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2話目 前半 美女の嫉妬

「少なくとも君に友人の何たるかを言われるのは心外だと思うけどな。僕は君とも良い友人関係だと思ってたんだけど……違ったのかな?」

「っ……!」


 うわぁ……マルスの奴、えげつないことを言いやがる。

 ありゃ言い換えれば「あまり言い過ぎるとお前たちとの縁を切るぞ」と言ってるようなもんだ。

 別にマルスと縁を切ったところでここでの居心地が多少悪くなるだけだから、俺としては切ってもらって構わないんだがな。

 ただなぁ……変に庇われても後が面倒なだけだから、どちらにしてもそういう言い方はやめてほしいというのが本当のところだ。

 アリアの方へ視線を向けると、強引に引きつらせた笑みを浮かべている。


「そ、それもそうですわね……ならそこのあなた」


 アリアがそう言うと、彼女の視線が俺へと向けられる。


「ヤタだ」

「そう、ヤタさん。ワタクシはアリルティア・フランシスと申します。一応、貴族に身を置いている者ですが、皆様からはアリアと愛称で呼ばれています。マルスさんのご友人というなら、ワタクシとも良い友人関係を築けるでしょう。これからよろしくお願いしますわ」


 アリアがそう言って握手を求める手を差し出してくる。

 しかし……どう見ても彼女の顔が「良い関係」を築こうとする者の顔じゃない。

 このまま握手したら手を握り潰されるんじゃね?

 それに周囲からは他の男共のやっかみを含んだ視線が突き刺さってくる。

 しかしここで拒否したらしたでやっぱり後が面倒臭そう。

 どうしよう、もうこのまま全力で逃げたい。

 もしくは穴があったら入りたい。入って一ヶ月くらい引き籠もりたい。

 仕方なくアリアが差し出してきた手を握って握手に応える。

 遠くで羨ましそう、もしくは恨めしそうに男たちがこっちを凝視してるけど、もう気にしないでおこう。


【「チャーム」の対象となりました。レジストします】


 ……え?

 なんだ急に?

 チャーム?ってなんだっけな……


【別名「魅了」とも呼ばれ、相手を誘惑し虜にする加護の一つです。異性を対象とすることにより最大限の効果が発揮されます。また、同性に対しても尊敬や畏怖の念がある場合にも同様の効果が発揮されます】


 ああ、アレか。よく漫画とかに出てくるサキュバスがやってくるようなやつ。

 それを俺がかけられてるって?ハハハッ、誰だよそんな物好き。


【術者は現在接触中の人名「アリルティア・フランシス」です】


 ですよね、タイミング的に見ても。

 まぁでも、ここは普通にあいさつを返しておこう。


「どうもフランシスさん。ま、友人になるかどうかは今後次第ってことにしておいてください」

「……え?」


 わざと彼女の名前をセカンドネームでよそよそしくそう呼んでおく。

 別に表面上そう言わないといけないだけであって、本心から俺と親しくなろうとしてるわけじゃないだろう。

 だったら俺からこう言っておけば、今後無理に友人っぽく接してくることはないだろう。向こうだって嫌々だろうしな。

 しかしなぜか彼女は驚いた表情で固まっていた。

 「え?」って……なんで?俺と友達になんてなりたくないでしょ?

 それともアレか、俺の言葉を違う意味で解釈して親密になりたいとか捉えられちゃったか?なら勘違いのないよう補足を付け加えとくか。


「好きでもない相手と友人になることはありませんからね。たまに会ったら挨拶をしてくれる程度で構いません」

「…………」


 返事がない……ただのお嬢様のようだ……

 じゃなくて、なんか俺の話聞いてなくない?

 というか俺はもう握手を終えたつもりで手の力を抜いてるんだけど、フランシスさんが握ったまま離してくれない。

 むしろ揉まれたりしてどう反応していいか迷うし恥ずかしいんだけど……

 正直、まだ高校や大学に通ってるくらいの女の子がおじさんの手を揉み揉みしちゃいけないと思うの。勝手に勘違いしそうになるから。

 しかし何かを探るように眉をひそめていたフランシスさんは、とうとう俺の手を両手で触り始めた。

 いや、本当にやめよう?周りの目が痛いから……

 男たちの嫉妬の視線が凄いし、レチアとララも何か似た視線で睨んでくるし、マルスとルフィスさんは見守るような暖かい視線を送ってくるし……

 ほら、こいつの仲間だって俺をジト目で見てくる。今にも衛兵を呼んできそうな勢いだよ?


「……なんで」

「あのー……フランシスさん?」


 ポツリと何かを呟いたフランシスさんに、俺は恐る恐る声をかけた。

 するとフランシスさんは一気に顔を上げて俺とマルスを睨む。


「なんであなたにも効かないんですの!?この美貌の前では男は皆、ワタクシの虜になって跪くはず!なのにあなたもマルスさんもルフィスさんも……本当にアレが付いてる殿方なんですか!?」

