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雪と転入生

「体の調子はどうかね?」


笑顔でそう聞いてくる白衣を身に纏った中年オヤジ。

首には荒木弘則(あらきひろのり)と書いてある名札をぶら下げている。


「時々右の握力がなくなります。」

「そうか・・。どの位の間隔だね?」

「極まれでしたが・・最近は早くなった気がします。」

「ふむ・・脳内をチェックしておこう。隣の部屋へ。」


荒木先生の表情が僅かに強ばったのを俺は見逃さなかった。







〜雪と転入生〜







病院での診察を終えた俺はそのまま学校に向かった。

教室の前につくと時計の針は2限目終了10分前を指していた。

さて・・・目立つのは余り好きじゃないんだけどな・・・。


「おはようござんす。」


ドアを開くと同時に挨拶をする。


「あはよう茜君。早く席に着いてください。」


教卓の前に立っているのは担任の水沼小百合(みずぬまさゆり)先生。

美人で24歳の独身。


そう言えば今日の2限目は古典だったな・・・ツいてねぇ・・。

椅子に座る。

視線を感じる。

前を見る。

先生は俺を見ていて、視線が合うとニコリと笑った。


「では遅刻してきた茜君には私の出す問題に答えてもらいましょう♪」


うっ・・・マジかよ・・。

ちなみに古典は俺の苦手教科なのですよ。


「そうですねぇ・・源氏物語の主人公は──」

「光源氏っす!」


これは・・楽勝♪


「ですが♪」


なぬ!?

フェイク!??


「羅生門を書いたのは誰でしょう?」


源氏物語も主人公も関連性0カロリーかよ!!


「分か──」

「仕方ないです。ヒントは『あ』で始まり、『け』で終わります。」


分からないと言っているのに・・・・。

『あ』で始まり、『け』で終わる・・・・。

考える。

ない頭をフルに使う。

しかし、ない頭をフルに活用しても意味はなく、答えは分からない。


もう・・どうにでもなれ!!


「あ、芥川竜之介!」


──シーン・・。

ん?

・・・何ですかこの空気?


「小癪にも正解です。」


ハハハ・・そう言う事ね。

普通に答えちまったからツマラナくてシラケたわけね・・チクショウ・・・。

くっ!クラスメートと担任からの視線が痛い・・。

そんな中、授業終了を告げるチャイムが教室に響きわたった。


「あらあら、チャイムが鳴りましたので終わりまぁす。」


切り替え早!!

小百合先生は颯爽と教室を後にした。

そして颯爽と俺の前に野郎が姿を表した。


「おはよう、空気を読めなかった茜さん。」

「・・・・おはよう。」


もちろん総司だ。

あ、皆の視線が無くなった。

『てめぇら切り替え早すぎだって』と思いつつ安堵する俺。



「雪・・・降らなかった・・。」

「あ?あぁ・・そうだな・・。」


窓越しの空は曇ってはいるものの雪も雨も降ってはいない。


ちなみに昨日、照る照る坊主は作ってませんから!

さらに言えばマッハで総司を部屋から追い出しました!


「なんだアレ?」


気づけば斜め前の机に群がるクラスメート達。

まるで獲物をロックオンした肉食獣のような眼光を放っている。

おもに男子が・・・だ。


「転入生に質問しているんだよ。」

「へぇ〜・・。」


転入生がいたんだ・・?

全く気づかなかった・・。


「どんな奴?」




・・・何だよその笑みは。


「可愛い女の子だよ♪」

「ふぅ〜ん・・・。」


・・・・興味なし。

チラリと時計を見て時刻を確認。

鞄の中からビニール袋を取り出す。席を立ち、歩きだすと無言で総司も付いて来た。


「お前も来るのか?」


総司の手には弁当が握られている。

この時点で答えはイエスなんだろう。


「ちょうどお腹減ったしね。」













「また来たのか?」


中に入ると呆れ顔でそう言われた。

声に出したのは、髭を生やしたこのオッサン。

名前は河野翔太(かわのしょうた)先生。

先生と言っても保険室の先生だ。


「いいじゃん別に。?」

「全く・・・メシ落とすなよ?」

「「はぁい。」」


背中を向け仕事を始める須山先生。

少しこの先生に触れておこう。

小百合先生に恋する32歳独身。

俺達からは『ヤッサン(親父さんの意)』の愛称で親しまれている。

以上!!

小百合先生とは、まさに美女と野蛮人だ。

間違った、野獣だ。

「いただきまぁす♪」


総司は既に弁当の蓋を開けて、食べ始めている。

俺もコンビニ袋からオニギリを1つ取り出し、食べれるように周囲のビニールを剥がす。


「よし。いただ──」


ボトッ・・・・。

床にはさっきまで右手にあったオニギリがある。

俺の視線の先には小刻みに震える右手。

また・・握力が無くなった。

イヤな汗が体中から吹き出る。


「もう・・何やってんのさ。」


─ビクッ・・


床に落ちたオニギリは総司がヤッサンに気づかれないように急いでビニールに突っ込んだ。


「気をつけ・・茜??」

「な、何だ?」


眉間に皺を寄せた総司が俺を見てくる。


「顔色悪いよ。気分でも悪い?」

「大丈夫だ。早く飯食おうぜ?」


逃げるように別のオニギリを右手でつかみ取る。

──しまった!と思ったが右手はいつものように力は入り、動いてくれた。


「本当に大丈夫?」「心配し過ぎなんだよ・・。」

《ピンポンパンポーン♪》


スピーカーから音が発せられる。

何だろうな?

