クマノミメール
連載の合間に息抜き程度で書きました。
ゆったり読んでいってください☺︎
「イソギンチャクになってください。」
ある日突然、そのメールはやってきた。差出人は『カクレクマノミ』だった。最初は迷惑メールかと思ったが、興味半分で返信をした。
「どういうこと?」
すぐにメールは返ってきた。
「私、いじめられてるんです。カクレクマノミには、攻撃をする術がありません。だから、守ってくれるイソギンチャクを探しているんです。」
俺も返信をする。
「どうせなら、やっつけてくれるサメでも見つければいいんじゃない?」
「私は、誰も傷つけたくないんです。」
優しい子だな、俺なら絶対復讐してるよ。
「俺はイソギンチャクにはなれないけど、ナンヨウハギくらいにはなってあげるよ。」
ナンヨウハギは、ある話でカクレクマノミと仲良くしていた魚のことだ。
「嬉しいです。よければ私の話を聞いてくれますか?」
「いいよ。」
彼女曰く、いじめている相手の個人情報は出せないので、魚に例えているらしい。
クラスには熱帯魚グループというものがあって、クマノミもそこに所属していた。クラスの女子は熱帯魚たちを怒らせないように、日々頑張っていたらしい。
一方、そのクラスの男子は平和なもので、例えるならユラユラ揺れている海藻のようらしい。
最近、カクレクマノミは、クラスの人気者であるリュウグウノツカイに誘われて、2人で遊んだ。それを熱帯魚たちがひがんでいじめへ発展したそうだ。
クラスの女子は止めてくれるかと思ったら、熱帯魚たちが怖くて知らんぷりだそうだ。
ここで、わかりやすくカクレクマノミのクラスメートについて説明しよう。
【ターゲット】
カクレクマノミ(以下、クマノミ)
【熱帯魚】
ベタ
エンゼルフィッシュ(以下エンゼル)
グッピー
【人気者】
リュウグウノツカイ(以下リュウ)
【クラスの女子】
鰯
【クラスの男子】
海藻
リュウはとてもいい人で、クマノミは告白するつもりだったが、今はいじめが怖くて近づけないらしい。
俺はその日から、クマノミといじめへの対策を考えることにした。
「今日はエンゼルに教科書を隠されたよ.....」
「先生に失くしたって言えば、みんなに探すように伝えてくれるよ。なるべく、持ち歩くようにしてみたらどう?」
「なるほど!そういえばね、筆箱に鍵をつけたよ。今日見たけど、何も盗られてなかった!」
「今日はベタに上履きを盗られた。ゴミ箱の中から見つけたよ.....」
「上履きを持ち帰ってみたらどう?少し荷物はかさばるけど。」
「確かにかさばるね.....でも、盗られるよりマシ!」
「今は辛いかも知れないけれど、一緒に頑張ろう。俺はあまり力にはなれないけど。」
「そう言ってもらえて嬉しい、また明日も頑張るね!話を聞いてくれるだけで充分だよ?」
ある日、いつものようにクマノミメールを見ると、いつもよりウキウキした文章が綴られていた。
「最近、グッピーが私に優しくしてくれるんだ!もしかしたら、私のイソギンチャクになってくれるかもしれない!!!」
「それは良かった。ナンヨウハギよりずっといい。」
「イソギンチャクとナンヨウハギは違うもん!どっちもクマノミには必要だよ!!」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。」
俺は安心した。1人だと辛いけれど、誰か1人でも側にいてくれたら、クマノミも心強いだろう。このままいけば、いじめがなくなるかもしれないと、他人事ながらホッとしたし嬉しかった。
だがそれっきり、クマノミメールは来なかった
最初はたまたま忘れたのかとも思ったが、3日も来なかったのでいじめが解決したのかなと思った。ナンヨウハギのお勤めもここまでかな。でも、やっぱり何か一言くらいは欲しかったものだ。
1週間くらいたった頃、俺はクマノミメールを見返していた。少し思い当たることがあったのだ。
リュウはクマノミを遊びに誘ったと言っていたが、俺もメールをもらう少し前に、気になる女子を遊びに誘ったのだ。そして、最近何だかその子に避けられているような気もしなくない。
ふと、メールアドレスを見た。
kumanomi-nori@u.hardbank.zp
クマノミ、ノリ。最初は、海産物繋がりかと思ったが繋げてみると、『クマノミノリ』。
『熊野 みのり』は俺が気になっていて、最近避けられている子の名前なのだ。
偶然かもしれない。でも、確かめずにはいられなかった。
放課後は、熱帯魚グループを含む女子たちが、修学旅行のしおり作りの実行委員として教室で活動している。
俺は部活を早退したことにして、掃除道具入れの中に隠れていた。今日はとりあえず情報収集だ。
教室の鍵が開く音がする。
「ふぅ、間に合ってよかった。」
熊野の声だ。どうやら、教室の開け閉めは彼女の仕事らしい。この時点で、パシリにされていて少し腹が立った。
「おっ、やればできんじゃん?ク・マ・ノ・ミ!」
「多佳子ちゃん、その呼び方はやめて。」
やっぱり、クマノミは熊野だったのか。それにしても、なぜそれを渡辺たちが知っているのだろう。
俺は『あっ!』と声に出しそうになった。
渡辺 多佳子は、わたな《べ た》かこ。
ベタは渡辺のことだったのか!
