狐火灯莉は作らない NO.1
動かずとも必然的に汗ばまざるおえないほどの強い日差し。気づけば今は、夏休み直前、7月。
まだ学年が変わり、新しいクラスになってから間もないと思っていたのだが、あっという間に一学期が終わろうとしている。
先週にまるで、永遠に続く地獄かと思った期末試験が終わり、勉強から解放された我々、生徒一同は、一応学校に来て授業は受けているものの、後は夏休みを待つばかり、といったところである。
六時限目の体育、サウナのような体育館でバスケットボールをこなした後、ガンガンに冷房をつけておいた教室で着替え、帰宅の準備を進めながら、友人との談笑に花を咲かす。
「ねえねぇ、コンさんコンさん、彼氏くんと最近どうなのさ。進展とかないわけ??」
毎日のようにされているこの質問。
いい加減うんざりしてくるぜ。
進展などあるものか。
あるわけがない。
二年間以上も付き合っていれば行くとこまで行くし、高校生同士の恋愛なんて、そうたいした事が起きるわけでもない。そんな、週刊少年ジャンプのように毎週毎週、熱い展開が訪れると思ったら大間違いである。なんだ、ウチが妊娠でもすればそれは進展と呼べるのか。
いや、高校生での妊娠は、それではもはや後退だろう。
「あ、コン。スマホに通知きてるぞー。」
「なになに、ウワサをすれば、ウワサの彼氏くんか。見せてみ見せてみ。」
「あ、勝手に取るな。勝手に触るな。勝手に見るな。」
全く、なんて非常識なやつらなんだ。
人のスマホを、はたまた、人の彼氏とのトークを勝手に見ようなど常識のある人間からしたら考えられんぞ。
考えが及ばんぞ。
彼女達はコンの必死で決死な反抗を振り切り、スマホのロック画面に表示されているメッセージの内容を見た。
ーーーふと、ふざけていた周りの友人の表情が曇る。
そうして、油断した隙に愛しのスマホを取り返し、一体、誰からどんな連絡が来ていたのかと目を通す。
「差出人:彼氏母>
宛先:コン
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件名:
14:47
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学校を終えたら、急いで錦野総合病院に来てください
」
それは、彼の母からであった。
一応、中学から二年以上の付き合いともなると両家公認、家族ぐるみの仲にはなっていた。
そんな、仲の良い彼の母からのメール。
いつもの事なら、たくさんの絵文字、顔文字をふんだんに使った、若く見せようと言う魂胆が見え見え丸見えな明るいメールのはずなのに、今来たメールは、どこか、そんな余裕が感じられない素っ気ないものになっていた。
事態はそんなに深刻なのか。
おそらく、彼氏の身に何か問題が起きたのだろう。
どんな大怪我をしたのか。
骨折かな、それとも体育で熱中症。
当然のことながら、とても心配になってくる。
そりゃ、曲がりなりにも大切な彼氏だし。
「ごめん、ちょい急ぎの用事ができたから。お先に帰るね。また明日。」
コンを見送るそれぞれの笑顔は引きつっていた。明るく笑えるはずなどなかった。何せ、不可抗力はいえ、コンに訪れた、確信はないがおそらく不幸の知らせであろうそのメールを見てしまっていたのだから。
「彼氏くん、大事無いといいね……。」
ポツリと吐いたそれは、既に教室を駆けて出て行ったコンには届かなかった。