ま、俺には関係ない─


《1ー3の茜君・・今すぐ職員室まで着てください。》


「あ〜ぁ期待裏切るなよ、チクショウ!!」


スピーカーからした声は間違いなく小百合先生だ。

・・・イヤな予感がしてたまらねぇ・・。


「ドンマイ茜。」


爽やかな笑顔が勘に障るぜこの野郎!


「茜〜!貴様、何をした!何で小百合先生に呼び出された!?」


ヤッサンがウルサい・・。


「サボリがバレたとしか思えねぇー。」

「く・・サボると小百合先生に呼び出されるのなら・・俺も仕事をサボれば・・・フッフッフッ・・」


ヤッサンを無視して出て行ったのは言うまでもないだろう。












いい加減、足が痺れて痛い・・・。


「反省しましたか?」


椅子に座り、優雅に珈琲を飲む小百合先生が素敵な笑顔で俺を見下す。


「したした!だから・・もう正座といて良いだろ!?」


呼び出されて職員室に入ると額に青筋を浮かべた小百合先生様の命によりザ・正座をさせられたのだ。

あ・・・足が・・。


「まぁいいでしょう。」


速攻で足を崩す。

はぁ〜・・極楽極楽。


「あ、来たみたいですね・・。綾瀬さん、こっちですよぉ♪」


小百合先生は誰かに手を振っているようだが興味なし。

足の痺れをとることが優先だい。


「すいません遅れてしまいました。」


走ってきたのだろう、息が乱れている。


「良いのよ。まだ慣れてないからしかたない事よ。それでは茜君。」

「・・・何?」

「罰として綾瀬さんに学校案内してあげて。」

「いやいや罰って、正座したじゃん・・。」

「あんなもの罰のうちに入りません。」


小百合先生って俺の事嫌いなんでしょうかね・・。

実に悲しい。


「では私は仕事があるから宜しくね。」


そして職員室を強制退場させられた俺と女子生徒。


「ひとまず・・アンタ誰?」


さっきから抱いていた疑問を口にする。


「今日この学校に転入してきた綾瀬七海(あやせななみ)です。クラスは1−3です。」

「・・あ・・・。」


刹那

頭の中のスクリーンにアイツの笑顔が映し出された。


「・・・あのぅ・・どうかしましたか?」

「え?・・・いや・・。良い・・名前だな。」

「あ、ありがとうございます。」

「じゃ・・行くか。」


心配そうに見てくる綾瀬から視線を外し、歩き出す。

少し遅れてトコトコと綾瀬が付いて来る。


「・・・名前を・・教えていただけませんか?」

「綾瀬がその他人行儀を止めるならな。」

「え・・・分かった止める。だから教えて。」

「須藤茜だ。ほら、昼休みの時間すくねぇんだから急ぐぞ?」

「うん!」
















「っでここが体育館だ。」

「わぁ〜大きいんだねぇ!」


昼休みだけでは校内全てを案内し終わることができず、結局放課後の時間もつかう羽目になった。

そして今案内した体育館でコンプリートだ。


「なぁ綾瀬・・」


瞬時にキッと睨んでくる綾瀬。

・・・何故に?


「綾瀬じゃなくて七海って呼んでってさっきも言ったじゃない!」


・・その事ね・・。


「あや──」

「な・な・み!」


尚も睨む綾瀬。

確かに俺は他人行儀を止めれと言ったのは俺だが・・・だからと言っていきなり名字じゃなくて名前を呼べと言うとは・・・。


「・・七海。」

「なぁに??」


名前で呼ぶと笑顔になる綾瀬。

なんか・・コイツ苦手だ。

まるで総司並みに扱いが難しい。

・・っとコレは横に置いといて・・・。


「前に俺と会ったことないか?」


そう・・・あや・・じゃなくて七海の顔を前に見たことがある気がする。




「ふむ・・良かったら今から家に来ない?」

「はい?」


脳がぶっ飛んでんのか?

本気でそう思うぞ。


「答えはそこに居るよ。」

「・・・。」


意味が分からない。

しかも答えがあるんじゃなくて居るのか?

て言うかやっぱり会ったことあるんだよな?


「よし、では家までレッツゴー♪」

「わ、ちょっと待──」


七海は俺の手を掴み走り出した──マズい!

そう思った時には遅かった。



俺は右膝から地面に倒れた。

ガシャンと人間の体から出るはずのない音をたてて・・・。


「・・今の音は・・なに?」


顔を上げると驚きの表情の七海と小さな白い物体が視界に入った。


「・・・・。」

「・・・・。」


沈黙が2人を包み込む。

頬に落ちた雪がヒヤリと冷たくて、それが悲しかった。

何故か【光】より更新が早い・・・・。

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