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6話目 後半 邂逅

「やはり妾はお前さんが……八咫 来瀬という男が欲しい」

「おいそれ言い方……え?」


 俺は彼女の言葉のどこか違和感を感じた。

 下ネタ的な言い方の方ではなく、別の部分に。

 そして時間を置き、グロロが教えていないはずの俺の本名を口にしたということに気が付く。

 なんで……まさか俺の記憶も読み取ったのか!?


「なんで俺の名前を……?読み取れるのは取り込んだ奴だけじゃないのか!?」


 思わず取り乱してしまった。

 別段、知られて致命的な弱点になるわけでもない情報だが、話してもいない相手に秘密にしていたことを知られるというのがこんなにもゾッとするものだとは思わなかった。


「なんでも何も、その通りに取り込んだからだよ……お前さんの一部を」

「俺の一部って……」

「妾と命のやり取りをしていた時、血を数滴な。だからお前さんがこの世界の人間ではないこと、そしてどうしてそんな体になったのかも知っている。そんなお前さんを仲間に引き込もうとするのは面白半分でもあるわけでもあるんだが」


 そうか、相手を全て丸呑みにしなくても、その一部だけで情報が得られるのか……


「まさかお前さんの体にこんなおぞましいものが飼われてるとは思わなかったぞ。妾の中で急速に増殖しおって……」

「おぞましさの塊みたいな奴が何言ってやがる。取り込んだ相手の記憶を読み取って擬態……その上、並の冒険者じゃ太刀打ちできないような力と再生力を持ってやがるお前に、おぞましいなんて言われる筋合いなんざねえよ」

「ははは、言ってくれる。で、さっきのデートの誘いに対する答えはくれるか?」


 不敵に笑い続けてそう言うグロロ。なんかこいつと話していると調子が狂う。

 ついこの前まではただの魔物だったのに、今では普通の人間と話してるみたいだ……まぁ、普通の人間は妾なんて一人称で話さないが。


「保留……いや、断らせてもらう」

「おっと、惜しい。もう少しで良い答えが貰えるくらいには揺らいでいたみたいだな?」


 前の世界にいた時に仲間外ればかりにはれていたからか、「仲間に誘われる」ということ自体に嬉しさを感じてしまっていた。

 この世界に来たばかりの俺だったら、その甘言に乗っていただろう。

 でも大丈夫、今の俺にはちゃんと仲間がいるのだから……

 ララ、イクナ、レミアのそれぞれの顔を思い出していた。


「ま、今は保留としておこう。人間は簡単に心変わりするからな。もしくは周囲の環境の方が変化やも……な」


 グロロはそう言うとクスクスと笑う。

 言葉もだが、こいつの厄介なところは人間を取り込んだことで、その心理を理解し始めている。そしてその言動が人間じみている。

 そしてさっきの「組織を作って独立する」という発言。あれを今考えると、もしかしたらグロロは魔物を引き連れて組織化しようとしているんじゃないか?

 だとしたらそれは最悪、それは一つの国にまで発展する可能性があり、人間たちとの全面戦争に発展するかもしれないということだ。

 これがただの妄想で終わればいいんだがな……


「その時はその時。どっちにしても、今はあいつらから嫌われるまでは離れる気ねえよ……少なくとも借金を返すまではな。それと最後に俺からも聞いていいか?」

「なんだ?」

「……お前にとって『人間』とはなんだ?」


 俺が聞きたかったことをそのまま伝える。

 もしこいつの頭の中で人間を食料と考えているのならば、俺のさっきの考えが現実的になってくる。

 争う理由が一つでもあれば争い始めるのが生き物であり、全生物共通なのだ。

 そうなれば俺は尚更こいつから距離を取り、争いに巻き込まれないように逃げなければならない。さて、こいつの返答は……


「妾にとっての人間……今はその問いに答えられそうにないな」

「え?お、おぉ、そうか……なんで?」


 以外にも空を見つめて曖昧に答えるに、俺は戸惑ってしまった。


「妾が人間を取り込むのは食事の一環でもあり、強くなれるからだ。しかし食べれば食べるほど、人の性格を演じれば演じるほど、まるで自分が本当に人間になったのではないかという錯覚に襲われるのだ。恐らく記憶を自分のものとしているせいなのだろうが、そのおかげで人間を同族と思い始めてる節まである」

「ならいっそ、独立なんてしないで人間社会に溶け込んで過ごせばいいじゃねえか?そうすれば無駄な争いが起こらずに済むかもしれねえし……」

「無理じゃないか?お前さんは人間がどれだけ醜い生き物かっていうのを嫌というほど体験して知っているだろう?」


 グロロが不敵に笑ってそう言うと、ふいに昔の記憶がフラッシュバックする。

 俺がイジメられていた頃、蔑まれていた頃。

 他者に対して怒り、嘆き悲しみ、そして諦めた昔の記憶と感情が蘇る。

 なんだこれは……?普通に記憶を思い出すのとは違って違和感がある気がする……

 もしかして無理矢理思い出させられてるのか……?

 表情を歪ませる俺を見て笑みを浮かべているグロロを見てそう思った。


【変異体「グロロ」と共鳴しました。記憶が強制的に引き出されています。レジスト――】

「してくれ」


 アナさんのお知らせに、遮る勢いでお願いした。


「おや、弾かれたか。感情を引き出して誘い込む作戦も失敗か」

「なんだよそれ……」


 記憶が覗かれるとか冗談じゃねえよ……つーか、なんだよ「共鳴」って?


