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4話目 前編 化け物と呼ぶのならば

 俺たちは入浴まで済ませて出てきたが、女性たちはもう少し時間がかかるらしいと聞かされて近くの部屋に待機していた。


「たしかに手配書は回ってきたけれど、そのすぐ後に撤回する話が回ってきたんだ。ただ君たちを見る限り普通とも思えないし、どこまで信用すればいいのかと決めあぐねていてね……」

「手配書が撤回……?その話は本当ですか?」


 再度聞くと頷いて答えてくれるアリアパパ。


「ああ、本当だ。ただ……ララさんの手配書はそのままらしい」

「…………」


 ララの手配書とは「魔族疑惑」のことである。

 まぁ、もはや疑惑ではなく事実であることをあの町で証明してしまった上に騒ぎを起こしたんだ。

 連合内で人を殺したのだから魔族でなくとも問題は問題のままだ。

 そしてその彼女と行動を共にしている俺たちも同罪と見なされる可能性は十分にあるということ。


「君たちにも事情があるのだろうが、娘の恩人でもしてあげられることに限界がある。数日は匿ってあげられるけれど……」

「わかってます。俺たちも好意に甘えてられる立場でないのは理解してますので。なるべく早くここを立ちます」

「すまないね……」

「いえ」


 そうやって謝ってくれるだけでもこの人は優しいとわかる。

 普通ならこんな目の腐った奴なんて娘に近付けさせたくなくてさっさと消えちまえと言われてもおかしくないしな。


「しかし魔族か……聞いていた話とは違って大人しい人だね、ララさんって方は。落ち着き方がどことなく気品も感じる」


 転生して長生きしているから落ち着きがあるのだろう。

 だけど覚醒する前のララは物静かだったけれど、その時と比べて喋るようになったはずなのに落ち着きがあると感じるのは何でだろうかね……?


「俺はそういうの疎いんでよくわからないんスけど……一度人間からも見放された俺からすれば亜種も魔族も人間とそんなに変わらない気がするんですよ。まぁ、俺の知ってる亜種や魔族が彼女たちだけってのもあるかもしれませんが……」


 そう言いつつさりげなくいつの間にか用意されていた紅茶を口にする。

 ……うん、コレ、向こうでたまに飲んだペットボトルの紅茶の味だわ。

 そんな話をしているとその部屋の扉が開かれ、体をピカピカに磨かれ、綺麗な服を着せられたララたちが入ってきた。

 今まで着ていたものも悪くはなかったが、新しくなった彼女らの服に感想を述べるのならば「戦いやすそうなもの」だった。

 ララは袖のない上の服と長いズボン。上下共に模様のほぼない黒色。

 レチアは白いシャツに青黒いジャケットを羽織り、青いショートパンツを履いている。

 イクナは体を隠すために着ていた外套のサイズを彼女に合わせてもらった感じになり、レチアと同じタイプの白いショートパンツを履いている。上は胸に布を巻いているようにしか見えないが……あれも服なのか?


「その服は?」

「ここに連れてくる時に良い腕の鍛冶師がいるって言ったじゃないですか。その方に作らせましたの」


 作らせましたのって……いやいや早くない?服ってそんなに早く作れるもんだっけ?

 しかもサイズもそれぞれピッタリだし。いつの間に採寸したんだか……

 ……ん?俺たちのは用意されてないのか?

 いや、催促するわけじゃないんだけど……なんとなく不遇感があって悲しくなってくる。


「うにゃ~、もうしばらくお風呂はいいにゃ……」

「前にもお世話されたことはあったが、ここまで徹底的にされたのは初めてだ……まさか洗われるだけで疲れることになるとは……」

「アゥ……モウオフロキライ!」


 外見は綺麗になったけれど散々揉みくちゃにされたせいか疲労が目に見えてしまっていた。

 いやいや君たち?その徹底的に洗われた意味わかってる?

