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12話目 前半 魔族、悪意

「全く……目が腐ってるくせに女の子に手を出すのは一丁前にゃ!」


 なぜか昨晩、腕輪と赤ん坊を見られてレチアに問いつめられてから機嫌が斜めで、連合に向かってる今もこの調子なのである。

 そんな彼女を含めたララ、イクナ、ガカン、俺の五人、そして黒猫と赤ん坊になった九尾も連れて行っている。


「目が腐ってるの関係なくない?目が腐ってるからなんですか……というか俺が女ったらしのゲス野郎みたいに聞こえるけど違うからね。メリーとはそういうんじゃないから」

「どうだかにゃ!いっつも僕たちに隠れてコソコソどっかに行ってるみたいにゃし!」


 声を荒らげて早歩きになるレチア。

 何でしょうかね、この不倫疑惑のある夫に対する態度みたいなのは。

 いや、そもそも不倫する相手すらいないから後ろめたく感じる必要もないんだけどね?


「誰だってコソコソしたくなる時くらいあるだろ?特に男ってのはいくつになってもコソコソしたくなる子供心を忘れないんだよ……な、ガカン?」

「……え?いえ、あっしはむしろ常にコソコソしてないと目を付けられちゃお終いな外見をしてるもんで……よくわからんです」


 ガカンの答えを聞いた時、物凄く悲しくなったのはなんでだろう。


「そうやって適当に誤魔化す男の言葉ほど信用できないものはにゃいにゃ。しかもどこの誰と作ったかわからない赤ん坊を背中に背負ってる男のは特ににゃ!」


 レチアがジト目で見る目の先は、俺の肩から顔を出している九尾の赤ん坊だった。


「だーから、昨日から言ってんじゃねえか。道に捨てられてたから拾ったんだってよ」


 しばらくレチアからジト目で睨まれ続けたが、諦めたのか呆れたように大きく溜息を吐いて背を向けられる。


「そんな簡単にポンポン拾うのはどうかと思うにゃよ?その性格に僕が助けられたのは確かにゃけど……捨て子ならどっかに預ければいいだけの話じゃにゃーか?、」

「そんなこと言うなって。こいつは普通の赤ん坊……というか生物と違って食事をしないらしくてな。しかもあやす必要もないくらい泣かないから、育てる分には負担がかなり少ない。だけどそんな奴を預かってくれるところなんてないだろ。少なくとも……」


 俺は赤ん坊の背中から生えている尻尾に視線を向ける。


「亜種を面倒みようとかいう変な奴は俺くらいだろうしな」

「そうにゃね、そんな変人はヤタくらいしか知らないにゃ!」


 ようやく機嫌が直ったのか、満面の笑みで振り向いてそう言うレチア。

 一応自分でも貶したつもりだったが、彼女はその傷を更にエグるのが好きらしい。泣きたいやら文句を言いたいやらあったが、レチアの笑顔を見てしまったらそんな考えもなくなってしまった。


「……あっ、そうだ、旦那。少し寄り道したいところがあるんですがいいですかね?」


 そんな時、ガカンが思い出したようにそう言い出した。


――――


 町の外れにある草原。そこは何も無い場所だった……ただ一つを除いて。

 その草原には似つかわしくないボロボロの石が一つだけ立っている。

 大きさは丁度、俺の世界にある一般的な墓石に近い。

 そしてガカンはその石の前に行き、先程町で買った花束を添えた。


「……ここに来るのは久しぶりです。旦那のおかげで真っ当なお金が入りやしたので、ようやくこうやってちゃんと顔を出すことができやした……」


 そう言うガカンの表情は穏やかでありながら、どこか悲しさを帯びていた。

 恐らくきっと、この「墓」はこいつの親しい人が……


「俺たちは近くで待ってるから、ゆっくりしてていいぞ」

「……いえ、できればこのまま一緒に居てください。母ちゃんへの良い報告の一つですから」


 母ちゃん……母親か……

 ガカンはその場に跪き、祈る形で両手を合わせる。


「……母ちゃん。時間をかけちまったけど、ようやく良い人たちに会えたよ。個性的だけど良い人たち……おかげでまともな食事も取れるようになった。しかもそのきっかけが命を救ってもらったことなんだ。感謝してもし切れねぇ恩人たちでさぁ……」


