変わりたい。
人は誰でも変わりたいと思っている。
変わる方法が違えど、変わりたい思いは同じ。
「ねぇねぇ、これ可愛くない?」
騒がしい昼休みの教室。
今日も私は、目立つ子達とつるんでいた。
「わぁ!ちょーかわいい!」
「ほんとだー!かわいい子猫だぁ」
理由は1つ。目立つ子達とつるんでいれば、いじめられないから。
小学生も中学生もいじめられてきた。
「ねぇねぇ、美里もそう思うよね?」
みんなが私を見る。
「かわいい」って言えよ?という言葉が顔に書かれているみたいだ。
「う、うん。すごくかわいいね」
私は犬の方が好きだ。
「だよねー」
行動も言葉も全部、みんなと合わせなければいけない。
強いられる言動…
いじめられないけれど、それはとても辛いことだった。
みんなに合わせるということは、自分自身を殺すこと…。
辛くて痛い。
せめて、目立つような人だったらこんな思いはしなくて済むのだろうか。
変わりたい。こんな思いはしたくない。
でも、変われるはずがない。
「あ、そうだ。あれ知ってる?」
みんなの言葉が右耳から入って左耳から出ていく。
「なになに?」
「ほら、今はもう潰れた遊園地」
「あぁ、なんか出るんでしょ?」
「そうそう。そこのミラーハウスに入った人が全く違う性格で帰ってきたんだって」
「こわーい」
その会話は頭の片隅にも入らなかった。
どうでもいい。興味が湧かない。
昼休み終わりのチャイムが鳴り、みんなは席に戻った。
私も席に戻り、授業の準備をした。
授業を受けながら、最近成績下がったなと心の中で呟いた。
夕暮れの放課後。
今日は廊下掃除の当番だった。
もちろん、私以外いない。
掃除が終わり、箒を教室のロッカーに戻そうとした時だった。
教室からクスクスと笑い声が聞こえた。
私は教室の扉を少し開けた。
いつも、つるんでる目立つ子達だ。
みんな、私に気づいていない。
「ねぇねぇ、美里うざくない?」
「それな。なんかノリ悪いし」
「ぎゃははは」
私は下唇をぐっと噛んだ。
じゃあ、どうすればいいんだ。
どうすれば、みんなから嫌われない?
「そうそう。そこのミラーハウスに入った人が全く違う性格で帰ってきたんだって」
頭にふと、昼休みの会話が浮かんだ。
そうか。簡単じゃないか。
私はニヤリと笑った。
そのことだけを考えていて、家までどうやって帰ってきたのかは覚えていない。
ただ、家に帰ってからスマホで場所を調べたことだけは覚えている。
親には友達と遊んでくると夜の9時に家を出た。
場所は隣の県だった。電車を使い廃遊園地まで辿り着いた。
ただ、頭はほぼ動いていなかったようにも思う。
ボロボロの遊園地の看板が目に入る。
看板だけでなく柵もボロボロだった。
私は立ち入り禁止の柵を飛び越え 一目散にミラーハウスへと向かった。
園内は暗くスマホの明かりを頼りに向かった。
全部がボロボロで、普通の人から見れば気味が悪いと思うだろう。
でも、私には怖いなんて感情なかった。
ただ、変われるという喜びが身体中に伝わる。
何かの物音や奇声が聞こえた気がする。
それでも足を止めなかった。
「ここだ」
ミラーハウスの目の前までやってきた。
私はミラーハウスの中へ足を踏み入れた。
ひんやりと肌寒い。背中がゾクっと震える。
一歩一歩進めば進むほど、鳥肌が止まらなくなっている。
それでも、変わりたい。変わらなきゃ。だって、だって、キラワレタクナイ
私を取り囲むように鏡がある。
あぁ、これで変われる。
私の目から涙が零れ落ちた。
違う。これは違う。本能が叫び出す。
私の目からは次々と涙が出てくるのに、なぜか鏡の中の私はニタリと笑っていた。
あぁ、もう手遅れなんだ。
涙で何も見えない。
ただ、心にナイフが突き刺さる感覚があった。
痛い。熱い。
私の頭の中が真っ白になっていく。
嫌だ。嫌だ。
意識はもうほぼない。
怖い。怖い。
床にぺたりと倒れた。
意識はもうなかった。
それからの記憶は何もない。
ただ、自分の部屋のベッドにいた。
どうやって帰ってきたのか。
それとも夢だったのだろうか。
私は起きあがり、学校に行く支度をして家を出た。
「ねぇねぇ、これ可愛くない?」
騒がしい昼休みの教室。
今日も私は、目立つ子達とつるんでいた。
「わぁ!ちょーかわいい!」
「ほんとだー!かわいい子猫だぁ」
「ねぇねぇ、美里もそう思うよね?」
みんなが私を見る。
「かわいい」って言えよ?という言葉が顔に書かれているみたいだ。
「犬の方がかわいいと思うけど」
私は犬の方が好きだ。
みんなが私のことを睨んだ。
私はニヤリと笑った。