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安藤さんはアンドロイド  作者: おでん信用金庫
Episode2 -退屈な令嬢-
17/26

17限目 安藤さんと落として愉悦


西園寺(さいおんじ) 夏澄(かすみ)と申しますわ。父が『サイオンジホテルグループ』を経営しておりまして、簡単に言えば金持ちの娘ですわ。庶民のみなさん、よろしくあそばせ?」




 状況を整理しよう。担任が転校生を呼んだ。金髪ツインテが入ってきて、セバスチャンを呼んだ。セバスチャンが黒板に転校生の名前を書き、彼女が自己紹介をした。これら一連の光景は、つい先日の朝礼にて体験したものだ。



 なのになぜ、翌日に僕はその光景を再び目の当たりにしているのだろうか。幻術か?敵スタンドの攻撃か!?イヤミ転校生による自己紹介の再放送を経て、僕は夢でも見ているような気分になった。




「おい、あの人昨日も転校してきたよな・・・?」



「奇遇だな、俺もそう思ってた。」



「どういうことだ、スタンド攻撃か?」




 音無(おとなし)先生の言動によってスルースキルに()けていたクラスメイトたちも、さすがにこの状況には困惑の顔を浮かべていた。



 ざわざわする教室の空気を音無先生が静める。そして次の発言に移った。




「じゃあ、あそこに()()()()()()から、そこに座ってくれ。」




 先日、西園寺さんはここで用事のために教室を出て行ったのだが、今日は出て行かないらしい。まるでゲームのイベント分岐のようだ。



 そして、「()()()()」というよく分からない発言をした音無先生が指さしたのは教室の奥、僕の席よりも後ろだ。ちょっと広めなスペースが確保されている。自分の席がちょっと前に出ているのは「席を設置」するためだったのかと納得する。やがて教室にサングラスをかけた黒服の男が入ってきて、「席を設置」した。「席を設置」し終えると、黒服は去って行った。



 そこに置かれたのはリクライニングチェアであった。革が使用されており、高級さを放っている。いかにも金持ちっぽいアイテムだ。しかし、勉強机の姿はなく、黒いリクライニングチェアだけが教室の奥に佇んでいる。とても勉強できる座席とは思えない。




「よいしょっと。」




 やがて西園寺さんは教室の奥にやって来て、リクライニングチェアに深く腰掛けた。そして足をクロスさせ、教室の皆を見下すように顎をあげた。セレブ女優のような姿勢である。




「さて庶民教師A、授業を始めてよろしくてよ?」




 音無先生を煽るように、西園寺さんは授業の催促をする。音無先生はイラつく様子もなく授業の準備を始めた。




 そして状況の整理もつかないままに授業が始まった。最初は教室の後ろに西園寺さんが座っている以外に何の違和感もなく、平和な1限目を過ごしていたのだが、やがて彼女は動き出す。



 ゴトンという音が教室に響いた。その音の発信源を見ると、やはり教室後方、西園寺さんの席付近であった。何か落としたのだろうかと、クラスメイトがみな後ろに注目すると、そこには黄金の光に包まれた何かが落ちていた。その正体に気付くと、僕らは驚きの声をあげた。




「あぁ~ら、いやだ!わたくしとしたことが、24金のインゴットを床に落としてしまいましたわ~~~!!!ど~しましょ~!?」




 焦っているようで満足げな表情で、西園寺さんは高笑いをする。彼女が落としたのはまばゆく光る「地金(じがね)」つまり、「金の延べ棒」であった。わざとなのか事故なのかは分からない。しかし、それを見て驚いている僕らの顔を見て高笑いをしているところを見ると、恐らくその反応を見たいがための「()()()」だろう。なんてイヤミたらしいんだ!



 そして西園寺さんは同時に、さり気なくもう1つ自慢をしていたのだ。彼女が延べ棒を取り出した1つのカバン。それがエルメェスのブランド物であったのを、僕は見逃さなかった。いや、気付かないほうが良かったのかもしれない。その「さりげなさ」が余計に僕の悔しさを倍増させたのだ。




「いや~、この純金のインゴット、恐らく50万はくだらないでしょうから、大事に扱いませんとねぇ。ま、その程度のはした金、取るに足りませんけれど。」




 「50万」という数字に、僕らはさらに驚愕した。延べ棒の情報をいちいち口にして僕らに自慢してきているんだ。それをうらやましがる庶民の目を見て優越感に浸っているんだ!満足したのだろうか、西園寺さんはようやく延べ棒をカバンの中にしまう。



 しかし、見せしめはこれで終わらなかった。数分後、西園寺さんは再び何かを落とした。先ほどよりも軽めの音だったので延べ棒ではないと思い、落とし物を目視する。先ほどとは異なり、それは白く輝いていた。




「あぁぁらやだ!お次はアレキサンドライトが組み込まれたダイヤモンドリングを落としてしまいましたわぁぁ~~!!ま、120万ほどですから焦るほどではありませんが!」




 今度はダイヤモンドリングを落としたようだ。わざとらしすぎて余計にイライラする。はいはい、驚く僕らの反応を見て気が済んだら拾うんでしょ。




「ちょっと、あなた」




 西園寺さんはリングを拾うのではなく、目の前にいる女子に話しかけた。そう、安藤さんだった。




「あなたの足下にダイヤモンドリングが落ちているのだけれど、拾ってくださらない?所詮、庶民のあなたに触る機会なんてほぼ皆無でしょうから、光栄に思いなさい。」




 落とし物を拾ってもらおうとしているのに、西園寺さんは上から目線で安藤さんを煽った。




「・・・。」




 安藤さんはリングを拾うこともせず、また西園寺さんに反応することもしなかった。なんだかややこしいことが起きそうな、そんな気がしてきたぞ。


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