じゃあ、田中 天使は、たなか 《えんぜる》。
エンゼルフィッシュは田中か。
残りの阿久津 日菜子は、あ《くつひ》なこ
ちょっと無理があるけど、グッピーか。
不謹慎だが、熊野はよく考えたなと思った。
「早くクマノミメール再開したかったらぁ、しおり作り進めようねぇ?」
「本当に一人で全部やったら、携帯返してくれるのよね?」
「もちろん返すわよ?それにしても、日菜子はよくやってくれたわぁ。」
「名演技でしょ?ちょっと優しくしたら家へ入れてくれちゃって!でも、メールのことまでペラペラ話しちゃうクマノミちゃんには.....そこまでしなくてもよかったかな?」
「本当うけるわぁ。まんまと携帯盗まれて.....あーかわいそぉ。だいたい、優斗くんに少し気に入られているからって調子に乗りすぎなのよ。」
やっぱり、俺が原因だったのか。クマノミには本当に申し訳ないことをしてしまった。
「そんなこと.....」
「はいはい、口じゃなくて手を動かそうね?」
「ていうか、そこの辺の女子たちは手伝ってあげないのぉ?」
「わ、私たちは.....ねぇ?」
「そ、そうそう。」
熱帯魚たちが怖くて、鰯ちゃんたちはおどおどとしていた。
「あっそう。クマノミ、人望ないのねぇ。」
クマノミは何も言わずに、しおりをホチキスでとめていく。
「あ、そうだぁ!頑張っているクマノミちゃんのために、甘いもの買ってきたの。」
「目を瞑って、あーんして?」
「え.....」
「早くやれよ。」
クマノミは言う通りに目を瞑って、口を開けた。
「あーんっ!」
ベチャッと鈍い音がした。
生クリームパイが、クマノミの顔面にベッタリとついていた。
「わぁ、美味しそーう。」
「ゲホッ、ゲホッ。」
「あ、残さず全部食べてね?」
「って、あーあ。せっかくのしおりがクリームだらけじゃない。また作り直しかなぁ?」
クマノミは今にも泣きそうだ。肩がプルプルと震えている。でも、少しづつ口の周りについた生クリームパイを食べている。俺はもう、身体中が怒りでドロドロなって熱かった。
「お利口さんだねぇ、私がお口を拭いてあげる!」
「天使、雑巾取ってきて?」
「おっけぃ、多佳子!」
そう言って、エンゼルが掃除道具入れの方にやってくる。
やばい、今来られたらバレる。いや、どうせバレるならここは少しいたずらしてやろう。
「あれ?開かない。」
だろうな。なんせ、俺が内側から引っ張っているから。
「うーんっ。」
全体重をかけているみたいだ、ならば今だ!
「きゃあ!」
扉が勢いよく開いて、エンゼルは尻餅をついた。
「探し物はこれかな?」
そう言って俺は、手に持った雑巾をプランプランと揺らしてみせた。
「ど、どうして?」
エンゼルは驚きや羞恥心、焦りでなんとも言えない顔をしていた。だが、俺は構わず続ける。
「全部聞いてたよ。」
「あ.....う.....」
「俺さ、そうやって影でこそこそやるの.....大っ嫌いなんだけど。」
「ご、ごめんなさい!最初はそんなつもりじゃ.....」
「謝るなら、俺じゃなくてクマノミに謝って?」
クマノミはポロポロと泣いていた。それは悲しみではなく安堵の涙だった。
「.....ごめん!」
「いいよ。でも、これからも仲良くしてよね?」
「うん。」
「あと.....これ返すね。」
「携帯、返してくれてありがとう。」
携帯を見て、俺は言わなきゃいけないことを思い出した。
「クマノミ。」
「なに?」
「イソギンチャクになりたい。」
俺の告白のセリフはこうだった。
今思うと、最初のメールはクマノミからの告白だったような気がする。
あ、そうそう。俺は小栗 優斗。
おぐ《りゆう》と。リュウグウノツカイにしたのは神秘的だからだってさ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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