 普段からお風呂に入っていればいいだけなのに入らなかったらまた臭くなるでしょーが。


「フフフ、やっぱり変な感じしかしない……」


 続いてメリーも入ってきた……が、むしろこっちが違和感を感じるくらい彼女の身綺麗になった姿がそこにあった。

 ボサボサの癖毛だらけだった髪が綺麗なストレートとなり、若干目のクマも薄れているような気がした。

 ……あれ、でも服装は変わってない。


「綺麗にはなったけど服装は変わってないのな」

「お風呂はともかく、服は持ってきたばかりの新しいやつだからね……とい……やっぱり……たらし……」


 メリーが頬を赤くして後半をボソボソ声で何を言っていたが聞き取れなかった。けどロクなことを言ってない気がする。


「……でも入らないより入った方がいいぞ」

「ですわ、女の子は綺麗にするだけで魅力が上がりますのよ!」


 俺のセリフに同意しながらアリア母娘も入ってきた。

 そしてアリアの腕には九尾の赤ん坊が抱かれ、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている。


「魅力の話も良いですけど、ともかく食事にしましょう!食事も体を作る基本ですからね」


 アリアママに促され、俺たちは食事の並ぶテーブルへと移動した。

 ……と、俺はそのテーブルを目の前に足を止める。


「どうしました?」

「……やっぱ俺は遠慮しとく。飯は要らないから」

「え、でも……」


 アリアが呼び止めようとするのを無視し、部屋を出て行く。

 食事は要らないと言ったのは遠慮じゃない。この体になってから腹が減らなくなっていたからだ。

 まぁ、多分オールイーターで魔物とか食ってるから、栄養とかそういう方面では補ってるんじゃないかとは思うけど。


「おっ、こんなところに化け物のお客人ではないか!」

「ん?」


 嘲笑うような声が聞こえ、周囲を見渡すといつの間にか知らない場所まで歩いて来ていたようだった。

 そしてその声は後ろから、首からしたに甲冑を着た大柄の男たち数人がニヤニヤして俺を見ている。

 この屋敷を護衛してる奴らだろうけど、俺のことを知ってるのか?


「聞いたぞ、異様な姿でお嬢様を助けて取り入ったんだって?」


 言いがかり……って言いたいけど、他人から見たらそんなもんなのか。

 どちらにしろコイツらからしたら、俺が取り入っていようがいまいがどうでもいいんだろう。

 普段から溜まってるストレスの捌け口が欲しいだけなんだ。そこに都合のいい奴が転がり込んできた上に一人でうろついていたカモがいた、というだけの話なんだろうな。

 でもただカモになるだけってのも面白くない。

 今まで波風を立てずに生きようとして甘んじて受けていただけだったけど、これを機に少し反抗してみるか。


「だとしたら?」

「……何?」


 俺の反応が面白くなかったらしい男たちの顔から下卑た笑みが消える。


「殺して奪うより取り入って見返りを貰った方が得だろ?実際、俺みたいな奴をお嬢様はまんまと屋敷の中に入れてくれたよ」


 今度は俺が不敵な笑みを作り、男たちを見返す。

 もちろんあんな年端もいかない無垢な少女を殺すなんてことはしないけれど、コイツらが俺を化け物と呼ぶなら化け物らしい演技をしてやろうと思った。

 それにもう我慢するのはやめたって決めたんだ。


「ふん、やはり化けの皮が剥がれたな」

「最初から皮なんて被ってねえよ。お宅のお嬢様方がマヌケなだけだ」

「お嬢様を愚弄するかっ!!」


 数人の男が俺に攻撃を仕掛けようと動き出すが、一番前にいた大男が制止させる。


「いいのか?今のうちに俺を追い出さなきゃ、あのお嬢様に牙を向けるかもしれないぞ?」

「……ならついて来い」


 大男がそう言って俺の横を通り過ぎる。

 他の男たちも困惑した状態で動く気配がなかったが、俺が言う通りについて行くとその後ろからついて行き始めた。

 案内されたのは広い庭だった。

 弓を当てる的やカカシが立ってることから、コイツらの訓練場なんだと察した。

 大男は奥の立てかけてあった大剣を手に取り、その剣先を俺に向けてきた。


「完結に言おう。私たち全員と全力で戦え」


 大男の言葉に他の男たちが「本気か?」とざわつく。


「言ってる意味がわからん。なんで俺がお前らと戦わなきゃならないんだよ。っていうか、なんで一体一じゃないの?イジメかよ」

「イジメとは弱者を貶める強者に対して使う言葉だ。だがお前は違うだろう?数十人近い実力者集いの賊どもを一瞬で一掃したと」


 知ってるとしたら、あの時にカノンたちを護衛していた奴らが広めたのか……

 いや待て。コイツはそれを知ってて全力で挑めって言ってるのか?


「全力ってのは、命を奪うつもりでって意味で捉えていいのか?」

「ああ、構わない。その代わりこっちも殺すつもりでやらせてもらうがな」


 男たちのざわつきが一層大きくなる。

 大剣を持った大男以外の奴はただちょっかいを出すだけのつもりでここまでするつもりはなかったんだろう。

 まさか敷地内で殺し合いだなんて……ってな。


「でもそれじゃあハンデがあり過ぎるな」

「なんだ、今から弱音か?さっきも言ったが人数は――」

「違う」


 大男の言葉を遮って、俺は歩き始める。


「お前らが有利なんじゃない、不利だから言ってるんだよ」

「何を言って……お、おい?」


 向けられ続けているその大剣の先まで行くが、俺はまだ止まらず大男が動揺する。

 その大剣が動かないように手で掴んで固定した。

 大剣を動かそうと大男が力を入れるが、単純な力は俺の方が上のようでピクリとも動かない。

 ――ズブリ


「「――っ!?」」


 俺の胴体に大剣が貫通するのを見た後ろの男たちが息を飲む。

 しかし俺が何でもないようなケロッとした顔を上げると大男と目が合い、奴の持ってる大剣から震えるのが伝わってきた。

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