表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/141

5話目 後編 魔族の力

 ララは持っていた大剣を足元に突き刺し、右手を前に出して強く握った。

 よほどの強さだったらしく、ララの握った手の平から血が滲み出てくる。

 その血が一滴、地面に落ちる。するとブォンという機械音と共に緑色の芝生の上に黒い何かの模様が表れた。

 角の生えたS字型の龍……か?


「準備は整った。両手を前に出してくれ」


 ララの指示通りに両手を前に突き出した。

 その手にララは指を絡ませて握る。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。

 えっ、何これ?公衆の面前でやらされるとか凄い恥ずかしいんですけど。


「……なぁ、ララ?」

「焦らずとももう始まってるぞ」


 数分経ってもこの状態のままだったので、あまりの恥ずかしさに痺れを切らして聞こうとしたところでララがそう言う。


「始まってるって言っても何も起きな――カハッ!?」


 言葉の途中で口から何かが吐き出される感覚がした。

 いや、口だけじゃない。目からも涙のように垂れ、体からも汗のように吹き出した。

 下を見ると俺の周辺が赤い液体がばら撒かれているのに気が付く。

 ……血?


【個体名「ララ」からの接触により魔回路が無理矢理開かれようとしています。ヤタの体内のウイルスが継続的に減少中……】

「ゲホッゲホッ……な、なんヴぁ……ぼぉれ……!?」


 吐き出され続ける血液によって言葉すらまともに発せない。

 視界も徐々に見えなくなってきた……


「――――!」

「――――ッ!?」


 遠くで誰かが叫んでいる気がするが、それもまともに聞こえない。耳もやられちまってるのか?

 というか本当になんだこれ?もう滅茶苦茶になってる気がするんですが。


【強制的な魔回路の作成度が90%を超えました。身体の修繕に入ります……体内のウイルス現存率が50%を下回りました。当面の間は戦闘を避けてください】


 最初はアナさんの声だけが鮮明に聞こえていたが、時間が経つにつれて周囲の声も耳に届くようになった。


「――タ!ヤタ!?聞こえるかにゃ!?」

「オニイチャ!」

「しっかりしてくだせぇ、旦那!」


 レチアやイクナ、ガカンが俺を心配する声がしっかりと聞こえてきて、胸が少し温かくなるのを感じる。


「ララさん!ヤタさんに一体何をしたんですの!?」


 そしてアリアも憤慨してララに詰め寄っていた。


「魔族が長年費やしてようやく作れる体内の魔回路を無理矢理広げて作った。結果、身体の急激な変化に耐えきれず滅茶苦茶になったんだ」

「その結果がこれかよ。痛みがないとはいえ、このまま死ぬんじゃないかと思ったわ」

「ヤタ……」


 そう言いながらララたちの会話に加わる。

 それを見たアリアとその家族、護衛の男たちが困惑した視線を向けてきていた。


「な、なんであなたはそんなにケロッとしてるんですの……?」

「そういう化け物だからだよ」


 アリアの疑問には適当に答える。流石に彼女を怖がらせる気はないので腕を変化させない。


「それでヤタ、どうだ?」

「成功は……」

【魔回路の作成は終了しています】

「……したみたいだ。まぁ、回路の作成ってことは使えるかはまた別の問題って感じはするが」


 ララを見ると頷く。


「とはいえ、あとは力加減の問題だ。お前の場合は暴発して片腕がなくなっても元に戻るからな、『使って慣れろ』だ」

「本当に遠慮がなくなりましたねララさん?言っとくけど痛みがない状態で頭とかほじくられてみ?スゲー不快感あってスゲー気持ち悪いから」

「その『スゲー不快感』だけで技を使えるようになるのなら儲けものと考えればいいだろう?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべるララ。何この子、超イケメン。

 ……いや、正論言ってるように聞こえるけど、精神的死を迎えて廃人になったらどうすんのよ。ギリギリセーフに見えてスレスレアウトだからね?


「それでレチア。今のを見てやりたくなったか?」

「精一杯努力しますので慎んでご遠慮願います」


 レチアが真顔になって語尾に「にゃ」を忘れてしまうくらいの出来事だったらしい。

 まぁ、全身という全身から血が吹き出すような光景を見て「自分もああなりたいか?」と聞かれて正気であれば頷かないはずだ。

 よほど切羽詰まってなければ……一つしかない命をこんな技一つ習得するために無駄にしようなんて奴はいないに決まってる。


「ではヤタは次のステップに。どうせだ、イクナも覚えておくといい。あの時は偶然上手くいったが、まだ回路が開ききってない不安定な状態だ」


 ……そういえばなんでイクナは魔族の技を使えるのだろうか?

 その疑問にあまり考えたくない推測が頭の中に浮かぶ。

 イクナを見付けた研究施設……そこで彼女に対して何の研究を行っていたのか。

 そしてララが口にした言葉を思い出す。

 ――その眼、まるで魔族だな――

 アナさんはウイルスと言っていたが、その元となっているのは恐らく……


【魔族の一部が媒介の一つになっていることが判明しています。他にも人間の血肉を取り込むことで力を増幅させることができるなどの効果が確認しています】


 やっぱりか……禁忌だなんだと言っときながら、その力は得たいわけだ。

 嫌いな相手は徹底的に嫌うくせに、そいつが持ってるものを欲しがる。

 人間が我が儘で強欲というのはどこの世界も変わらないようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