 なんとなく気恥しさを覚えるガカンの言葉。それは俺だけじゃなくレチアやララもむず痒そうにしている。


「うーん……僕はその場にいなかったんにゃけどなぁ……」

「私も……助けられた立場だし、逃げただけだし……」

「ン〜?」

「にゃ〜?」


 そんな俺たちの様子をイクナと黒猫が首を傾げて見てくる。

 何なの、この子たち。普通に可愛い。

 その後もガカンは全身が痒くなりそうな褒め言葉ばかりの報告を墓石に済ませ、その場を後にした。


「すんません、あっしの我が儘に付き合ってもらっちゃって……」


 ガカンがそう言って少し申し訳なさそうにする。


「別に。これくらいの我が儘、たまにレチアが言う『ちょっと強い魔物を退治しに行こうにゃ!』より全然マシだから気にすんな」

「にゃ!?いいじゃにゃーか!いつもいつも他所の家の家事やら掃除やらばっかりで冒険者らしいことを何一つしてにゃいんだから!たまには発散させろにゃ!」


 「うにゃー!」と両手を挙げて叫ぶレチア。イクナも面白そうにつられて「アニャー!」と叫んで真似し、なぜか黒猫も「にゃ〜」と鳴く。


「やっぱり皆さん、個性的で面白いっすね」

「……物は言いようってやつだな」


 だがその騒がしさが心地良く感じる自分がいることに気付いた。

 ……今まで蔑ろにされてきたばっかりだっただけに、この居心地の良さに依存しちまいそうになるな。

 もしできることならこのまま何事もなく平和に過したいものだ。


――――


 何気無い会話をしながら再び町に戻り、連合の前まで着いた。

 するとその中が騒がしいことに気付く。

 扉を開いた先には掲示板に群がる冒険者たちの姿があった。


「なんだ?なんか良い依頼でもあったのか?」


 俺がそう発言した瞬間、今まで騒がしかった冒険者たちが一気に静かになり、連合内にいる奴のほとんどが俺たちに視線を向けた。

 そんなに熱烈な視線を向けるなよ……恥ずかしくなっちゃうだろうが。


「……いた」

「……あ?何を――」


 掲示板のとこにいる誰か一人がポツリと呟いた。

 そして気付いてしまった。奴らが……冒険者たちが俺たちに向ける目が普通じゃないことに。

 その目からは戦慄を覚えるほどの恐怖を感じた。

 痛みで感じる恐怖とは違う。だが昔に向けられていたものに似たもの。

 これは……悪意だ。

 その光景が昔の、イジメられていた頃の記憶と重なり、思わず身震いした。


「捕まえろっ!」

「っ!?」


 誰かが叫んだ。

 するとすでに俺たちの後ろに回っていた奴が取り押さえに来た。

 鈍い音と共に地面へ叩きつけられるように押さえられてしまう。


「な、何して――」

「大人しくしやがれ、この野郎!」


 ゴスッと後頭部からまた鈍い音が鳴り、さっきよりも強い力で押さえ込まれる。

 なんだってんだよ、一体!?つーか背中に赤ん坊を背負ってんだから乱暴にするなよ!


「……お前だな、ララって奴は」


 一人の男の声が頭上からし、なんとか目をそっちに向けようと顔を上げる。

 なんでララの名前が……?

 するとそこには一枚の紙を持って見せてくる男の姿があった。

 その紙にはララに似た人相書きと驚く内容が書かれていた。


『この者、魔族により注意されたし。見つけ次第身柄の拘束を求む。成功した際には報奨金を――』

「……どういう……ことだ?」


 魔族?魔族ってなんだ?

 レチアみたいな亜種とはまた別の種族なのか?

 上げた顔でなんとか周囲を見渡してララを探す。

 そこには俺と同じように押さえ込まれているレチアやガカンたちの姿もあった。

 イクナは唸り声を上げて暴れようとしているのだが、屈強な男複数人から取り押さえられているせいで身動きが取れずにいる。

 ガカンは何が起きているのかすら読めず、混乱で呆然としている様子が見て取れた。

 そしてララは重要な隠し事がバレてしまったと言わんばかりにわかりやすく表情が青くなって動揺していた。

 恐らく「こうなる原因」が自分にあると自覚しての反応なのだろう。

 その中でレチアは、悔しそうに唇を噛んでいた。

<hr>

☆★☆★

 それは数日前まで遡り、ヤタが先に眠りレチアとララが宿で会話していた頃。


「……レチア」

「え?」

「このタイミングでしか言う勇気がないから……言うね?」

「私ね、実は――」


 ララが一瞬躊躇し、決心を固めた目をレチアに向けて再び口を開く。


「――魔族なの」

「…………え?」


 予想外と言えるカミングアウトに、お酒を飲んでいたレチアの酔いが覚めてしまう。


「魔族って……魔族?……あはは、酔ってるせいでよく聞き取れなかったにゃ。もう少しハッキリ言ってくれにゃ!」

「私は魔族なの」

「……にゃふん」


 二度目の報告。もはや聞き間違えようのないハッキリとした言葉で伝えられ、レチアの口から謎の声が上がる。


「ええっと……魔族ってたしか、魔王と共に世界を破滅させようとしたとかなんとかどっかの文献に載ってたような……」

「うん、その魔族」

「でも魔王の消滅と一緒に魔族は絶滅したって……?」


 完全には覚めてないレチアはベッドの隅に腰掛け、二重の意味で頭を抱えた。


「昔のことは知らないけど、私の両親は人間と魔族だった。だから多分その戦争を生き延びて、出会って、私を産んだんだと思う」

「あぁ……また新しい情報に頭が痛いに……」


 二日酔いが早めに来たような頭痛が彼女の頭をズキズキと襲う。


「……ごめんなさい。こんなこと、言われても迷惑、だよね……」


 俯いて申し訳なさそうに謝るララにレチアは微笑んで立ち上がり、優しく抱き締めた。


「そんなことにゃいにゃ。魔族が他種族に喧嘩を売って戦争を起こしたって話も、僕には関係にゃいからにゃ。そんなに長く過したわけじゃないけど、ララちは亜種の僕を毛嫌いしない良い人にゃ。ただそれだけでいいにゃ。多分、ヤタだって気にしないにゃ?『むしろこっちこそこんな目でごめんね?』とか言って自分を卑下して変に和ませようとするにゃ」

「……うん。でも彼はまだ言わないで。拒絶されたらと思うと……もう少しだけ気持ちの整理をしたら、私から言うから……」

「わかったにゃ。でももう一度言うにゃ、ヤタはララちが魔族だなんてこと、絶対気にしないにゃ」


 すでにヤタが異世界から来たことを知っているレチアにはその確信があったからこその言葉だった。

 そしてララは静かに頷き、部屋の中には静寂が訪れる。

 そんな部屋の外で、一人の男がニヤリと邪悪な笑みを浮かべる――

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