零話
是非見てってください。楽しんでいってください。
私は読んでくださる方々をイイ感じに満足させることができるよう、頑張ります。
暑さ厳しい夏の夜、俺は窓の外を覗いていた。
別に夜風に吹かれ風流を気取ろうとか、そういう訳では断じてない。
ただ、夜空に浮かぶ満月を、明日の仕事の事を考えながらボケッと眺めていた。
「伊代さん……」
その名前は、詩人が美しい情景を目にし、心のままに詩を読み上げる様に、自然に出てきた。
久しく忘れていた名前を口にし、彼女との思い出に思いを馳せようと瞳を閉じる。
笑顔、仕草、吐息……彼女の全てが、目の前に感じられる。
夜風で冷え込んでいた体が彼女に包まれ、暖かいとさえ感じてきた。
こうなると俺は明日の仕事の事などとうに忘れ、彼女との古い思い出を思い起こしていた。
彼女との出会いは十年程前の、中学一年生の夏休み。
丁度、今夜の様に美しい満月が出ている夜の事であった。
彼女と過ごした時間は、二度目の満月を彼女と共に見る事がなかった程短い。
しかし、その日々は永遠の様に感じられ、けれども瞬きをすれば一瞬で過ぎてしまう様な、夢か御伽噺の様に幻想的な一時であった。