が食事要らずなのが何よりも大きい。

 人間の食費って意外とバカにならないんだけど、それが浮くだけでかなりの節約になる。

 おかげでイクナやレチアにもちゃんとしたものを食わせられるし、借金も返せる。

 尚且つ俺は我慢しなくていい。一石二鳥どころか三鳥にもなるお得な体質だ。

 最初は人間じゃなくなったことに悲観しそうになったけど、こう考えると中々どうして良いものだと思えてくる。


「ふぅ、さて……ここに来るまでチラチラと見かけてただけだったけど……」


 先へ進もうと振り向く。その視線の先には行く手を阻む大量の魔物がこっちにやってきた。

 というか本当にちょっと量が多過ぎませんかね……?


「……この量はさすがに任せていいかにゃ?」

「いや、これは俺も無理だろ……これ全部食ったら腹壊す気がするし」

「旦那方!?悠長に話してる暇はないと思うんですが!」


 ドドドドという複数の重い足音が近付いて来る中、どうしようかと悩む。

 ララはすでに真っ向から挑もうと大剣を強く握って構えている……が、彼女も無理だとわかっているらしく、後ろに数歩下がってたじろいでいた。

 ララも強くなったけど、やっぱ物量には勝てないだろ。中には強い奴も混じってるっぽいし……


「……よし、わかった。俺がやる」

「にゃ!?冗談で言ったつもりだったのに本気かにゃ!?」


 驚くレチア。冗談だったのかよ。


「本気だ。なんせ死なない上に変な能力まで手に入れたんだ、そうそう簡単にはやられないだろ。なぁ、アナさん?」

【変形捕食の応用にて大多数への対応が可能です。実行しますか?】


 お願いします女神様!

 頭の中でそう称えると、右腕が勝手に動き出して魔物たちに向けて伸ばされ、次の瞬間には俺の右腕は枝分かれして大量の縄状となり、俺たちに向かってくる魔物の郡へと急速に伸びて行った。

 枝分かれした腕はさらに枝分かれを続け、最後には道が隙間無く埋まってしまうほどの量になっていた。


「……何にゃ、これ?」

「……わからん。でも一応これも捕食みたいだ……」


 塞がれた道の奥から聞こえてくるグロテスクな咀嚼(そしゃく)音。

 魔物の鳴き声か悲鳴も聞こえてくる。

 その間もずっと、色んな「味」が口の中に次々と入ってくる。

 ヨダレはなんとか我慢したものの、ゲップが込み上げてくる度に「うっぷ……」と口から漏れ出してしまう。

 それからも向こうから押し返してくる様子もなく、しばらく様子を見ていると聞こえていた音が止んで静かになった。

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