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1話目 前半

 「ふぁ〜……はぁ」


 椅子に座って寝ていた俺はあくびをしてから溜め息を吐く。

 おはようございます、八咫 来瀬です。

 見た目は好青年(目以外)をしているが、中身は35歳のおっさんである。

 何かの病気とか、心の病気とか、頭の病気とか目の病気とかでもなく正真正銘、若返ってる状態だ。

 理由の一つとしては、俺がこの世界に来たことが起因であることに間違いないと思う。

 俺が生まれた地球ではない、この……異世界に来たとこによるものだと。

 剣と魔法の世界、なんて言うと鼻で笑われるか、「それ何のゲーム?」って言われるかもしれない。

 しかし実際に非現実的なものを今まで散々目にしてきた俺からすれば当初こそワクワクと驚きの連続だったし、今ではある程度慣れてしまった。

 ……慣れ?いや違うな。むしろ俺自身がファンタジーの塊になってしまったことで慣れるしかなくなっているんだ。

 何、目が腐ってるのがファンタジーっぽいって?ハハハハハ……

 今そう思った奴、ちょっと表に出なさい。その目を俺と同じように腐るまで数時間ガン見し続けてやるから<◯><◯>

 とまぁ、そんな誰に言うでもない冗談はともかくとして、俺は不死に近い体になってしまっている。

 腕一本無くなってもすぐに元へ戻るし、心臓や頭を吹き飛ばされても死ぬことができず同じように再生する。

 さらに痛みも感じないからゾンビアタックが可能なのである。

 ……ゾンビか。本当にゾンビになったのなら腐ってるのが目だけじゃなく、体も腐ったってことになるな。

 ハハハ、子供の頃は「おい、あそこに目が腐ったゾンビがいるぞ〜」なんてからかわれたりしたが、今では本当の意味で言われかねないな、これ。


「……うにゃうゃ〜」


 若干落ち込みかけていると、変な声が聞こえてくる。

 振り返ったそこは今のところ一ヶ月近くお世話になっている宿屋の一室で、ベッドには三人の少女が寝ていた。

 まずその変な声を出していたのが、長い白髪に十歳前後にしか見えないちんまりとした身長。

 しかしその身長とは見合わない、たわわなバストをお持ちの美少女、レチア。

 頭には獣耳、腰からは尻尾が生えており、この世界では「亜種」と呼ばれる人間とは別の種族らしい。

 最初に出会ってからは色々あったが、今では頼りになる仲間だ。ちょいとオカン属性が入ってる気もするが……

 もう一人は長い黒髪に俺よりも高身長でこれまたスタイルの良い美女、ララ。俺がこの世界に来てから初めて仲間と思えた人物である。

 そんなグラビアモデルとかアイドルとかやってそうな彼女らに挟まれて寝てる少女、イクナ。

 青黒い髪と真っ青な肌。

 片目は人間の目をしているが、もう片方は黒目に黄色い瞳をしてオッドアイみたいになっている。

 今では特徴的な外見をしているイクナだが、元は人間で髪の色も違っているようだった。

 彼女はとある研究所でモルモットにされ、半壊滅状態になっていたそこで道に迷っていた俺とララが見つけて連れ出したというわけだ。


「にゃー」


 そして猫らしい鳴き声を発する黒猫が、俺が起きたのを見計らったかのように膝の上に乗ってきた。

 この黒猫、多分俺がこの世界に飛ばされる直前にドロップキックを食らわせてきやがった奴と同一人物……いや、同一猫物だろうと思っている。確証はないけど。

 妙に物分りが良かったり、たまに助けてくれたりと普通の猫ではありえない行動をする変な奴である。

 そういえばこいつとも付き合いが長いな……そろそろ名付けた方がいいか?