「……アレ?」

「アレってなんだい?」


 フランシスさんのまくし立てた言葉に、マルスとルフィスさんが首を傾げる。

 俺は何となく言いたいことがわかった。わかってしまった。

 まぁ、女が男を魅了しようとしたんだ、大体何が言いたいかなんて察してしまえるだろう。

 だからこそ、この二人がフランシスさんに詰め寄る姿が面白い。


「あ、アレ、とは……アレのことです……」

「僕にもヤタにもあるもの……どんな共通点があるか非常に気になるね」

「そうたね、僕らに共通するものって言ったらなんだろう?」

「そ、それは……おおおち、おちっ……あうぅ……」


 興味津々に聞こうとするマルスたちに対し、フランシスさんは真っ赤にした顔を俯けてしまい、もう爆発寸前だった。

 やめてやれよお前ら……もう俺から見たらわざとやってるようにしか見えねえぞ。

 フランシスさんもく頑張ったよ、「おち」の部分だけ言おうとしただけで表彰ものだ。

 だからもうやめとけ、それ以上は犯罪っぽくなっちゃうから。


「というか雑談しちまってるけど、お前らは暇なのか?」

「ん?僕らかい?」


 とりあえず話の方向を変えようと適当に言ってみると、ルフィスさんが食い付いた。


「一応この後も依頼を受けようかとは思ってるけど、どうしようか悩んでるところだよ」


 マルスも答えてくれた。この流れを維持し続ければさっきの話題なんてすぐに忘れるだろう。

 チラッとフランシスさんの方へ視線を向ける。


「あっ……で、でしたらワタクシたちと勝負してみませんこと!?」


 俺の意図に気付いたのか、フランシスさんは少し声を裏返しながらも話に乗ってくれた。


「勝負?」

「えぇ、そうです。ワタクシたちとマルスさんたち、それぞれ一つの依頼を受けてどちらが早く完遂するか。負けた人は勝った人のお願いを聞くというのはどうでしょう?」

「へぇ、それは面白そうだね」


 フランシスさんの提案にルフィスさんが意外にも乗り気だった。

 よし、フォローも十分したことだし、こいつらが勝手に盛り上がってる隙に俺は俺で依頼を受けるとするか――


「うん、僕も面白そうだと思う。それじゃあ、ヤタたちも入れて三グループで競うとしよう!」

「「……え?」」


 まさかのマルスの発言に、俺とフランシスさんの声が重なった。


「おいちょっと待て。なんで俺がお前らと競わにゃならんのだ」

「そうですわ!これはあくまでワタクシとあなたの勝負であって――」

「僕たちは良い友人関係を築く……そうだろ、アリアさん?」


 さっきの言葉を利用されたフランシスさんは「ぐぬぬ……」と悔しそうにする。


「だとしても、俺が参加するメリットはないんだが?お前らにする命令なんてないからな」

「まぁ、そう言わないでくれ。君たちが勝ったらご飯くらいは奢るからさ」


 飯の奢りか……たしかにそれは俺たちからすれば魅力的だな。

 でもどうせなら少し引き出してみるか。


「二食だ」

「え?」


 俺の言葉を聞き返してくるマルス。


「俺たちはまだ昼食を食ってない。だから参加してほしいなら賭けとは別に昼食を奢れ。んで俺たちが勝ったら夕食もお前持ちだ。それなら勝負に乗ってやる」


 少々欲張りかもしれないが、俺は安易に「わかった」なんて言って引き受けない。

 特にこいつには遠慮してやらん。どうせ階級が高いから儲かってるだろうしな。

 ここであやからない手はないだろう。


「ははっ、それくらいならお安い御用さ」

「それともう一つ……ハンデとしてもう一人呼んでいいか?」

<hr>

「そ、それで俺が呼ばれたのか?この中に?」


 ツンツンな金髪をした若者、ガープが戸惑った様子で聞いてくる。

 こいつとは前の町からこの町に移る時に知り合った冒険者だ。今の俺よりも一つ階級が高い「剣士」だ。

 他に俺の知り合いって言ったらこいつしかいないから、ある意味呼びやすいしな。

 ちなみにもうすでにマルスやフランシスさんを含んだ三グループでテーブルを囲んでいる状態だ。

 まぁ、こんな美男美女が揃っていれば緊張もするか。


「まーな。これから依頼をそれぞれ受けて誰が先にクリアするか競うんだ。今はマルスの奢りでその前の腹ごしらえ」

「君も食べたいものを遠慮せず好きなだけ食べていいよ」

「は、はぁ……」


 状況を完全には飲み込めていない顔をしているガープだが、とりあえずと俺の横に座る。


「……なぁ、なんでマルスさんとアリアさんと一緒に飯を食うことになってんの?何なんだよ、この豪華メンバーは……」


 ガープも気後れしているのか、あまり良い顔はしない。

 まぁ、ガープもそこそこ良い顔立ちをしているとはいえ、それは一般人の中で考えればというだけの話であって、アイドル級の超絶イケメン美女が相手では形無しということだろう。


「そんな文句言うなって。そのメンバーと競わなならん俺たちの身にもなってくれ……それにこの賭けに勝てば何でもお願いをしていいぞ」

「……ん?何でも?」


 俺が付け加えた言葉に、ガープは顔をキリッとさせて聞き返してきた。

 流石男だ。「何でも」という言葉に反応するのはうちの現代人だけではないらしい。


「おい、ヤタ」

「なんだ?」

「勝つぞ、この勝負」


 その時のガープの顔は、あまりにも凛とし過ぎてマルスよりもイケメンなんじゃないかと思えてしまったほどだった。

 しかしこの会話、普通にマルスたちにも聞こえているので、女性陣からは冷たい蔑む視線が向けられていた。おぉ、怖い怖い。

 しかし言っておくが俺は嘘を吐いてはいない。

 勝てば「お願い」してもいいなんて、勝負の勝ち負け関係なくできるのだから。

 だから俺たちは夕飯を食える。ガープは賭けの賞品として告白する勇気を持てる。

 これもWinWinってやつだ。

 ……ま、あくまでお願いだから断られるかもしれないがな。

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