【互いの血肉を分け合ったことでグロロの能力が合わさったことによりリンクが繋がりました。以後これにより互いが近くにいる時に存在を感じ取れるようになれます】


 何そのストーカーみたいな能力、超要らない。

 ……でも逆に言えば、これがあればグロロが監視できるってことか?


「恐らくおまえさんも気付いただろうが、妾たちはこれでお互いの居場所がある程度わかる。妾がどこにいるかがわかるだけでも少しは安心するだろう?それに必要なら記憶も覗かせることができるしな」


 彼女?の言う通りだ。

 まだ敵か味方かもわからない相手の居場所がわかるというのは大きい。

 しかも記憶を覗けばグロロが本当のことを言ってるかどうかの証拠となるわけだ。


「ということで、基本的に妾から争いを仕掛けることはないと断言しよう……人間から襲ってこない限りな」


 グロロはそう言うと少女の形を崩して半透明の液体と化し、溶けるように地面へ消えていってしまった。


『また会おう、八咫 来瀬。お前さんが人間という種を見限るその日を楽しみにしてるぞ――』

【グロロの気配が消えました。リンクが切れます】


 頭に響くグロロの声とアナさんのお知らせが終わり、周囲が静寂に包まれる。

 遠くからは幸せそうに笑ったりする声が聞こえてきて、この場との温度差を実感するのと同時に現実に引き戻されたような感覚になっていた。

 この世界に来て一ヶ月になるけれども、非現実を目の前にした時にこのふわついた感覚になることがまだある。

 もうすでに俺自体が非現実的な存在であるのにな……


「……帰るか」


 このまま固まっているわけにもいかない。早く帰らないとまたレチアたちに心配されちまうからな。

 ……心配……されてるよな?

 アリアたちに拉致された時の一件を思い出し、むしろ俺がその心配をしてしまう始末である。

 しかし、これはもうグロロのことは心配しなくていいってことなのか?

 知識を付けたと聞いたら、それはそれで不安になってくるんだが……あまり俺が考えたところで何ができるわけでもないからいいんだけどね。


――――


「ダンジョン?」


 一度レチアたちと合流し、再び連合へと向かった。

 すると中に入った時点でまた騒がしい雰囲気が冒険者を駆り立てていた。

 受付の男に聞くと「ダンジョンが出現した」という返事が返ってくる。


「ご存知ありませんか?ダンジョンというのは突然何の脈絡もなく発生する異次元迷宮のことです」

「異次元迷宮?ずいぶん凄そうな名前だな……」

「実際、その中身は凄いんだ二」


 「異次元」なんて言葉を聞いてもイマイチ現実味が感じられずにいると、レチアが横でそう言う。


「ヤタは森の中にポツンと一つだけ扉が立ってたらどう思う二?」

「えぇ、何その変な状況……?考えられるとしたら廃墟跡……とかか?」

「『普通』ならそう思うし、触ったところでただのガラクタ。でも異次元迷宮って呼ばれる所以がそれ二。その先にないはずの道や空間があるんだ二」


 レチアの説明を聞いた後に受付の男に視線を戻すと頷いた。


「まだ解明されてないことが多い迷宮なのですが、中には金銀財宝や特殊な武器防具が落ちてることがあるんです。そして付近には生息していない魔物もデタラメな種類が生息しており、どういう理由で、どのような原理でそんな迷宮が出現したのかが一切不明なのが『ダンジョン』なのです」

「ほーん」

「いや、ほーんって……ヤタは興味ないの二?」


 「異次元迷宮」……まるで元いた世界で見聞きするダンジョンそのものだな。

 そんで多分、俺の予想が正しければ……


「迷宮って言うほどなんだから、中は相当入り組んでるんじゃないか?」

「それはまぁ……」

「その通りです。ダンジョンは入る度に中の構造が変わっておりまして、加えて上へ続く階段や地下へ落ちる穴などランダムに存在します。ダンジョンに入るための規約はありませんが、その中で何が起きても保証できないので自己責任となりますのでご了承ください」


 言い淀むレチアを他所に受付の男が淡々と説明してくれる。

 なるほど。金銀財宝や武器防具が眠っているダンジョンが出現したというのなら、冒険者の誰もが欲して騒ぐわけだ。

 周囲を見ると我先にと出ていく者もいれば、中で手に入れたものの分配を口に出しながら人数を募集している者もいる。

 その中にルフィスさんやマルスがいないのが気になるが、もうダンジョンに向かったのだろうか?まぁ、別にあいつらがどうしようとどうでもいいんだけど。

 しかし横でレチアが何やらもの言いたげな目を俺に向けてくるのはなんだろうか。


「……あの、レチアさん?言いたいことがあったら言ってくれないと困るんだけど……」


 美女に熱視線を向けられるの慣れてないからおじさん困っちゃう!……あ、そもそも軽蔑とか悪意の篭ったもの以外の視線を向けられたことがあまりなかったわ。


「僕たちは行かないか二?ダンジョンに……」


 裾をちょっとだけ摘まれて上目遣いをしてくるレチア。凄いおねだりされてるみたいで断り辛いんだけど……

 するとレチアとは反対側からも引っ張られる感じがして見ると、ララも服を摘んで引っ張っていた。お前もかい!

 いやでも、ここで折れて行くのはどうなんだ?中は迷宮だって言うし、何が起こるかわからないのに……

 俺が悩んでいると、レチアとララを交互に見ていたイクナが真似をしようとしているのか、両手で俺の服を掴んで見上げ二パーとした笑顔を向けてきた。

 そんな彼女の笑顔を見た瞬間、「もう折れるしかないね」と悟った。

 子供の純粋な笑顔には勝てなかったよ……

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