――――


「ニャンダーはどうにゃ?」

「却下」

「なんでにゃ!?」


 ララたちが起きたところでそんな話になり、イクナ以外の二人が「そういえば」といった感じの反応をする。

 そしてレチアが考えた名前を即却下した。

 俺としてはクロとか直球な方が好きなんだけど……


「……ィズ」

「ん?」


 ララがボソッと呟いた気がして聞き返した。


「ウィズ。私の故郷で……『不思議な人』って意味がある」

「不思議な人……こいつの場合は不思議な猫だな。こいつの行動にも合ってるし、呼びやすいからいいんじゃないか?」


 俺がそう言うとララは嬉しそうに笑って頷き、ウィズの命名された黒猫を抱き上げる。


「ウィズ……」


 ささやくように呟いたララの表情は、思わず見蕩れてしまいそうになるほど綺麗だった。


「ニャンダーもいいと思うんだけどにゃー……」


 そして不貞腐れて言うレチアの言葉で色々台無しになった気がした。

 猫の名前も決まったところでレチアたちは宿屋の朝食を食べに行き、俺は先にチェスターの元へ向かった。

 その道中、ふとあることを考えていた。

 モルモットにされて散々弄られ、元の姿から大きく変わってしまったイクナだが、チェスターに頼めば元に戻れる可能性があるのではないかと。


「……まぁ、それはもう少し見極めてからにするか」


 イクナのことに関しては慎重にならなくては。

 もし彼女の見た目があの姿だと周囲にバレでもしたら魔物と間違えられて討伐なんて話になりかねないからな。

 いくら俺の体のことを教えた仲だとしても、簡単に教えられるほど軽い問題じゃない。

 こういうのは焦らない方がいいってのが相場が決まってる。

 そんなことを考えてるうちに、いつの間にかチェスターの研究所の前に辿り着いていた。

 そう、焦らずゆっくり見極めればいいさ。

 まだ眠さがあるのかあくびをしながら扉を開き、中にいるチェスターとメリーに視線を配る。


「うす」


 すでにこっちを見ていた二人に対して短い挨拶をする。


「おはよ……相変わらず今日も目が淀んでるね……」


 最初に声をかけてきたのは濃色をした瞳とボサボサの髪をしたスタイル抜群の美少女(仮)、メリーだった。

 相変わらず目の下のクマと薄ら笑いで美少女具合を台無しにしている。


「うるせーよ。今までで目が綺麗になったことなんて一度もねえから期待すんな。むしろこの状態を何十年も維持し続けてきたんだ、ヴィンテージものだろ」


 若干のあくびを混じえながら屁理屈を並べる。


「何の役にも立たないヴィンテージとかウケる……」

「役に立たないとか言うなよ、泣くぞ」


 最初に出会った頃は俺にもあまり話しかけて来ないコミュ障の無害な少女だったはずなのに、少しずつ慣れてきたせいか段々と遠慮がなくなっているのである。


「それに役には立ってる。人に話しかけられたくない時にグラサン取っておくとあまり話しかけられないからな!」

「でも衛兵の人には話しかけられるんでしょ?悪い意味で……」


 本当にメリーの言う通りである。

 酷くない?たかがグラサン外して素目を晒しただけなのに職務質問率が上がるとか……

 実は俺の目に加護みたいな特殊能力が付いてるとかない?むしろあってくれた方が俺としては何かのせいにできて心が救われるんだけど。ないですよね、そうですよね……

 いや気にしてないよ?

 ちょっと目から汗が出てきそうになるだけで泣くような内容じゃない。


「んじゃ、今日は何をすればいいんだ?」


 自分の机に向かってブツブツ呟くチェスターに話しかけると、ハッとしてこっちを向いた。


「……ん?どうしたんだ?」


 何かを思い詰めていたようなチェスターのらしくない反応に、俺は眉をひそめて聞いてみた。

 少しだけ……ほんの少ーしだけ心配をしてみたのだが、しかし次の言葉でそんな必要はなかったのだとわかった。


「何でもありません。そうですね、まずは……うちの娘のことはそろそろ考えてくれましたか?」


 ガリガリにやせ細った男、チェスター。

 いつもなら「ひゃーひゃっひゃっひゃっひゃ!」みたいな奇声で笑ったりするのがデフォルトだが、たまにこうやって爽やか笑顔でとんでもないことを言い放つ時がある。今がその時だ。

 ちなみにその考えというのは、俺がメリーに子供を産ませてくれないかという話なのだ。

 更に言えば恋人とか夫婦になれという話の内容ではなく、本当にただ「産ませる」だけ。実験の材料にしたいのだ、この親子は。

 前にも一度、その話を持ちかけられていたのだが俺のヘタレ精神で断ることも頷くこともせずただ今保留中状態にしてもらっている。

 メリーは一応とはいえ美人の部類に入るし、スタイルだって大半の男が目を奪われるプロポーションをしている。

 人によっては喜んで頷くだろうけど、俺としてはそういう行為だけをして「はいさよなら」はしたくない。

 するならちゃんと相手を好きになって生涯を、と考えている。

 だから断らねばならない。ならないのだが……!

 如何せん恥ずかしながら私、八咫来瀬は童貞である。

 しかも相手は残念美人。「残念な美人」ではなく「残念とはいえ美人」なのだ。

 それが足を引っ張ってか、「チャンスかも?」と思えてしまえるその相談をそうそう簡単に切り捨てることができないでいる。


「ほらほら……もし君がその首を縦に振ったら、この体を好きにしていいんだよ……?」


 いつの間にか目の前まで近付いて来ていたメリーが自分のスイカ並に大きな双丘を両手で持ち上げ、これ見よがしにタプンタプンと大きく揺らしてくる。

 おいやめろ、そうやって童貞を誘惑するんじゃない!恥ずかしくて固まっちゃうでしょーが!

 ……いや、これは体全体がって意味で、どこか一部がって卑猥な意味じゃないからね?深い意味はないよ?


「だからやめろって!そういうのは好きな奴が相手にやれよ。いくら実験のためとはいえ、好きでもない奴となんて――」

「い、いいの?私……しょ、処女だけど……」


 俺の言葉を遮って、これまたとんでもない爆弾発言をしたメリー。

 おい、これはどう反応したらいいんだ?童貞じゃない皆さん教えてください。


「私は専門外だから聞きかじったことだけど……男は女が処女だと喜ぶって聞いたことある……き、君はそうじゃないの?」


 顔を赤くしたメリーが上目遣いでそう聞いてくる。

 正直に言うと、その時は本当にかなり可愛いと思ってしまい、俺もう頷いちゃっていいんじゃね?ここでゴールしちゃっていいんじゃね?ともう一人の僕が囁いてきます。


「い……や、処女とか関係ない、から……」


 言葉を詰まらせながらもそう答えた。

 どもるなよ、俺。

 これじゃあ肯定してるように思われる……うん、もう遅いわ。

 チェスターも頬を赤くしたメリーも似たような薄ら笑いを浮かべて俺を見ていた。


「…………ああそうだよ!ちょっとだけいいなと思っちまったよちくしょう!」

「認めたね、パパ」

「ああ。しかも誤魔化そうと声まで荒らげて……見苦しいな」

「見苦しいね」


 もうやだ、この親子……

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