狐火灯莉は作らない ローグワン
狐。狐火灯莉。彼女を知る多くの人間には、親交の意を込め、愛称として「コン」とか、「コンちゃん」と呼ばれている。
学校での交友関係はかなり広く、男子からは、その可愛らしい容姿によって、転じて本来、男子人気が高いと女子からは、忌み嫌われがちなはずではあるが、その時折垣間見せる男勝りな性格によって男女を問わず好意を抱かれている。
もはや、愛されていると言っても差し支えないかもしれない。
いたって普通の女の子であり、何かと言って秀でたものは無いものの、広い交友関係からなのか、学校では指折りの有名人である。
昨年の体育祭でクラスリレーにつき、走行途中ですっ転び、左膝から下をダラダラと流れる鮮血により紅色に染めながらも次の走者にバトンを渡したその姿は、一年経った今でもまるで、学年問わず、英雄さながらに語り継がれている。(半分は笑い話としてだが。)
そんな百戦錬磨なコンには恋人がいた。
が、いた。
強調したそんな言葉の通り、今はいない。
フリーである。
独り身である。
その元彼氏とは遡ることコンが中学二年生の時、たまたま席が隣になったから、そして、彼がたまたま勉強が苦手であったから、その時の定期テストへ向けて手取り足取り勉強を教え手伝った結果、彼氏がコンに惚れ、猛アタックを受けることになり、半ば仕方なく交際に至ることとなった。
しかしながら、それから気づけば二年間もの長い期間、二人は恋人関係を続けていた。
高校進学の際、彼氏は男子校へ進学し、学校自体は離れ離れになってしまったものの、定期的という言葉では足りないくらいには会っており、はたから見ても、それはそれは仲の良いカップルであった。
そんな順風満帆で幸せだった二人が、変えようのなく、逃げようのない理由から別々の道を歩むことと相なったのが現在から約二週間前の事になる。
突然訪れたそれに立ち向かうのは容易なことではなかった。もはや、不可能まであった。
二週間前、コンは恋人を失った。
二週間前、彼氏は生命を失った。
二週間前、二人は幸せを失った。
学生としては長い部類に入る二年間という時間の中で、いくら確固たる関係を築いていたとしても、人間、死からは決して逃れることはできなかった。
この物語は、コンの元に恋人が亡くなったという情報が届き伝わる所から始まる。