表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

SF系短編小説

宇宙に放り出された俺がゴリラに助けられた話

作者: マキザキ





だから何度言ったら分かってくれるんだ! 

宇宙人が助けてくれたんだって!

なに? 宇宙人と宇宙船の特徴を言え?

 さっきから言ってるだろ!




 西暦2140年。民間宇宙開拓業者の乱立期よりおよそ40年。

 JSVジャパンスペースヴィークル社の宇宙作業員である俺は、宇宙開発ターミナル建設の施工管理作業中、飛来したスペースデブリ群に巻き込まれ、漆黒の宇宙空間へ放り出されてしまった。

 宇宙作業服を着ていたとはいえ、所詮は短距離用。

 酸素ボンベの容量は申し訳程度しかなく、耐久性も良好とは言い難い・

 低下する酸素、スペースデブリによって徐々に破損する作業服。

 過去のやらかしや、嫌な思い出が走馬灯の如く脳裏を駆け巡り出し、


「せめて童貞は卒業して死にたかった……」


 等と、悲痛な感情が湧き上がってきた時。何かぼんやりとした、光のようなものが俺の目の前に現れた。

 救難艇……! 急に沸き上がった安心感のためか、激しい倦怠感に襲われた俺は、意識を失った。

 意識が途切れる寸前、何かものすごい力で引っ張られたような気がした。




■ ■ ■ ■ ■




「ホ! ホホホ!」

「ホハ! ウホホホ!!」


 俺はただ絶句していた。


 俺を助けてくれたのは、救難艇ではなく、宇宙人の乗った宇宙船……。俗に言うUFOだったのだ。

 だが、俺を含む多くの地球人類が抱いていた、先進の科学力や、高い知能、肥大化した脳と退化した四肢等、あらゆる宇宙人のイメージを粉々に砕く光景が目の前に広がっていたのだ。


「ホホホ! ウハハ!」

「ウホホ! フホ!」


 黒い毛に覆われた全身。

 長く、逞しい腕。

 あまりにも独特の声……。というか鳴き声。

 宇宙人の姿は、完全にゴリラだった。


「は……ハロー……」


 こちらをまじまじと見つめる宇宙ゴリラに、とりあえず俺は挨拶をした。

 なぜか英語で。


「ホ! ホホ!!」


 二人の片方、赤い目をしたゴリラが俺の方を指さし、もう一方の青い目をしたゴリラの肩をバシバシと叩いている。


「ウホ……」


 青目ゴリラは注意深そうに俺を見つめている。


「ハロー……コンニチハ~」


 とりあえず両手を上げ、敵意がないことを示す。

 何となく、それが伝わったのか、ゴリラ二人はこちらへ歩いてきた。

 意外にも、歩き方そのものは我々地球人類と何ら変わることのない、直立歩行であった。


「ホホ? フッホオ!」


 赤目ゴリラは、宇宙船の窓(?)から見える地球を指さし、その指を、宙に弧を描きながら、俺の胸へ当ててきた。

 あくまで俺の感覚だが、「あそこから飛んできたのか?」という質問のように思えたので、

俺は頭を縦に振ったり、同じジェスチャーをしたりした。

 相手もその意図を組んでくれたのか、ぎこちなく首を縦に振ってくれた。


「ホウ! ウッホウホウ!」


 青目ゴリラが地球を指さし、天井から下がっている、ツタのようなものにぶら下がった。


「キィー!キィー!!」


 そのままツタを激しく揺らし始める。

 同時に、赤目ゴリラは窓のすぐ傍にあるボール状のものをグリグリと回し始めたのだ。

 するとどうだ。後ろから押されるような感覚と共に、地球が徐々にではあるが、近づいてきたのである。

 最初は、その意味の分からない状況に唖然としていたのだが、地球が握りこぶし大の大きさになる頃には、俺も落ち着き、辺りを見回す余裕が生まれた。


 宇宙船の中は、ツリーハウスのようだった。

 床や壁は鋼鉄の如く固いが、木材のような筋が走り、天井からはツタと共に、木の実のようなものが垂れ下がっている。

 また、壁の一部に穴のような部分があり、そこから時折、何か光るものが飛び込んで来る。

 おそらく、俺はあそこから吸い上げられたのだろう。


「ホホ……。イフホホホ!」


 赤目ゴリラが、俺の傍まで寄ってくると、辺りをキョロキョロと見渡すと、俺の方をじっと見つめてきた。

 俺がしきりに辺りを見回すのを見て、その行動を不思議に思ったのだろうか。


「こっ……この宇宙船はどういうモノなんですか?」


 言葉が通じるわけもないが、俺は自分なりにその意図を伝えようと、身を振り、手を振り、質問をしてみた。


「ホ? ウホホ!」


 最初は不思議がり、木の実を渡されたり、変なポーズを見せられたりしたが、徐々に、その意図は伝わり、赤目ゴリラは目の前の壁に、木の実の白い果肉を使い、チョークの要領で何かを書き始めた。


