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れびびーる  作者: 真草
第一章
8/15

 校舎の中も、外観に相応しく、とても綺麗だった。壁には、高そうな絵画が等間隔で掛けてあり、階段の踊り場には、有名作品のレプリカの銅像が置いてあった。しかし、内装の豪華さを除けば、そこに広がっている日常は、いたって普通の高校と何ら変わりはない。廊下には、教師の声と、チョークと黒板とがぶつかる音が響いている。生徒たちはみな、教師の話を真剣に聞いていた。


「うわー、みんな真面目ですねえ。さすがは、超有名進学校。賢そうな子ばかりですね」

 扉についているのぞき窓から教室の中を眺めている白砂が、感心したようにつぶやいた。


 ザクロはそんな白砂を置いて、ひとり先へと進んでいく。しばらくして、それに気付いた白砂は、すぐにザクロを追っていき、自分を置いて行ったことに対しての怒りをぶつけていた。


「保健室にいるってことは、体調が悪いんだろ? 大丈夫なのか、そいつ」

 しかし、白砂の口から放たれる不平不満の数々を、全て無視して、ザクロは尋ねた。


 いまザクロたちは、校舎の三階にある、保健室を目指していた。どうやらそこに、ザクロが担当する赤城葵はいるらしい。


「体調が悪くて保健室にいるわけではないらしいので、大丈夫でしょう」

 まだ口の中に不満がたまっているのか、少し頬を膨らませて、白砂が答えた。


「じゃあなんで保健室に? さぼりか? こんな学校でも、そういう人間はいるんだな」

「いやあ……まあ、さぼりって言ったら、さぼりですけどねえ……」


 どことなく、歯切れが悪そうに白砂が話す。その態度に、ザクロは内心首をひねったが、保健室と書かれたプレートが前方に見えてきたので、そちらに意識を向けた。


 ドアを開けることなく、ザクロたちは保健室の中へ入った。部屋の広さはなかなかのものだが、ザクロが持つ、一般的な保健室のイメージと大きくかけ離れたものではない。しかし、入って右手に並んでいる五つのベッドは、すべて豪華なつくりで、よく見れば、ここの壁にも何枚かの絵画が掛かっている。一般的な高校の保健室とは、やはりどこか違うようだ。


 その並んだベッドの一番奥に、制服姿の少女がひとり。枕を背もたれにして、ベッドのヘッドボードにもたれかかっている。手には文庫本。カバーがしてあるため、タイトルは分からない。


「ほらほら、ザクロさん。あの子ですよ、ザクロさんが担当するの! うわー、めちゃくちゃかわいいですね。スタイルも良いし、髪型もかわいい! 性格も善さそうだし、ザクロさん、大当たりですね!」


 やや興奮気味に、白砂が語る。見た目だけでは、性格の善し悪しは分からないだろう、とザクロは思ったが、それに関しては、何も言わないでおいた。


「で、ついに担当の人間と巡り合えたわけだけど、これからどうするんだ? まさか、これからずっと、この少女についてまわるのか?」

「いや、ずっとついてなくても、一応は大丈夫ですよ。これからは、転送装置で、彼女のすぐそばに飛んでくることが可能になります。それに、パライソからでも、モニターを通して、彼女が現在いる位置だけは確認することができます。なので、それを見て、彼女がここを動いたら、またここに飛んできてもいいですしね」


「なんだ、そうなのか。じゃあ、もう帰ろう。しばらくは、ここで本を読んでるだけだろ」


 そう言って、保健室から出て行こうとするザクロを、白砂が引き留めた。


「いやいやいや、ザクロさん、駄目ですよ。初日ぐらいは、ずっと彼女のそばにいてあげましょうよ。仕事にも慣れないといけませんし……」

「なんで? 悪いことしたら、この紙に書き込むだけだろ。簡単じゃないか」


 ザクロは、保健室に向かっている時に、白砂から渡された紙を取り出す。その紙の上部には、ザクロ本人の名前と、担当である赤城葵の名前が書いてある。そして、その下に余白があるだけの、シンプルなデザインの紙だった。


「駄目です。もしかしたら、分からないことがあるかもしれないじゃないですか。私は、いつまでもザクロさんと一緒にいるわけじゃないんですからね。今のうちに、分からないことはなくしておいたほうが良いでしょ」

 白砂はまた、人差指を立てて、ザクロに微笑んだ。どうやら、このポーズが気に入っているようだ。


 そんなやりとりをしていると、ザクロの背後のドアが開いた。そこには、白衣を着た女性が立っていた。ザクロの体を通って部屋の中へと入ってくる。服装からして、この学校の校医といったところだろう。胸のネームプレートには宮之浦凛(みやのうらりん)と書かれている。化粧を全くしていないようだが、それに頼らずとも、人を魅了するのに十分な美貌を備えている。まだ若いように見え、20代半ばといったところであろう。茶色に染まった髪を後ろで縛って、ポニーテールにしている。


 葵は、その女性を一瞥して、すぐに視線を本に戻した。


「あらあら、葵ちゃん、来てたの。今日はもう来ないのかと思ったわ」

 どことなく嬉しそうに、宮之浦が葵に話しかけた。


「今日は天気が良かったので、公園に寄ってたんです。だから、少し遅れました」


 葵は、宮之浦のほうに目を向けることなく言った。宮之浦は、そのことを特に気にしていないようで、葵のほうを見て少し微笑んだ後、自分の机に座り、何か作業を始めた。


 ザクロは少し迷った後、結局、今日は自分の担当であるこの少女につきあうことにした。これから何年、いや何十年も、彼女についてまわることになるのだ。どんな人間なのか知っておいても損はないだろう、という考えだった。


 こうしてついに、ザクロのベールとしての仕事が始まったのである。


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