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1話目 前編 助ける?助けない?

 俺、八咫 来瀬は今迷子になっていた。

 35歳のサラリーマンをしていた目付きの悪いおっさんが黒猫のドロップキックにより異世界へ飛ばされ、若返っても目のことをバカにされ、挙句の果てに犯罪者扱いされて町へ出入りできなくなってしまったという今状況。


「まさに人生の迷子である、か」

「お前は何を言ってるんだ?」


 ポツリと呟いた俺の言葉に反応する黒髪の少女、ララ。

 だがもう「少女」と言っていいのかわからない風貌をしている彼女は魔族であり、魔王だと名乗った。

 その証拠と言っていいかわからないが、通常の人間だったララの白い肌は褐色に目の白い部分は黒く染まり瞳も赤くなってしまっている。

 少なくとも「普通の人間」というには大きく変わり過ぎた。

 しかもそこにいるだけでなんか威圧っぽいのを感じるし、前のララよりも凛としている感じがする。

 そんな彼女は今、近くの川で取った魚をしゃがみながら焼いていた。

 「魔王」ってゲームとかだと仰々しい椅子に座ってふんぞり返ってるイメージがあったし、町から離れるまでそれっぽい雰囲気を出していたのだが……今ではなんともシュールな絵面である。


「というか、お前のことはなんて呼べばいいの?これまで通りララでいいのか……それとも魔王様って呼んどく?」

「ヤタの胆力ってどこから来てるんにゃ?」


 呆れたようにそう言うのは白髪の少女レチア。猫耳尻尾が生えていて人間とは別の亜種という種族である。

 ちなみに年齢がこの世界の成人を越しているにも関わらずかなりの低身長。

 しかしながらそのお胸には世界記録になるんじゃないかというものを持っている。正直下世話な話をすると健全な全国の男子諸君であれば、見ただけで誰もが前かがみ待ったなしの代物であると断言できる。


「この魚を焼かせたお前も人のこと言えないだろ」

「そこはほら、物は試しってことで言ってみただけにゃ。案外似合ってるにゃ?魚焼き姿」

「褒めてるのか貶してるのか」


 レチアの評価が不服なのらしく、眉をひそめた目で焚き火を見つめる。魔王っぽい威圧感があってもその仕草はちょっと可愛いと思えてしまったり。

 ちなみにレチアは過去に罪を侵したことを悔やみ自ら奴隷となり、その場で俺が引き取っている。

 感覚的には冒険者のパーティメンバーだが、実際は冒険者の資格を剥奪されている彼女は俺の奴隷として働いているという現状だ。

 ……奴隷と言っても変なことは一切してないからな?断じて。


「皆様、良いものがいっぱい採れましたよ!」

「イッパイ!タクサン!」


 するとキノコやら山菜を大量に籠へ乗せて持ってきた男と少女がやってくる。

 男の方はガカン。歪な顔の造形をしており、それが原因で今まで人から散々な扱いを受けてきたらしい。

 まぁ、コイツとは紆余曲折(うよきょくせつ)あったが、魔物などサバイバル知識が人一倍ある貴重な仲間だ。

 少女の方はイクナ。左の目は正常なのだが視力が無くなってしまっており、右目は本来白い部分が黒く染まって獣のような黄色い瞳をしている。

 彼女の青黒い色の髪は少し前まで地面を引きずるほど長かったのだが、レチアが短剣で少し切って三つ編みに結って肩から垂らしていた。

 しかし何より特徴的なのは、肌が比喩や冗談で済まないほど青く染まっているところだろう。

 前は言葉も獣のような唸り声しか発せなかったイクナだが、今ではカタコトで意味は理解していないだろうけど一応一言一言誰かの真似をして発せるようになっていた。

 元々、俺とララが迷い込んだ謎の研究施設で彼女を発見し、「No.197」と記録手帳に書かれていたのを元にイクナと名付けて呼ぶようになったのだ。

 まぁ、そこの研究員も番号に因んで同じ呼び方をしていたのがなんとなく癪に障るが……


「……毒キノコは?」


 ヒョコッとどこからともなく俺の頭の上に顔を覗かせて変な質問をしたのはメリーという少女だ。

 黒に近い紫の濃色をした長い髪と黒目。一応美人の部類だが、目にはクマがあって台無しに、頭にはトレードマークになりそうなアホ毛がピョコピョコと生物のように動いている。

