秘密とミルク
お久しぶりです。
空を黒く染めた雲から雪が舞い落ちる。
少しずつ舞い落ちる。
やがて雪は俺にも七海にも落ちて、消えていった。
「今の音は・・何?」
ジーッと俺の目を見つめる七海。
──誤魔化せない、直感的にそう思った。
あまりにも見つめてくる瞳が綺麗で・・・まるで俺の心を見透かしているように見えたから。
「何の音・・・だと思う?」
質問に質問で返すのは卑怯だと思う。
・・試したかったんだ。
コイツがどんな回答を口にするかを──。
「悲しみの音。実際は鉄類の音な筈だけど私には悲しみの音に聞こえた。」
「・・・・そっか。」
まるで同じだった。
アイツが答えてるんじゃないかって思う程に同じだった。
「障害者。」
「え?」
真剣な表情から一転し、驚きの表情になる。
「だ・か・ら!俺は障害者なの。」
「い、いきなり何を言ってるの?」
右足のズボンを上にメクる。
露わになるの右足に彼女は息をのむ。
「昔・・事故って右足ないんだ。」
「義足・・?」
「正解。」
露わになった右足は機械た。
錆びにくく軽い鉄類で作られた人工的機械足らしい・・・。
俺も詳しくは知らない。
「さっきの音はコイツが出した音だ。」
少ししてから七海は悲しそうな表情になった。
でも俺の嫌いな視線は向けてこなかった。
『同情』
義足を見た人間は大抵この視線を俺に向けてくる。
俺はその視線が嫌いだ。
だけど七海は俺に同情していない。
それだけが嬉しかった。
「・・・全然気づかなかった・・・。」
「だろうな。俺の義足は特別製だ。神経が義足と繋がっているから思い通りに動くからな。そのおかげで親友以外の生徒は誰も俺が義足だなんて知らない。」
思い通りに動くとは言え長時間動かすことは体に負担がかかるため体育はドクターストップなのだ。
「じゃ・・私が知っている人第2号なんだ?」
──え?何で?!
「何がそんなに嬉しいんだ?」
彼女は笑っている。
先程の気まずい雰囲気を吹き飛ばす程に・・・笑っている。
「貴方と私に『秘密』って言う特別な繋がりができたから。」
「なっ!?・・・恥ずかしくないのか?」
「何が?」
・・天然?
あんな恥ずかしい台詞を吐いていて・・『何が』って・・。
ため息を吐いてからズボンを元通りにする。
「帰る。」
それだけを伝えて歩き出す。
「ま、まって!一緒に帰ろうよ。」
「はいはい。」
「お前家ドコ?」
自宅をもう目で捉えた俺は七海に質問をする。
辺りはもう暗い。
遠いのなら送っていった方が良いだろうと判断した上での質問だ。
「あれ?聞いてないの?」
そんな俺の考えを知らない彼女は理解不能な事をおっしゃったのだ。
「・・・何を、誰に?」「私の家を小百合先生にだよ。」
俺が首を横に振ると彼女は目を丸くした。
所謂、『マジで?!』って言う目だ。
「茜君はさ・・何で自分が学校案内役になったか知ってるよね?」
「サボった罰だろ?」
哀れみの目で俺を見るな。
「本当に小百合先生から何にも聞いてないんだね?茜君が案内役に抜擢した理由はね、放課後までかかる学校案内の後に一緒に帰れるように先生が考えたからだよ。」
言い終えると七海は立ち止まった。
そして右手をスッ・・と上げ、右側方を指差す。
「私の家は此処。」
「・・・・。」
七海の住む家を見て、言っていた意味を理解できた。
昼休みだけじゃ終わるはずない学校案内。
放課後、終わった後に彼女と違う方向に帰る生徒より同じ方向に帰る生徒を選んだ方がいい。
隣のアパートに住む俺は『役』にうってつけだったわけだ。
「そう言う事か・・。」
「そう言う事だね。」
ニコッと笑う彼女。
コイツ・・よく笑うよな。
「あ!ちょっと待っててね!?」
そう言って、玄関に消えていった彼女。
・・・・何が起きるんだ?
待つこと数分。
彼女が家から出てきた。
両手に何かを抱えて・・・。
「はい。」
渡されたソレはとても可愛い・・・・
「ニャー。」
白い毛並みの子猫だった。
人懐っこいな。
全然暴れねぇーや。
「茜君、思い出した!?」
ズイッと体を近づける七海。
彼女の顔との距離は僅か数センチ。
良く見ると・・・なかなか可愛い・・じゃなくて!!
「ねぇ思い出した!?」
「・・・近い・・な?」
「え・・・・あわわわ?!」
素早く離れる七海。
顔が一気に真っ赤になった。
あ、耳まで赤いや。
「っで、なんだっけ?」
「あぅ・・だから・・その子猫見て何か思い出さない?」
「・・・・?」
視線を完熟七海から腕の中の子猫に移す。
・・・・寝てる。
気持ちよさそう寝てるね。
ってオイ!
この子猫は・・昨日助けた子猫?
「お前さぁ・・昨日木を登ろうとしてたりした?」
「うん!ようやく思い出したんだね?」
「あぁ。」
その後の思い出したくない事もついでにな。
「だから私と茜君は今日が初対面じゃないんだよ?」
「おう・・・。コイツの名前決めたのか?」
「決めたよ。白いから『ミルク』だよ。ちなみに女の子。」
「ミルク・・。」
名前を呟くとミルクは目を開けて、俺の顔をのぞき込んできた。
「とりあえず返すな。」
「あ、うん。」
ミルクを七海に引き渡す。
「晩飯の用意もあるから俺帰るな。」
「今日はありがとう。」
「あぁ、じゃまた明日。」
「また明日。」
彼女に見送られながら俺はアパートの部屋に帰った。
晩飯を作ろうとしたが・・思いのほか疲れていたようで、風呂に入ってからすぐに寝てしまった。
また・・悪夢を見てしまうと知りながら・・・。
茜が義足である理由はまた後の話で分かりますでお楽しみにしてまっていていただけると嬉しいです。