九野衣更着に明日はない ローグワン
九野衣更着。
彼の今の肩書きは、「男子校生」だ。
通う学校にいる生徒の千五百人、全員が男子という、まるで、地獄よりはるかに地獄なのではないかと疑ってしまいそうになる一輪の花も無い高校生活を送っている。
どうして君は、その気の狂うような悪夢に耐えられているのかと問われれば、彼には中学生の時から恋人関係である女の子がいるから、おそらくそう答えるだろう。
遡り、中学生の頃は、苦手だった勉強をよく助けてもらっていたが、高校生活においては、衣更着の心に咲く一輪の赤いスイートピーとして、精神的に、性神的に日々助けられている、そんな今日この頃。
衣更着の通う男子校は、某有名私立大学の付属校であり、彼女と出会った当初は、目も当てられないほど勉強が苦手であったが、男子特有の、あの時折見かける、「受験期、気合を入れると突然、学力が伸びる謎のあれ」が衣更着に起こり、気づけば、遥かに勉強の出来た彼女を優に追い越し、誰もが知っている名の通った大学付属校に合格したという流れとなる。
ともあれ、住めば都、男子校という異文化社会にも慣れつつある。
飛び交う下ネタをキャッチアンドリリースし、彼女持ちに対するこの世の限りを尽くした罵詈雑言を華麗に避ける。
風当たりは厳しいけれど、なんやかんや男子校生っていい奴が多い。
みんな、早く貰ってあげてね、狙い目だよ。
そんな、無理やり強制された宣伝はさて置き、この物語は、知らない事は恐ろしい、というもの。
今までに起こらず、起こり得なかった、故に、それを知らなかった。
知った気になっていた。
知らず、触らず、そんなものを初めて知った時、人は、それに対しどう反応するのが正解かをも知り得ていない。
これは起こった事象に対して、対応できなかったが故に生まれ、死んだ悪夢の話だ。