 初めに一本の棒、そこに丸いモノが書き足され、その丸いモノの下に多数の線を激しく書き足していく赤目ゴリラ。

 俺の首を傾げる動作に、意図が伝わっていないことを感じ取ったのか、今度は棒を木のような形に書き直し、丸をいくつか書き足した。

 同時に、丸を指さしながら、天井からぶら下がる木の実を手に取って見せた。


「もしかして、木の実が宇宙船になるのか……?」


 俺も木の実を一つ手に取り、腕を木に見立て、腕から木の実が宙に放たれるジェスチャーをして見せると、


「ウホホ! ウッホウ!」


 と、飛び跳ねて見せてきたので、恐らくその通りなのだろう。

 納得してしまったが、衝撃の事実である。

 この宇宙には宇宙船をならせて、そこにゴリラを乗せて宇宙空間へ発射する木が存在するというのだから。


「ウホ!」


 天井で暴れていた青目ゴリラがドシンと降ってくると、宇宙船の壁を指さし、俺の背中をポンポンと叩いてきた。


「ウッホウ! ホウホウ!」


 同時に赤目ゴリラも俺の肩を叩き、その壁際へ俺を誘導し始めた。


「えっ! 何々!」


 青目ゴリラが、俺の胸に指をズイと当てると、地球に向かって指で弧を作った。

 赤目ゴリラは天井から大ぶりの木の実を取ると、一部を割り、その穴をしきりに指差し始めた。


「え! ここに入れと!?」


 青目ゴリラに背中を押されるがまま、俺は木の実の中に潜り込んだ。

 中には、先ほど見た、ボール状の物体があり、その真上には小さいながら、透明な窓のような場所があった。

 どうやら、宇宙船を実らせる木の存在は本当らしい。


「「ホホホホホホホホ!」」


 突然、目の前でゴリラたちがドラミングを始めた。

 何か猛烈に嫌な予感がしたので、俺は防護服の開閉部を全て閉じ、目を瞑った。

 直後、凄まじい衝撃が襲い、強烈なGに血液を圧迫され、俺は気を失った。




■ ■ ■ ■ ■



「だから! そういうことがあったんだって!」

「貴方の言っていることはあまりにも意味不明です。デブリ衝突の衝撃で意識を失い、夢を見ていたというのが現実的かと」


 俺が宇宙に放り出された際、俺のいたエリアが崩壊し、瓦礫撤去に65時間がかかったらしく、その間の俺の動向を知るものは誰もいなかった。

 その後、小型の隕石も衝突し、現場は大混乱だったそうだ。

 おそらく、その隕石とやらが俺の乗った木の実だったのだろう。

 その隕石が地球の引力で外れるのを待ち、建設作業が再開された際、俺が発見されたとのことで、俺の言い分を証明するものは、何も無くなってしまったのだ。


「今日のメンタルケアは以上で終了します。くれぐれもマスコミに妙なことをお話にならないようお願いします」


 なんとも人情の無い、メンタルケア部の人間に追い払われるように俺は医務室を後にした。

 どうも、俺は奇跡の生還をした宇宙作業員として祭り上げられているらしい。

社のイメージアップに繋がるということで、広報部は既に映画化の話まで始めているそうだ。

 やれやれ……。




 この地球には、自らの果実を海に流し、繁殖地を広げる木がある。

 また、遥か古代、大陸を渡り、生息地を拡大した民族もいると聞く。

 あのゴリラ星人たちも、そのような存在なのだろうか。

 我々は異星から飛来する存在を、我々の常識で測り、遥かに高度な科学力を持った生命体と考えがちだが、遥か広がる宇宙には、進んだ科学も、高度な知能もなく、恒星間飛行をやって見せる種もあるやもしれない。

 孤独な人類は宇宙に「隣人」を求めると言うが、その隣人が言葉の通じぬゴリラだと知った時、我々は何に孤独のはけ口を見出せばいいのだろうか。

 「宇宙に友達を探しに行こう!」等と書かれた、児童向けの広告が貼られたエレベーターの中、俺は柄にもなく、人類の将来を憂えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ウホぅ!ウホホ、ウッホホ!ホハ! [一言] 気のいい隣人?でしたね。 落ちた木の実はどうなったか木になる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