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安藤さんはアンドロイド  作者: おでん信用金庫
Episode2 -退屈な令嬢-
25/26

25限目 西園寺さんとスリリング・ワンウェイ



 さて、1話空いてしまったので現在の状況を整理しておこう。人気のない路地裏でイヤミ転校生・西園寺(さいおんじ)さんが因縁をつけられたヤンキー集団に拉致(らち)られそうになっている。僕は咄嗟(とっさ)に路地裏に向かうも、廊下を走ったことが原因で屈強な男教師(バーサーカー)に呼び止められてしまった。裏路地で起こっていることを正直に話しても信じてもらえず、膠着(こうちゃく)状態が続いているのだ。


 僕が今置かれている状況、大体分かってもらえたと思う。というわけで僕が今やるべきことは、この男教師の妨害を切り抜けること。しかし、中ボスにしてはあまりにも強すぎる相手だった。ラスボスに相当すると言っても過言ではない。体格もガッチリしてるし、背も高い。身体的有利(アドバンテージ)は完全に向こうにある。


 ではそんな相手には刃向かうことなどせず、素直に屈するしかないのだろうか。絶対的敗北を前に、圧倒的強者にひれ伏すしかないのか。オークに襲われる女騎士のように。


 それは否だ。諦めてしまってはそこで終わりだ。まだ負けてしまったわけではない。「くっ、殺せ」宣言をするにはまだ早い。僕にはたった1つだけ、突破口がある。だが僕は、まだ覚悟を決めきれていない・・・




「おいお前、聞いてんのか!?さっさと職員室までついて来い!」




 男教師が動きだした。僕の腕をつかみ、無理矢理にでも職員室に連行しようとしているのだ。今だ、覚悟を決めるのは今しかない。前に進むための、自己犠牲の覚悟を・・・!




「すみません!!!」




 僕は心の底から謝罪の言葉を申し上げた。そして次の瞬間、僕は男教師の股間を思い切り蹴り上げた。そう、生きとし生ける男性のウィークポイント『金的』だ・・・!




「〇×△□〒↑←↓→☆♡~~~~~ッッッッッ!!!!!???」




 絵文字で彩られた断末魔の叫びが、男教師の口から発せられた。よかった、致命傷のようだ。いくら屈強な男とはいえ、そこまでは鍛えられているわけではなかったらしい。いや、逆にどうトレーニングすれば金的が効かなくなるというのだろうか。去勢でもせん限り無理やで、ほんま。




「あばぁ・・・き、貴様ぁ・・・よくも・・・!」




 悶絶(もんぜつ)する男教師は、股間をおさえながら僕の方を睨む。可哀想だが、その大きな隙を利用させてもらう。僕は男教師を置き去りにして走りだした。あぁ、これは教育委員会送りになるだろうな・・・そんな不安を胸に、僕は裏路地へと向かう。








「西園寺さんっっ!!!」




 やっとの思いで、西園寺さんが拉致されそうになっていた地点に到着した。しかしもう彼女らの姿はなかった。ハイエースもいない。辺りを見渡すもただ閑散(かんさん)とした裏路地の景色が広がるだけだ。誘拐は成立してしまったのだ、僕はそう確信した。


 彼女を助けることはできなかった僕は、己の無力さを呪う。しかし落ち込んでいる場合ではない。僕にはまだやるべきことがある。そう、警察への通報だ。彼女の誘拐を事件として取り扱ってもらう必要がある。悔しいが、逆を言えば僕にできることはそれくらいだ。だから、今の僕にできることを最後までやりきるしかないのだ。


 警察に通報するためにポケットからスマホを取り出した、その時だった。()()()()()()が僕の耳に響いた。我の身体の内側から悪魔の悲鳴が・・・とかそういうのじゃない。確固たる外部からの音だ。例えるなら、車が衝突するような音だったような・・・




「まさか・・・」




 ドラマの登場人物のような台詞を捨て、僕はその音がした方向に走り出した。僕は予想した。今のは車が何かに衝突した・・・要するに事故を起こした音であると。そしてそれは、西園寺さんを誘拐したハイエースによる事故であると。西園寺さんが車内で抵抗して暴れるなどして、ハンドル操作を誤らせた結果の事故なのだろうか。


 事故が起こって喜ぶのは不謹慎極まりないが、これは幸運だ。某物語でいうところの「スーパーラッキー」だ。水着を着た若い女性が海の中から微笑んでくれるに違いない。その幸運のおかげで、彼女を救い出すことができるかもしれないのだ。まぁそもそも全く関係ない人間の事故という可能性も無きにしもあらずなので、お門違いな考えなのかもしれないが・・・


 事故を起こしたのが西園寺さんを誘拐したハイエースであってくれ。そして、西園寺さんがどうか無事であってくれ。さまざまな不安を抱えながら、貧弱な身体に(むち)を打つように僕は走る。先ほどから正義の味方みたいな思考を持ち合わせている自分を、らしくないと揶揄(やゆ)しながら。



 少し走ると、相変わらず人通りのない路地でハザードランプを点灯させて停車している黒いハイエースの後ろ姿があった。間違いない、西園寺さんを誘拐したハイエースだ。車のナンバーが、先ほど咄嗟に目にして記憶していた数字と一致しているからだ。「9603」・・・語呂合わせをすると「クロワッサン」だ!うん、かわいくて覚えやすい!


 そして、フロント部分からは(わず)かに白煙が出ている。これが誘拐犯の車であり、そして事故を起こし停車していると確信を持った。よかった、あとは西園寺さんが無事でいてくれればなによりだと、安心感に包まれた。



 ・・・しかし妙だ。このハイエース、電柱にぶつかっているわけでも、壁に衝突しているわけでもない。堂々と()()()()()()に停車している。僕は嫌な予感を覚えた。周囲の障害物に衝突したのではないのなら、どうやって事故を起こす?白煙が出ているのだからエンストではないだろうし、エンジントラブルとも考えにくい。間違いなく彼らは事故を起こしたんだ。そして現時点でもっとも信憑性のある事故原因、それは・・・人身事故だ!


 僕の今いる地点からは見えないが、恐らくハイエースの前方に人が倒れているのだろう。それは間違いなくハイエースという巨体に轢かれた人だ。二次災害とはこのことを指して間違いないと思います。落ち着け久遠(くおん) 瑛士(えいじ)、冷静に二次災害のイロハを定義している場合ではない。今は一刻も早く現状を確認し、場合によっては救急車を要請しなければならない。なんて劇的な一日なんだろうか。僕は被害を把握するため急いでハイエースの前方に向かって走った。




「・・・え?」




 ハイエースのフロント部分はひどく傷ついており、大破しているといっても過言ではなかった。そして幸いなことに、ハイエースの前方に人は倒れていなかった。代わりに、ハイエースの前方で体操服姿の安藤さんが立ち尽くしていた・・・


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