 あとレチア以上にふくよかな胸をお持ちなのだが、それを平然と俺の頭に乗せないでほしい。


「すんません、旦那から変なものは拾ってくるなと言われたので……」

「謝るな。間違って俺たちが食ったら大惨事だろうが。あと俺の上に乗るな」

「あなたは猛毒のやつを食べても何ともなさそうだけどね……ヒヒッ」


 申し訳なさそうにするガカンとは対極に、悪気もなくそう言って怪しい笑いを浮かべるメリー。むしろ体重をかけてくる。

 彼女は逃げた町でお世話になったチェスターという研究者の娘だ。

 薄気味悪く笑うのは父親のチェスター譲りだろうが、研究者としても同じくらい優秀だと聞いている。

 ともあれこの六人で町から森へ逃げ、何キロかもわからないくらい歩いた。


「……アゥ」


 あ、もう一人?いた。

 俺の背中に背負った赤ん坊。

 この世界にはダンジョンという迷宮のような場所が突然出現するのだが、コイツはその一つのボスだった九尾だ。

 なんでそのボスが赤ん坊になったのかは……俺の意識がない間の出来事だったせいて実はよくわかってない。

 それと本当ならもう一匹の黒猫がいるはずなのだが、あの騒動でそのまますぐ逃げてしまったので気付いた時には町に置いてきていた。

 恐らく俺にドロップキックを食らわせて異世界に連れてきたであろう張本人ならぬ張本猫である……張本猫って言い難いな。

 俺たちが突然いなくなって困ってるだろうけど、もうあの町に引き返すこともできない。俺たちに懐いてあそこまでついて来たあの猫には悪いが、ここでお別れでいいだろう。

 なんせ猫だ。可愛い猫ならそこにいるだけで餌をくれる奴もいるだろうし、もしかしたら誰か拾ってくれるかもしれない。

 ……うん、そう考えると俺たちより心配ないな、あの猫は。

 ということで野宿生活を始めた現在はまだ日は跨いでないその当日の夜だ。


「追っ手、とかは……来てないよな?」


 昼間の出来事がふと頭に過ぎり、心配になって何も無い森の奥を見つめる。

 焼き魚にかぶりつくレチアや他の奴らも同じ方向を見る。俺たちが逃げてきた町がある方向だ。


「……さぁにゃ。少なくとも僕ら以外の気配はしないにゃ」

「気配?奇跡が使えるのか?」


 二口目を口にしながら言ったレチアの言葉に疑問を投げかける。

 その時に思い浮かべたのは、前にシルフィという少女が使っていた奇跡のことだ。

 それが原因でベラルの人生を滅茶苦茶にしたと言っても過言じゃないから覚えてるんだけどな……


「それよりも便利な良いモノにゃ♪」


 レチアはそう言うと、自らの頭に生えている猫耳を指差した。


「……可愛さアピール?」

「アホバカマヌケヤタ野郎」

「ちょっと待って、俺の名前を罵倒の言葉として使わないで?」


 怒りで青筋を浮かべて早口で軽い罵倒を並べるレチア。

 というか答えを間違えただけでなんでここまで言われにゃならんのだ……


「音にゃ!これでも一応、そこらの人間よりも耳が良いんにゃよ?」


 自慢ついでに「にゃひ♪」とあざとく笑うレチア。

 その笑顔はズルい……惚れてまうやろ。


「なら安心していいか。まぁもっとも、こっちには魔王様がいるから戦闘面は安心だと思うけどな」

「…………」


 俺の言ったことが気に入らなかったのか、自称魔王のララはジト目で俺を睨み続ける。


「……言いたいことがあるなら無言の圧力じゃなく口で仰ってください」

「若干折れかかってるのがヤタらしいにゃ……」


 呆れたレチアが溜め息を吐く。

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